コーヒー散歩 浅草ぶらり
豆や器具 こだわり満たす
豆は40種ほど、焙煎その場で
都営浅草線浅草駅から10分ほど歩くと、日本一の道具街「かっぱ橋道具街」に着く。南北約800メートルの通り沿いに、業務用の食器や調理器具の専門店約170店が並ぶ。軒先の看板や店内の什器(じゅうき)、商品の値札に歴史を感じられる店が多い。
この一帯でコーヒー好きが足しげく通うのが合羽橋交差点の角にある「ユニオン」(東京・台東)だ。1962年創業で、道を挟んで自家焙煎豆の店と喫茶器具の店が隣り合う。
豆専門店の店内は、焙煎豆の香ばしいにおいが広がる。豆はブラジルなど南米中心にストレートで40種類ほど、ブレンドでも10種類以上ある。価格は200グラムで580円からと手ごろだが、幻のコーヒーと言われる「コピ・ルアク」(1キロ4万3200円)といった高級品も扱う。業務用の焙煎機があるので、生豆を買ってその場で10分ほどで焙煎してもらうことも可能だ。
「ひきたてで安いからうれしい。夫も好きで月2回は来る」(地元の50代主婦)、「ここの豆はお客から好評だよ。種類も豊富でうれしい」(近くの喫茶店経営者)。気になった豆は気軽に試飲もできる。最近は「土産を探しに来た」(台湾の20代男性)という訪日客も目立つ。
喫茶器具の店では、狭いながらも豆を砕くミルや抽出するサイホン、湯を注ぐドリップポットが所狭しと並ぶ。コーヒー関連グッズだけで1万5000種を扱う。価格はドリップポットで2000円から1万円超まである。
主に業者向けだが、自宅用に買う人も増えている。地元の70代主婦は「家電量販店や専門店でもここまでの品ぞろえはない。質問にも丁寧に答えてくれ、安心できる」と評する。ユニオンの田谷勝彦氏は「コーヒーファンが毎日訪れたくなる店を目指したい」と意気込む。
コーヒー業界では「サードウエーブ(第3の波)コーヒー」と呼ぶ米国発のムーブメントが広がっている。家庭でコーヒーが日常的に飲まれるようになった第1波、スターバックスなど米シアトル系チェーンが台頭した第2波に次ぐトレンドで、豆の品種や農園、焙煎、淹(い)れ方にこだわるスタイルを指す。昨年2月、その代表格とされる米ブルーボトルコーヒーが東京・清澄白河エリアに出店し一段と注目が高まった。
サードウエーブの"作法"に倣うなら、道具や豆だけでなく淹れ方や豆の焙煎方法にもこだわりたい。
淹れ方教室、観光客も集う
東京メトロ銀座線浅草駅に近いコーヒー豆専門店「ツルヤコーヒー」(東京・台東)では、淹れ方などの体験教室を開いている。開催は原則土曜だが、2人以上なら他の曜日でも相談に応じる。もともと豆の購入者をリピーターにするために始めたが、今では観光客も珍しくなくなったという。90分で料金は1人当たり2300円。
店主の杉沢正高さんが豆の歴史やひき方による味の違い、健康効果などを説明。その後、実際に湯の注ぎ方を教える。「自分好みの1杯を求め、老若男女問わずコーヒーに関心を持つ人が増えてきた」(杉沢さん)
カフェの街として注目が高まる蔵前エリアでは焙煎体験ができる店もある。プロ向けに焙煎セミナーも行うカフェ「サンシャインステイトエスプレッソ」(東京・墨田)では、スタッフの指導を受けながら1キロから焙煎ができる。初回のみ焙煎の基礎知識や機器の操作方法に関する講座を30分受ける。要予約で料金は講座と焙煎体験で6000円(豆代含む)。同店ではラテアートなどを学べるコーヒー教室も定期開催している。
コーヒー好きの心を躍らせる浅草~蔵前エリア。日がな1日店を巡るうちに「至高の一杯」と出合えるかもしれない。
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国内消費量、最高を更新
全日本コーヒー協会によると、2015年のコーヒー国内消費量は前年比2.6%増の46万1892トンと、3年連続で過去最高を更新した。コンビニの淹れたてコーヒーの普及が大きな要因だ。ブラジルとベトナム、コロンビアで全体の7割を占める。近年は本格派向けの「スペシャルティコーヒー」が存在感を高めている。豆の甘みや酸味といった味はもちろん、栽培や輸送、保管などの基準を満たした希少種の豆のことだ。喫茶店や豆販売店でこうした個性を打ち出して集客につなげている。
(企業報道部 角田康祐)
[日本経済新聞夕刊2016年6月24日付]
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