苦節13年でブレイク 新潟のご当地アイドルNegicco
飾らない姿、共感呼ぶ
結成から13年、新潟在住のアイドルユニット、Negicco(ねぎっこ)がブレイクしつつある。4月に中野サンプラザでの公演を成功させ、7月末にはNHKホール(約3800席)でのライブに挑む。
13年の説得力が生む共感
5月に発売したアルバム「ティー・フォー・スリー」。曲調は、生楽器の音を多用した、落ち着いたテンポの曲が主だ。ジャズ、ヒップホップ、ソウルなど様々な音楽の要素を混ぜた音作りは、音楽ファンからの評価が高い。
先行シングル「矛盾、はじめました。」では「真夜中/あの子のSOS/持ち寄った/コンビニの/缶ビール/シュークリーム」というように、大人の女性が過ごす、何気ない日常風景をしっとりと歌う。メンバー3人は「どこに出しても恥ずかしくない」(リーダーのNao☆)、「同世代の女性に『共感しました』と言ってもらえることが多くなった」(Megu)、「13年やってきた、今の自分たちだからこそ説得力のある歌」(Kaede)と手ごたえを感じている。オリコン週間ランキングは8位になり、出すシングルはコンスタントに10位以内に入るようになってきた。
これまでの道のりは平坦ではなかった。Negiccoは2003年、JAが売り出したネギのキャンペーンユニットとして結成。AKB48の結成(05年)より早く、今のアイドルブームなど影も形もなかった。夏休みが終われば解散するはずだったが、地元に根ざしたアイドル活動が「面白い」と評価され、全国放送の歌番組でNHKホールの舞台にも立った。
「売れた!と思った」(Nao☆)のもつかの間、仕事は増えなかった。それどころか所属していた芸能スクールが廃校になり後ろ盾を失った。
そんな中「一生懸命な姿に心をうたれた」と今のマネージャーがNegiccoのために事務所を立ち上げ、活動を続けることに。以降、毎週末には地域のイベントに出続け、老若男女さまざまな人たちを前にライブを開いた。
決して自分たちを見に来たわけではない人たちの前でのライブ。「下手な歌なんか聞きたくない」など心無い言葉を浴びせられたり、楽屋がなくて着替えをゴミ置き場でやったりなどのトラブルは日常茶飯事だった。
衣装は近所のショッピングモールで買い、ほかのアイドルのDVDを見て自分たちで振り付けを考えた。曲はファンが提供し、今も建設会社に勤めながらプロデューサー・connie(コニー)として音楽面を支える。
自分たちで、手さぐりでやってきた地道な活動は、やがてアイドルファンとしても知られるタワーレコードの嶺脇育夫社長の目に留まる。客としてライブに足を運んだ嶺脇社長がNegiccoにほれこみ、同社が設立したアイドル専門レーベルの第1弾アーティストに選ばれた。初めてCDアルバムが出たときには結成10年を超えていた。「バカにされることも多かったが、メンバーやスタッフの頑張りがつながった」(Nao☆)
「職業=アイドル」の葛藤
アイドルの多くは10代から活動を始め、20代に入るころには大半が辞めていく。職業とするにはあまりに不安定で、次々と新人も出現し、消費サイクルが短いからだ。Negiccoのメンバーも1人ずつ進学などの節目を迎え、そのたびに脱退や解散の危機に直面した。実際、メンバーは1人辞め3人になっている。
リーダーのNao☆は保育園で働きながら、Meguは服飾系の専門学校を卒業後も活動を続けた。最年少メンバーのKaedeは、アイドル活動を続けながら国立の新潟大学工学部に現役で入学、14年3月に卒業した。「親の手前、就職しようか悩んだ時期もあったが、Negiccoをやりきりたいと決めた」(Kaede)。今ではアイドル活動で得た給料で、奨学金の返済をしている。
メンバーは今も新潟に住み、仕事のたびに東京などに車で移動する日々。月の半分以上を県外で過ごすこともあるハードなスケジュールだが「毎日、Negiccoとして活動できることが幸せ」と口をそろえる。
Negiccoのこうしたストーリーには、海外からも関心を寄せる人がいる。
「みなさーん、こんにちネギネギ!」。タワーレコード錦糸町店(東京・墨田)で実施したアルバムの発売記念イベント。店内につめかけた約300人の中には、米国シアトルから参加したエンジニアのダニエル・ナーさんの姿があった。たまたま見ていた動画サイトで米国のメディアが制作したNegiccoの動画を見て、「不遇な時代もあきらめず、頑張ってきたことに感銘を受けた」。日本語は全く分からなかったが、グーグルの自動翻訳でイベントを知り、やってきた。
地道な営業続け武道館めざす
ライブでの動員は着実に増えている。2015年8月には日比谷野外大音楽堂、16年4月の中野サンプラザと2000人規模に。バックバンドを従えて全国をライブツアーするまでになった。7月30日のNHKホール、その先には日本武道館での公演を目指す。大舞台を見据え、新潟、東京のほか地方での『営業』もこなす。
6月11日、長野県上田市のショッピングモールで行われたNegiccoの新作アルバムの発売イベント。男性アイドルファンに混じり、ベビーカーを押す家族連れや、若い女性グループ、高齢者の姿も目立つ。開演前にはステージの前に設けられた女性・親子連れ専用エリアが埋まった。一風変わっているのは常連のファン。「いつも見ているのでどうぞ」と親子連れを前に送り出し、自分は後ろに下がっていく。
「いろんな人に『Negiccoのファンは素晴らしい』とほめられる」リーダーのNao☆は笑顔を見せる。新潟で、さまざまな人を前にステージをこなすうち、「毎回のステージやファンがいることのありがたみは人一倍感じるようになった」(Kaede)。ファンもこうした思いに感化されてか、すすんでイベント運営に協力するようになったという。
Negiccoが目標にしているのが、同じく3人組アイドルユニットで、地方アイドル出身でもあるPerfumeだ。武道館公演を成功させ、今や国内外で大規模ツアーをする、憧れの存在。ただ、新作アルバムを経て、Perfumeにない自分たちの強みを意識するようになったという。
「歌って踊って『見せる』だけじゃなく、3人のハーモニーを『聴かせる』ことが武器になってきた」(Megu)。憧れの武道館公演。その先に見据えるのは、規模を追うのではなく、歌い続けることだ。「10年後も3人で歌って、『こんにちネギネギ!』と言い続けていたい」(同)。まずは7月30日のNHKホールに全力を尽くす。
8月20日には所沢航空記念公園で土岐麻子、堂島孝平らを招き「NEGi FES 2016」を開催します。公式サイトは、 http://negicco.net/
(NIKKEI STYLE編集部)
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