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最終回は、全体のまとめ的な位置づけで、これまで各論で述べてきたことの集大成的なテーマにしました。今回は、「上司と部下がわかりあう」には、です。

上司の言い分

部下を持つというのは大変なことです。いまは、少人数で膨大な業務をこなし、高い実績を上げなくてはなりません。管理職もマネジメントに徹するというわけにはいかず、どうしてもプレイングマネジャーになります。

自分の仕事だけでも大変なのに、思うように動いてくれない部下の面倒を見なくてはなりません。部下の引き起こしたクレーム、ミスに対する尻拭いで、一人深夜まで残業し、誰もいないオフィスで「どうして自分だけがこんな目に」と心の中で泣いた経験は、管理職なら誰でもあるはずです。なにもかも、最終責任は私です。たまりませんよ。

ときどき、管理職ではなく、ひとりのプレーヤーに戻りたいと思うことがあります。仕事には自信があります。自分のことだけ考えていられるなら、そこそこの業績は上げられると思います。

もし、このまま管理職を続けるとすれば、メンバーを全取り替えしたいですね。それが難しいなら、一人でも、自分のコピーのような部下がいれば、職場運営が楽になるはずと思ってしまいます。

部下には、少しでもこの気持ちをわかってもらいたい。その上で、どう動くべきかを考えてほしいと思います。

【部下に求めること】

*上司の立場を理解して行動してほしい

部下の言い分

上司次第で、部下の会社生活は決まってしまうと思います。よい上司ならば天国、ひどい上司ならば地獄です。

部下は上司を選べません。上司は、部下の運命を背負っているのですから、きちんと職責をまっとうしてほしいです。

自分のいまの上司は残念な上司です。プレイングマネジャーを言い訳にして、自分のことばかりやっています。部下を見ていないし、部下の話も聞かず、フォローもしません。「上がこう言っているから」とか「俺は聞いていない」とか責任逃れの言動も目立ちます。本人は、そこそこうまくやっていると思っているようですが……。

上司が代わるか、自分が異動するか、どちらかを期待するしかない状況です。いまの仕事自体は嫌いではないので、上司が代わってくれる方がいいですね。

【上司に求めること】

*部下のことを見てほしい

*話を聞いてフォローしてほしい

*責任感を持ってほしい

上司、部下の距離は遠く離れてしまっているようです。どうすればよいか考えましょう。

上司への提案

私もかつて企業の中で管理職をしていました。恥ずかしながら、ここでの「上司の言い分」と同じようなことを思った記憶があります。でも、そのような考え方をしていては、部下のためにならないだけでなく、自分のためにもよくありません。ひとつずつ、見ていきましょう。

1.プレイングマネジャー

現代の管理職の問題の多くは、ここから派生しています。管理職がエースで4番バッターを兼ねている職場を数多く見てきました。部下に任せるには、手間をかけて説明しなくてはならず、手間をかけても結果は出ない。しまいには、尻拭いまでするはめになる。だったら、自分でやった方が早い。こう考えるのも無理はありません。

でも、管理職の皆さんは、これからも、そんなに頑張れるのでしょうか。おそらく、来期の目標は、今期より10%は困難になるはずです。そして、その次はまた10%増とハードルは上がります。多くの管理職はいまでもプライベートを犠牲にしてまで、Maxに頑張っていることでしょう。年齢も重なる中で、1割、2割と頑張りを上積みできるのでしょうか。

ここで、単純計算をしましょう。5人の部下がいるとします。自分が10%アウトプットを増やすより、部下に2%ずつ増やしてもらった方が合理的ではないでしょうか。

管理職がエースで4番、部下は下請けというチームはいずれ破綻します。いまこそ、考えを変えるときです。「部下が結果を出せないのは、自分の指示や指導に改善の余地があるから。改善すれば部下は結果を出せるようになる」と考えましょう。プレイングの比重を落とすことは、いつかやらねばならないことです。

2.部下を見る

現代の管理職にとって部下の状況を把握することはとても難しい課題です。多くの仕事がパソコン、タブレット、スマホの中で進んでいき、近くで見ていても何が起こっているのかわかりません。部下がいま何の仕事をしているのかさえ把握することが難しく、後ろからパソコンをのぞき込めば嫌がられます。

状況把握のための唯一の頼みは、部下が情報提供をしてくれることです。そのためには、2つの方法があります。ひとつは、「報連相」を義務と課し、履行を強く求めること。もう一つは、部下が進んで情報提供するような環境を作ること。当然、後者がベターです。報連相を義務と課したところで、上がってくる情報は、量が少なく、バッドニュースは隠されます。

情報提供に「ありがとう」「サンキュー」のひとことを返し、相談されれば、よく聞き、よいアドバイスやフォローができる自分でいる。そうすれば、自然と部下から情報が集まり、状況把握ができます。これが部下を見ることにつながります。

そして、もう一つ。部下を見るなら良いところを見ましょう。人材育成の基本コンセプトは「美点凝視」です。部下を全取り替えしたいと思っているうちは、ひとりの部下も育てられません。1点で構いません。一人一人の良いところを見つけましょう。

自分のコピーを作るという考えも捨ててください。部下のキャラクターは自分とは異なります。無理にコピーにしようとすれば、小さく、ゆがんだコピーができるだけ。部下一人一人の強みをうまく引き出し育ててこそ、一流の管理職です。

3.責任をとる

最近「責任は私がとる」と言ったことがありますか。このセリフは部下が上司から聞きたいセリフのNo1です。でも、このセリフを言う管理職はめったにいません。

気持ちはわかります。管理職の皆さんにも生活があります。景気が少し上向いてきたとはいえ、ビジネス環境は決してよくありません。そんな中で、詰め腹を切らされてはたまりません。

ただ、考えてみてください。そもそも、管理職になった瞬間から責任をとる立場になっているのです。「責任は俺がとる」と言おうが言うまいが、責任はとらなくてはなりません。ならば言いましょう。たまには「責任は私がとるから君がいいと考えるやり方で思い切ってやってみろ」と。部下はそれを待っています。

上司というのは不思議なものです。かつては部下であったのに、上司になったとたんに、部下だった時の気持ちはどこかに消えてしまいます。でも、自分の中の深いところに、部下時代の記憶は残っています。たまに、思い出してみるのもよいでしょう。

管理職としての喜びは、渦の中にいるときは感じにくいもの。後になって「あの時、管理職をやってよかった」と言える日を迎えるために、いまを充実させましょう。

上司への提案

*プレイングマネジャーのプレイング比率を落とす

*部下が情報を持ってくるように仕向ける

*話を聞いてフォローする

*責任は私がとると言う

部下への提案

上司次第で部下の職場生活は良くも悪くもなる。これは事実です。ただ、良くない上司の下にいる間、ずっと不幸を嘆き低いモチベーションで日々を送るのは避けたいもの。自分のビジネス人生の大切なひとときなのですから。

対応は「受け入れて変える」ことしかありません。「受け入れる」のは、上司という人間です。よくよく周囲を見渡してみてください。「あんな上司、誰も相手にしないはずだ」「みんな嫌がっているに決まっている」と思っていても、そんな上司と上手にコミュニケーションをとっている人がいるはずです。

過去にこの連載でも挙げましたが、ひとには相性があります。その上司は自分と相性はあわないけれど、相性があう人もいるということです。人は、自分と同じような考え方をする人とつきあうのは楽です。相性のあわない上司とは、同じような考え方どころか、正反対の考え方であることが多く、それが苦労の種になっているもの。そして、「どうしてあんなことを言うのだろう」と考えたところで、答えは出ず、自分のエネルギーを消耗するだけです。だから、「そもそも考え方が違うのだ」と受け入れてしまった方がよいのです。

「変えてみる」のは、自分の言動です。上司を変えようとしても、徒労に終わることが多いでしょう。上司に限らず、他者は自分が思うようには変わってくれません。それに、もうそれはやってうまくいかなかったはずです。自分の言動を変えましょう。同じ言動を続けて、違う結果を求めるのは理にかなっていません。

おすすめは、上司との距離感を詰めてみることです。上司とうまくいっていない部下の共通点は、距離をとってうまくやろうとすることです。その作戦がうまくいかないのですから、逆に「懐に飛び込んでしまう」ことをやってみてはどうでしょう。自分が嫌だと思っている上司に対して、こちらから話しかける。たいていの上司は孤独です。どんどん来る部下には慣れていません。いつもと違う上司の顔が見られ、関係改善のきっかけにできる可能性があります。

部下への提案

*上司は考え方が違うと受け入れる

*自分の言動を変えてみる

*思い切ってこちらから距離を詰めてみる

連載を締めるにあたり、上司・部下の双方にお伝えしたい一節があります。

わたしは、あなたのために生まれてきたのではない
あなたも、わたしのために生まれてきたのではない
でも、そんなふたりが良い時間をともにできるならば
それはとても素晴らしいこと

これは、フレデリック・S・パールズの言葉にヒントを得て、私が考えたものです。他者は、自分が思うようには考えてくれません。自分も他者のイメージ通りには動けません。もともと、私たちは違う人です。

日本人はコミュニケーションがうまくないという話をよく聞きます。多民族国家とは異なり、同質的という考えが根底にあって「あなたと私は一緒」と考え、コミュニケーションの手抜きをする傾向があるのでしょう。上司と部下のボタンのかけ違いは、そんなところから起こるように思えてなりません。

「あなたと私は違う人」と言われたら冷たい感じがするかもしれません。でも、もともと違うふたりがコミュニケーションを通じ、少しでもわかりあうことができたら、そこには温かい世界が待っています。

長らくおつきあいいただき、ありがとうございました。いつかまた、お会いしましょう。

[2013年掲載の日経Bizアカデミーの記事を再構成]

濱田秀彦(はまだ・ひでひこ)
株式会社ヒューマンテック代表取締役、マネジメントコンサルタント
1960年東京生まれ。早稲田大学卒業後、住宅リフォーム会社に就職し、最年少支店長を経て、大手人材開発会社に転職。トップセールスマンとなり、営業マネージャー、経営企画室マネージャー、システムソリューション部門責任者を歴任後、独立。現在は、コンサルタントとして、公開セミナー、個別企業の研修に出講しており、これまで指導したビジネスパーソンは1万7000人を超える。

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