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日本電産を引っ張る会長兼社長の永守重信氏。71歳とは思えないほど、エネルギッシュですが、気になるのはやはり後継者問題です。盟友でソフトバンクグループ社長の孫正義氏は後継者に指名していた副社長、ニケシュ・アローラ氏への禅譲を撤回しました。創業者の後継選びは難しいのです。永守氏に後継者などについて聞きました。

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親族には会社を継がせない

――トップの後継についてどう考えていますか。永守さんは100歳までやれそうだという人もいますが。

「それはない(笑)。人間だからね。市場についていけなくなったり、大事な客が来たときにすぐに飛んでいけたりする体力がなくなったらだめだ。何より部下の話す内容がわからなくなったらだめだね」

――後継者の条件はありますか。

「あるね。1つは日本電産の企業の理念である『世界的な企業をつくろう』という思いを引き継いでくれる人だ。『このくらいでいいやないか』『土日はゴルフでもして月に1度くらいはコンペをやろう』とか、趣味や遊びを優先する人は駄目だ。2つ目は、親族を絶対に入れないこと。うちの子供は2人とも別の会社をやっている」

――永守さんの息子がすごく優秀で、日本電産の経営者にふさわしかったとしても後継者にはしないのですか。

日本電産会長兼社長の永守重信氏

日本電産会長兼社長の永守重信氏

「それは私が決めることじゃない。私以外の全社員に『息子をトップにしろ』といわれたら別だが、私が選ぶことは絶対にない。そこは徹していますよ。自分たちの道を進めばいい。子供のころから『お前たちはお父さんの会社には入れないよ』と話してきた。『教育はしてやるから、あとは自分たちでやれ』『お前たちも会社の社長なんだから、自分の会社を大きくしろ』と話してある。人間はその人の器に応じた会社しかつくれないのだから」

この人のために働きたいと思える人物

――ほかの条件はどうですか。

「人間的な魅力があること。『この人のために働きたい』と思ってこそ人はついてきてくれるんだから。私はたくさんのエリートをみてきたけど、冷たいよね。人はリーダーの背中を見て仕事をする。戦国時代の武将みたいに、先頭に立って『さあいくぞ』という人でなければ。そういう強いリーダーじゃないと次を託せない」

「あとは私と相性があわなきゃ。そりゃそうでしょう、人生観や職業観が全然あわなかったら、きついね。私がいなくなってしまってからなら別だけど」

――しかし、後継者選びは非常に難しい。特に永守さんような創業者であれば、なかなか後継者候補も選べないのではないですか。

「そんなことないよ。ちゃんと4人から5人の候補者がいるよ。そのなかから、1人が上がってくるでしょうね。彼らは、私にないものを持っている。自分と違うものを持っている人は尊敬できるよね。候補者のうちの1人が最高技術責任者(CTO)の、シャープからきた片山(幹男氏、元シャープ社長)だ。彼は失敗しているけど、非常に有能な技術者だ。何事もすぐ理解するし、私よりずっと優れている面がある」

元シャープ社長で現在は日本電産CTOの片山幹男氏

元シャープ社長で現在は日本電産CTOの片山幹男氏

「片山は、人が変わった。昔のシャープの片山じゃない。相変わらず(メディアは)昔のシャープのことを書くけどね、私は彼に『もう一度実績をつくってお前は表舞台に出ろ』といっている。『スティーブ・ジョブズだって米アップルを一度追い出されて戻ってきたんだから、君も日本のジョブズになれ』と話している」

「片山に『お前のような経歴の人間が生きる道は、3つしかない』と話した。1つ目は韓国のLG電子やサムスン電子のような外資に行ってガバッと金をもらって暮らすか。2つ目はソニーのトップだった出井(伸之)さんみたいに小さな会社をつくるか。3つ目は、創業者がオーナーの企業に行くか、この3つだ。『3つ目を選んだのだから、ここで一生懸命働け』と。『私は自分の子供にこの会社を継がせないんだから、次にトップになれるチャンスだろう』と。(片山は)ものすごいカミソリを持っているが、彼にないのはオノだ。『数年かかると思うが、驚くような姿でまた表舞台に出て来い』と常々話している。『次のトップになるかはわからないが、君の次のチャンスはここにある』。そう話している」

「私が16時間働いてやれることを8時間でできる人、これは尊敬できるね。いろいろな経営者を見てきたが、一時的に私より短時間で業績あげている人はいる。たまにいわれるんだ、『あなたはこれだけ働いて、これくらいの利益しかあげられていないのか』とね。でも一時期だ。みんな続かない。毎週ゴルフ、というような趣味が中心の人と結果が変わらないというのはないでしょう。経営は気概と執念。人を引っ張る力は頭のよさじゃない。人間的な魅力を持つには、欠点もあっていい」

赤字会社を買っても人は切らない

――リーダーは失敗に学ぶ、とよくいわれます。大きな挫折や失敗をしたが、このおかげで後に役立ったという経験はありますか。

「小さなころからいくつかのターニングポイントがある。私は貧しい家に生まれて、(家族からは)『中学を出たら働け』といわれた。しかし、中学の先生が『こんなに勉強できるんだから、せめて工業高校に行かせてやれ、大学もお金のかからないところもあるんだから行った方がいい』といってくれたので、7年間学校に行くことができた。確かに、自分よりバカなやつが京都大学に進学するのを見て、忸怩(じくじ)たる思いだった。亡くなった兄が、酔うと『お前わしらを恨んでるだろう』と話していた。でも人生、阿弥陀くじなんだよ。何かが失敗したら人生いいことがやってくる」

「会社も創業後に潰れかかった。そこで原理原則を学んだ。『借入金もキャッシュをここまで持っていなければ失敗する』という感覚も、潰れかかった経験がなければわからない。人を切ったら、リストラしたら、どんなことが起きるのか、ということもだ。私は赤字の会社を買っても絶対に人を切らない。従業員の忠誠心や、やる気にこそが企業の強さにつながるからだ。常に目の前に失敗が横たわっている。挫折したから、今がある」

――リーダーが成功する、あるいは生まれる環境とは何でしょうか。

「リーダーが成功する条件の1番目は配偶者、どんな嫁さんを選ぶかだ。『仕事を早くあげて(京都市の)鴨川でデートしよう』といわれたり、『子供を風呂に入れてやって』といわれたりしたら、これはパーだね。うちは逆で、結婚したときに『あんたには偉くなってほしい。偉くなってくれるなら結婚します。その代わり子供のことや家のことも全部やります』といわれた。今だって休みの日でも、朝8時になったら『早く会社に行け』と嫁にいわれている」

「親御さんの心構えもポイントだ。子供が偉くならなくていい、と思う親だったら子供は偉くならない。私の母親なんて、『あんたこの忙しいときに何で母親の見舞いになんか来とるんや』という人なんですよ。死にそうなのにね。家庭環境は成功するために大切だ。そこで職業観や人生観が決まるんだから。うちの会社にも京大の大学院出身の優秀なエンジニアの子供を育てておきながら、働き口はほとんどない地方に戻した親がいた。そんなことするなら、なんで京大の大学院まで出したんだろう。地元に置いておけばよかったんです」

めざすは独ボッシュ

――将来の日本電産、どんな会社を目指していますか。

「例えば、独の自動車部品メーカー、ボッシュのような会社を目指している。ボッシュがなければ車はできないなんていわれている。なくてはならない会社だ。品質もいいし、誇り高い会社であり、利益も追求している。100年以上の歴史があるし、従業員をとても大切にしている。知る人ぞ知る会社、これがいいね。非上場で華々しい何かは望んでいない。しかし、ボッシュの存在感は大きい。そういうのが一つの姿だね。『開けてみたら日本電産のキーデバイスが必ず入っている』。こんな会社になれれば、いいね」

「世間の中にはうちをブラック企業だという人もいるが、まったくの間違いだ。いまどき、女工哀史の時代じゃないんだから、そんなにひどい職場環境だったら優秀な人から先にやめていくだろう。片方でものすごくリストラしている企業がブラックといわれず、雇用を維持している我々がなぜそういわれるのか。人の首を切ることが一番むごいよ。仕事がなければハードワークなんてできないのだから」

永守重信氏(ながもり・しげのぶ)
1967年職業訓練大電気科卒。73年日本電産を創業し、社長に就任。2014年から現職。「【新装版】奇跡の人材育成法」(PHP研究所)など、著書多数。71歳。

(代慶達也 松本千恵)

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