贈答マナーの悩み解決 基本は踏まえ、とらわれすぎず
贈答の時期になると、いつも悩むという人は少なくありません。インフォーマルな付き合いや関係をより重視する人が増加している一方で、昔ながらのしきたりに沿った贈答を大事にする世代も健在。お中元を贈るべきか否か、贈らない場合の失礼にならない対処法は? マナーコンサルタント・西出ひろ子さんに贈答マナーの新しい考え方を聞きました。
A.お中元・お歳暮とはもともと中国から来ているしきたりです。中国では1年の初めを「元」と呼び、半年たったちょうど中間が中元となります。年の半ばと最後に、お世話になった人に感謝の気持ちを表すという習慣なんですね。これは「誰に贈らなくてはいけない」というものではありませんし、一度贈ったらそれ以降も贈り続けるのかは、そのときの相手との関係性によります。ただ、お中元を贈ったらお歳暮も贈るというのが一般的になっています。
仕事関係であれば、「上半期にお世話になったから」ということでお中元を贈るのはいいと思います。しかし「下半期もお世話になるかわからないな」と、お歳暮のことまで悩んでしまう場合は、のしの書き方を工夫してみてはいかがでしょうか。例えば「夏のご挨拶」という表書きで贈れば、お歳暮として贈らなくても気にすることにはならないでしょう。
実際、お店によっては「感謝」といったのしが用意されていたり、お願いすれば書いていただけるところもあります。さらに、中元の時期にお贈りすれば「お中元の意味合いを兼ねてるのかな」と相手にも察していただけます。
A.長年贈っていたけれども今後は徐々にやめていきたいという場合は、まずお中元から控えていくのが一般的です。お中元よりお歳暮の方が、1年のまとめということで位置づけとして上にくるためです。それに贈られる側も、お中元が届けばお歳暮も来るものと考える人は少なくありませんでしょう。
近年は贈答の習慣がよりインフォーマルな方向に崩れつつあるため、贈り方にもひと工夫が必要になってきたように思います。最近の調査では、お中元・お歳暮は両親など家族や親戚に贈るという人が多いようです。家族や親戚との関係性はほぼ変化しませんから、昔ながらのしきたりにのっとって贈ることをおすすめします。特に親戚の年配の方などには、昔どおりのやり方のほうが受け入れられるでしょう。逆に、家族や親戚以外の方は、そのときどきで関係性が流動的になる可能性がありますので、形式的ではないかたちでお贈りするほうが良い場合もあります。そのほうが双方にとって気持ちの負担が少なくなることもあるでしょう。このように相手によってその贈り方に変化をつけることは、相手の立場・状況に応じて臨機応変に対応するマナーとしての贈り方と捉えれば、よろしいかと思います。
A.両親や家族に贈るのであれば好みや健康状態がわかりますが、よく知らない相手の場合、最近はアレルギーなど以外にもこだわりを持っている方も多いので、食べ物を贈るのはなかなか難しい場合がありますね。
食品以外であれば、普段自分では買わないような価格帯の日用品はどうでしょうか。例えば入浴剤などお風呂回りの雑貨で、自然素材の上質なものなどは喜ばれると思います。
これは個人的な例なのですが、家族がそれぞれに独立し、一人暮らしをされているご年配の親戚の方に、お中元として冷製のおでんをお贈りしたところ大変喜ばれました。一人暮らしなので、ときに料理をするのが面倒になることもあるそうです。冷製おでんは見た目も涼しげで、カップに個別包装されているので暑いときに手軽に食べられて、やわらかくて栄養もとれるとお気に召していただけました。相手の生活状況や嗜好、年齢に応じて、贈る品物を毎年考え、選ぶこともマナーといえます。
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最近はネットでお中元やお歳暮を注文する方も多くなってきました。時代として当然といえますし、ネットには通常では手に入りにくいものもあり、相手は喜び、また贈る側も便利です。しかし一方で、どのような状態で相手に届くかわからないという不安もあります。失礼があってはいけないと思う場合は、まず自分用に贈り物として注文してみて、届いた状態や内容を確認するのも一つの手です。
また、贈るときは、自筆の添え状を同封することをおすすめしています。しかしネットからの注文の場合、それはできないといわれる可能性も(ネット注文でなくても、冷蔵・冷凍ものは店舗によって断られる場合もあります)。でも、対応してくれるところもありますので、お店にコンタクトをとってうかがってみることをおすすめします。
私はネットから注文をした場合、自筆の添え状をそのお店に送り、お手数をおかけしてしまいますが同封していただくようにしています。添え状を付けない場合は別途、手紙やはがきで贈り物をお送りした旨を伝えるのがマナーとされています。こちらも必ずそうしなければならない、ということではありませんが、これを送ることで、贈られた側が、品物が届くであろう心構えができるため、親切な行動といえます。
贈答のマナーは、基本的なことは知っておくべきですが、それに固執する必要はありません。なぜならば、すべては"気持ち"から成るものだからです。相手の立場に立つという本来のマナーの意味を考えれば、儀礼的になっている型は崩してもいい場合もあると考えます。しきたり通りにしようとすれば迷ったり、面倒でストレスになったりもします。知識は知識として身につけて、その上でとらわれすぎないという気持ちで、日ごろの感謝を表現していただければと思います。
とはいえ、贈答のマナーも「守・破・離」の精神を忘れないでください。若い方は、まず基本をきちんと押さえて、礼儀正しく実践するほうが相手から高い評価を得ます。ある程度の経験を積んだ方なら、基本を少しずつ崩して、自分らしい気持ちの伝え方をしても問題はないでしょう。今年の夏は、あなたらしい気持ちの伝え方をぜひ表現し、贈り物をする、されるのコミュニケーションを楽しみの一つになさってみてはいかがでしょうか。
マナーコンサルタント・美道家。英国の民間企業WitH Ltd.ウイズ・リミテッド日本支社代表を務めたのち、ウイズ株式会社、HIROKO ROSE株式会社、一般社団法人マナー教育推進協会を設立。企業・一般向け研修、コンサルティングのほかTVドラマや映画のマナー指導などでも幅広く活躍中。国立音楽院と共同開発した、音楽療法とリトミックを用いて職場のコミュニケーションや協調性、ストレス改善を目的とする研修手法(マナーリトミック)を考案し、企業や学校などで好評。インターネット講座『仕事と人生を豊かにするマナー道』も配信中。28万部の『お仕事のマナーとコツ』(学研プラス)、『できる大人の気くばりのルール』(KADOKAWA)、『超一流の人がやっているすごいマナー』(ぱる出版)など著書多数。
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