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上司が部下に対して持つ不満の中で、意外に多いのが話し方に関すること。部下の話が長い、何が言いたいのかわからないといった苦情をよく聞きます。

一方の部下はというと、上司の聞き方に対する不満を持っている人が多いようです。上司が話をきちんと聞いてくれない、聞いているうちに機嫌が悪くなるといった苦情を数多く聞きます。

このような不満は、一方のみが持っていることは少なく、たいていの場合、上司・部下がセットで持っています。話す-聞くというコミュニケーションは、日々行われること。上司と部下がお互い、毎日のように不満を感じているわけです。

これは、放っておけません。はたして、部下の話し方、上司の聞き方、どちらが悪く、どうすれば解決できるのでしょうか。

上司の言い分

部下の話を聞くつもりはありますし、聞いていますよ。ただ、聞いているとイライラすることが多いですね。一番困るのは話が長いことです。こちらは忙しいんです。やらなくてはならないことが山ほどあります。それに、部下はひとりではありません。ひとりの部下だけにそう長い時間、関わってはいられません。私は特定の部下専用のカウンセラーではないんです。そこがわかっていれば、もっと簡潔に話すはずです。

イライラのタネはほかにもあります。話が要領を得ないのです。そもそも、なにを言いたいのかがわかりません。それに、前置きが長く、要点が整理されていないことが多い。話す前に整理しておいてほしいですよ。

こんな話し方ですから、じっくり聞いてあげても時間の無駄になるだけです。

【部下に求めること】

*話は短くしてほしい

*単刀直入に要点をまとめて話してほしい

*事前に整理してから話してほしい

部下の言い分

上司から「話が長い」「なにを言いたいのかわからない」とよく言われます。でも、そう言う前に、ちゃんと聞いてほしいです。

上司は僕が声をかけると、話す前からイラっとした表情をします。そして、話しはじめると、面倒くさそうな表情をし、途中で話をさえぎり「だからなに?」「で?」と問い詰めます。すごく話しにくいです。

上司は「報連相をしっかりやるように」と言いますが、せっかく実行しても、きちんと聞いてくれないのですから、やりたくなくなります。

確かに僕は要点をまとめて話すのが得意なほうではありません。でも、そんなにひどいとは思いません。最後まできちんと聞いてくれればわかるように話しているつもりです。

最近は、面と向かって話すのがいやなので、なるべくメールで済ませるようにしています。ただ、メールを書くのは結構手間がかかります。それが、残業の一因になっていると思います。話をきちんと聞いてくれるなら、そんな手間はいらなくなるのですが……。

【上司に求めること】

*面倒そうに聞くのはやめてほしい

*途中で話をさえぎらないでほしい

*否定的に聞くのはやめてほしい

上司、部下の話を聞いていると、どちらの言い分にも一理あるように思えます。とはいえ、放っておくとこの問題は永遠に解決しないでしょう。それに、非効率なコミュニケーションが大きな潜在コストになっている様子もうかがえます。改善に向け、考えましょう。

上司への提案

上司として、部下の話を聞く必要があるということはわかっている。でも、時間がない、部下は複数いる、そんな中で長い時間、話を聞いてはいられない。まして、要領を得ない部下の長話は聞いていられない。そういうお気持ちはよくわかります。

ただ、部下の話をよく聞くことは想像以上に指導上の重要なポイントなのです。

相手の言葉に耳を傾け、熱心に、かつ受容的に聞くことを「傾聴」と言います。部下の話を傾聴すれば、部下は素直になり、アドバイスを受け入れやすくなります。また、よく聞けば報告を促進できます。さらに、メンタル不全の予防策としても傾聴は効果的です。このような理由から、傾聴はこれまで以上にマネジメントの重要スキルになってきています。

以下、聞くことについて、上司の皆様に2つの提案をします。

1.1分間だけよく聞く

「よく聞く」ことは「長く聞く」ことではありません。相手が「聞いてもらった」と思えば、それはよく聞いたのです。そのために必要な時間は1分間です。

私のセミナーで、傾聴のトレーニングをします。ペアになって、ひとりが話し、ひとりが聞くスタイルです。話してもらうのは単純なこと。例えば「最近うれしかったこと」というお題です。聞く方は、ひたすらあいづちをうって受容的に聞いてもらいます。そうすると、ほとんどの話し手が1分間で話を終えてしまいます。

選手交代して練習しても、やはり1分間で話は終わります。そして、ペアワークを終えた後に交わされる参加者同士の「ありがとうございました」という挨拶は他のペアワークでは見られないほど声が大きく、深々と頭を下げ、明るい表情でなされます。

上司の皆様、忙しい中でも、部下のために1分間は聞きましょう。質問、アドバイスはそれからです。

2.よい聞き方をする

同じ1分間でも、よい聞き方をすれば、さらに相手は「よく聞いてもらった」と感じます。そのための条件は3つです。

*目を見て聞く

*相手のペースにあわせて聞く

*あいづちの言葉をそえて聞く

目をそらして聞いていると、話し手は「関心がない」「聞く気がない」と誤解します。だから、目を見て聞きます。このときあまり険しい表情ですと、相手は話しにくくなりますので、穏やかな表情を心がけてください。

相手のペースにあわせる最も単純な動作は、うなずくタイミングをあわせることです。話し手は、話しながらかすかにうなずきます。ニュースを読むアナウンサーをよく見てください。途中はかすかに、そして話の区切りでは、はっきりとうなずきながら話しています。テレビや、ニュースの動画を見ながら練習してみてください。簡単にできるようになります。次は人との会話で実践します。相手のペースにあわせて聞くことの意味は、相手に「あなたの話したいペースで話していいんだよ」というメッセージを送り続けることです。そうすれば、相手は安心し、落ち着いて話すことができます。

あいづちの言葉をそえることも大切です。黙って聞いているとお医者さんに問診されているようで気詰まりになります。「はい」「ええ」「うん」「そうか」といった単純な言葉であっても返ってくれば相手は安心します。このとき気をつけたいのは「うん」の連発にならないようにということです。「うん」は口を開けなくても発声できる言葉です。「うん」ばかりだと、話し手から、熱心に聞いているようには見えないのです。「そうか」「なるほど」など、口を開ける言葉も混ぜた方が効果的です。

このような聞き方が傾聴です。本当は、相手を尊重する気持ちが自然に上記のような動作につながるのが一番よいのですが、そればかり言っていても精神論になります。まずは形からでもよいでしょう。よく聞けば相手が素直になるなどよいことが起こります。成果を感じられれば習慣になります。そして、習慣は人格と一体化します。

傾聴すれば、部下から信頼を得られます。部下の皆さんに尊敬できる上司像を聞くと、「話を聞いてくれる人」という答えがよく返ってきます。聞くことによって部下との関係がよくなります。部下だけではありません。すべてのヒトとの関係がよくなります。

ただし、傾聴すれば部下の話し方がよくなるとは言えません。部下の話し方を簡潔にさせるためには指導も必要です。指導は、案件に関する話を終えた後、すぐに「確認だけど、いまの話、オレは聞いてどうすればよかったの?」「そうだよな、判断すればよかったんだよな。次からはそれを先に言ってくれないか。そうすれば、こっちもそういうつもりで聞いて、すぐに返事ができるから」というように具体的に行います。ここで、注意したいのは、よく聞くことが先だということです。傾聴してから指導をした方が、部下は素直に聞きます。

上司の皆様、時間がないからこそ、1分間よい聞き方をしましょう。早速、今日からです。

上司への提案

*1分間聞く

*相手のペースにあわせてうなずく

*あいづちの言葉をそえて聞く

*改善指導は具体的に

部下への提案

確かに人の話をよく聞く上司は少ないです。ただ、部下の側から上司の聞き方をよくすることはしにくいもの。それよりも、自分の話し方を改善し、上司が聞きたくなるように話すスキルを身に付けた方がよいでしょう。話し方がよくなれば、上司に限らず、他部門の人、顧客との関係もスムーズになります。

ここで、話し方をよくするためにできる単純なことを提案します。それは、相手の聞きたいことを、相手の聞きたい順に話すことです。具体的には以下の通りです。

1.「相手に望むアクション」から話しはじめる

声をかけた瞬間、上司が知りたいことは2点「何の話か」「聞いてどうすればいいのか」です。相手の聞きたいことを、聞きたい順に話すということからすれば、上記2点は真っ先に知らせるべきことです。例えば商談に関する話ならば「東西産業の値引き幅について、判断をお願いしたいのですが、いま5分ぐらいいいですか」というように話しましょう。同じことでも、次のように話すとよくありません。「昨日、東西産業に行ってきたのですが、相手は係長で、直接の意思決定者ではないのですが、そこそこ力のある人で……」。ここまで聞いても上司は聞きたいことがなにひとつ聞けていません。そうなると、気の短い上司は、途中で話をさえぎり「ちょっと待て。何が言いたいんだ」と言ってきます。そう言われるのは嫌でしょう。前出のような話し方をすれば、未然に防げます。

また、ゴールが判断だとわかっていれば、相手もそのつもりで聞きます。そうすれば、自分が望む答えが早く返ってくるというメリットもあります。

2.「核心」を先に言う

何の話で、聞いてどうすればいいかがわかれば、上司の関心は「核心の話」に移ります。核心とは、もし話せる時間が5秒しかなかったとしたら、最優先で伝えるべき重要なことを指します。結論と言ってもよいでしょう。次はそれを話します。前出の例の続きでいえば「どれだけ値引きする必要があるか」です。答えとなる話は「結論から言いますと、私は15%値引きすれば成約できると思います」というようにします。それを知った上司は「なぜそう思うのか」と考えます。次に話すことはその根拠です。根拠は1つでは弱いので複数あった方がよいでしょう。話し方は「根拠は2つあります。1つは~もう1つは~ということです。具体的に言うと~」というようにします。これが要点をまとめて話すということにつながります。

このように話せば、上司はよく聞きます。自分のほしい情報が、次々に出てくるのですから、さえぎる必要はありません。上司には聞き方のクセがありますので、穏やかな表情で、受容的に聞いてくれるかどうかはわかりません。ただ、急かされたり、話をさえぎられたり、詰問されることは少なくなります。それだけでも、自分のストレスは減ります。

相手の聞きたい話を想像し、その後の展開までこれらのことを暗算でやるのはなかなか難しいものです。慣れるまでは、机の上でシミュレーションをしておきます。これを聞けばこれを聞きたくなるという流れを想像し、メモ書きにして準備したほうがよいでしょう。

部下への提案

*相手の聞きたいことを聞きたい順に話す

*相手に望むアクションから話しはじめる

*核心から話す

*〇つあるというように要約して話す

*慣れるまではシナリオを書いてから話す

上司は部下の話をよく聞き、部下は簡潔に話す。単純なことですが、これが実現できれば、お互いのストレスは減り、職場のコミュニケーションは劇的によくなるはずです。両者ともに、自分から歩み寄ることを期待します。

[2013年掲載の日経Bizアカデミーの記事を再構成]

濱田秀彦(はまだ・ひでひこ)
株式会社ヒューマンテック代表取締役、マネジメントコンサルタント
1960年東京生まれ。早稲田大学卒業後、住宅リフォーム会社に就職し、最年少支店長を経て、大手人材開発会社に転職。トップセールスマンとなり、営業マネージャー、経営企画室マネージャー、システムソリューション部門責任者を歴任後、独立。現在は、コンサルタントとして、公開セミナー、個別企業の研修に出講しており、これまで指導したビジネスパーソンは1万7000人を超える。

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