外貨投資

為替にチャレンジ

5分でわかる「これから先の各国の金融政策」 SMBC信託銀行 シニアマーケットアナリスト 山口真弘

2016/6/23

 今回から始まる新連載「為替にチャレンジ」では、外貨での資産運用の可能性や賢いやり方を探っていきます。具体的な外貨建て商品の話に入る前に、まずは「今の世界の金融情勢をどう見るか」「その中で(外貨を含む)どんな金融商品に投資していけばいいか」を、SMBC信託銀行プレスティアのシニアマーケットアナリスト、山口真弘さんに2回に分けてお書きいただきます。
「米国経済が底堅く推移し、日本やユーロ圏では金融緩和が継続する見込みであることから、世界経済の状況はさほど悪くないと考えられる」

 日本では超低金利が長い間続き、今年2月にはいよいよマイナス金利政策が導入されました。国内の円建て商品では収益を期待できるものは限られてきており、投資家は相対的に期待リターンの高い「海外資産」を視野に入れて投資を考える必要があるでしょう。世界全体に投資をするわけなので、その際は各国の経済や金融政策の現状と先行きを把握しなくてはなりません。そこでまずは、世界最大の経済規模を誇る米国の状況を見てみましょう。

 米国経済は昨年10-12月期から今年1-3月期にかけて、一時的に減速しました。しかし、実質GDP(国内総生産)の約7割を占める個人消費が持ち直しつつあることは心強い材料です。アトランタ連銀が算出する「GDPナウ」によれば、4-6月期の実質GDPは前期比で年率2.8%増(6月17日時点)と予測されており、米国経済の底堅さが感じられます。一方で、2014年以降に進行した米ドル高が景気を圧迫するという警戒感が強まっているほか、世界経済・金融情勢が不安定化していることから、企業の設備投資はさえない状況が続く見込みです。4-6月期以降の景気は持ち直しに向かうと思われますが、成長ペースは緩やかなものにとどまるでしょう。

■米利上げ、日銀の追加緩和は9月か?

 6月14、15日に開催された米連邦公開市場委員会(FOMC)は前回(4月)と比べて景気判断では好転したものの、5月の雇用統計が市場予想を大幅に下回る内容となったことから、労働市場に対する見方はやや後退しました。米連邦準備理事会(FRB)が今後発表される経済指標を慎重に見極める姿勢を変えていないため、当行では次回の利上げが9月に行われるとの見方を維持しています。また、来年には2度の利上げが行われ、FF金利は今年末の0.75%から来年末には1.25%へ上昇すると予想しています。

 ユーロ圏では3月に欧州中央銀行(ECB)が大規模な金融緩和を実施してから、ユーロ圏の資金繰りは徐々に改善してきています。4月の銀行貸出調査によれば、融資基準の緩和と貸出金利の低下が示唆されており、今後は設備投資などが刺激されて内需が次第に押し上げられると思われます。その結果、ユーロ圏では潜在成長率を上回るペースでの景気拡大が期待されますが、かといってインフレ率がECBの物価安定の数値的定義(消費者物価の前年比上昇率で2%弱の水準)に向けて押し上げられていくには不十分でしょう。そのため、さらなる追加緩和が見込まれますが、ECBも4月の理事会で「政策効果を慎重に見極める」という姿勢を強調していることから、9月の理事会まで現行政策が維持されると考えています。

 日本では安倍晋三首相が、消費増税を2019年10月まで先送りすることを正式に表明しました。そのため、足元では増税前の駆け込み需要とその反動による景気の落ち込みが生じる可能性はなくなり、個人消費は安定的に推移すると思われます。また、9月下旬に臨時国会が召集され、5-6兆円規模の第二次補正予算が組まれる見込みで、国内景気には追い風になると期待されます。しかし、中長期的に日本の成長力を高める施策が盛り込まれるかどうかは不透明で、景気の押し上げ効果は短期的なものにとどまると見ています。景気が力強さを欠くなかで、インフレ率が日銀の目標に向けて上昇していく公算は小さいため、7月に追加緩和が実施されると考えています。ただ、黒田東彦日銀総裁は「追加緩和をしてもドル円の上昇に結びつかないリスク」を強く警戒しているようにも感じられます。その場合には米国の利上げが予想される9月に、日銀の追加緩和がずれ込む可能性も小さくないと思われます。

■中国の景気減速懸念はなかなか消えない

 最後に、世界経済のリスク要因となりうる中国経済に関してです。3月の全国人民代表大会(全人代)で李克強首相が発表した第13次5カ年計画では、過剰設備の解消など供給サイドの改革を通じて構造調整を推進する一方、規制緩和や減税などによって企業活動を活性化させるとともに、財政支出の拡大などにより景気を下支えする方針が示されました。方向としては正しいと思われますが、構造改革を進めると短期的には景気減速懸念が浮上することになり、これを払拭するために過剰な投資が行われた場合は、構造改革の遅れにつながります。当面は中国の景気減速懸念が浮かんでは消え、浮かんでは消えすることとなりそうです。

 なお、米国経済が底堅く推移するとともに、日本やユーロ圏では金融緩和が継続する見込みであることから、世界経済の状況は各種の報道ほどには悪くないと考えられます。しかし、米国が緩やかなペースであっても利上げを進めることで、新興国から資本が流出するとの懸念はくすぶっています。また、原油の需給バランスが再び崩れれば、原油安が産油国の経済を圧迫する恐れがあり、相場を不安定化させる要因になります。さらに英国では6月23日に、欧州連合(EU)からの離脱の是非を問う国民投票が行われます。現状ではEU残留派がやや優勢に傾きつつありますが、日本時間で24日夜の結果判明まで目が離せません。好悪材料の入り交じるこうした投資環境のなかで、株式や国債などの資産クラスごとの強弱感を次回の記事でご紹介したいと思います。

※この記事に掲載のマクロ経済見通しは、当行がライセンス契約を結んでいるCiti Researchの予測を参照しています。

山口 真弘(やまぐち・まさひろ) SMBC信託銀行 マーケット部門 投資調査部長 シニアマーケットアナリスト。邦銀で個人金融業務・法人金融業務を経験し、シティバンク銀行入行。資産運用相談業務に従事。その後はSMBC信託銀行のシニアマーケットアナリストとして、グローバル・マクロ経済や株式・債券・為替など幅広い金融市場の調査・分析および投資戦略の策定を行う。現在、日経CNBCなどで経済・金融情報を発信中。日本証券アナリスト協会検定会員、CFP認定者。

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