絶滅危惧種「粋な上司」とはどんな人? 職場に必要?

2016/10/16

上司の言い分vs部下の言い分

つい最近、10社ほどの総務・人事マネジャーが集まる場で世間話をする機会がありました。その日の話題の中心は「職場から消えたもの」。答えとして挙がったのは「お茶当番」「灰皿」「青焼きコピー」など様々。

でも、10社もあると、「ウチにはまだありますよ」というものばかりで、一致しません。そんな中、ひとつだけ一致した「職場から消えたもの」がありました。それは「粋(いき)な上司」です。いまや「粋な上司」は絶滅危惧種、「上司の粋なはからい」は死語になりつつあるようです。

ということで、今回のテーマは「粋な上司」。上司、部下がどう考えているのか、どうしていけばよいのかを考えます。

上司の言い分

部下たちが「粋な上司がいない」と話しているのは知っています。私のことを名指しで言っているわけではないようですが、気分はよくありませんね。

上司に粋を求めるのはわかりますが、いまの管理職にそれを求められてもつらいんです。昔と違って、管理職の裁量幅は小さくなっています。好きにできる範囲は狭く、何をするにも、会社にお伺いを立てなくてはなりません。そんななかで、粋にふるまえと言われても難しいんです。

おまけに、このところ収入も増えていないので、小遣いもあまり多くありません。部下におごるなど、太っ腹なところを見せたくてもなかなか……。

そもそも、若い人に「粋」がわかるんでしょうか。先日も、部下の一人がクレーム対応で大変そうだったので、さりげなく手伝ってあげましたが、礼のひとこともありません。上司がそうするのは当然だと思っているようです。そんな状況で上司にだけ粋を求められても困るんですよ。

【部下に求めること】

*上司に粋を求めるのはやめてほしい

*粋を求めるなら、粋を感じられるようになってほしい

部下の言い分

いま、粋な上司はいないですね。最近、「粋なはからい」をしてもらったと思うこともありません。

上司は部下に粋なはからいをする余裕がないみたいです。自分のことで精いっぱいなんじゃないですか。プレイングマネジャーだということを言い訳にして、部下を見ていないし、手助けもしないし。

前に、篠原涼子さんの出ていたCMで、仕事でテンパッている篠原さんに、上司がさりげなくコーヒーを置いていくものがありました。あのCMを見た同僚の女性社員たちが「私もあんな上司の下で働きたい」と言っていましたよ。もっと上司が粋になってくれないかとみんな思っているんです。

まあ、それは無理としても、チームの飲み会が100円単位まで割り勘で、わずかな追加もいちいち全員から徴収っていうのは勘弁してほしいですね。

【上司に求めること】

*粋な上司になってほしい

*部下のことをもっと見てサポートしてほしい

*少しは太っ腹なところも見せてほしい

上司、部下の話を聞くと、職場から「粋」が消えつつある状況がよくわかります。このまま職場から粋は消えてしまうのでしょうか。それは、さみしいですね。どうすればよいか、考えましょう。

上司への提案

裁量幅が狭まり、お小遣いもあまり増えないなかで、上司として粋にふるまうのは難しいと思います。お小遣いもあまり増えていなさそうですし。ただ、制約の多いなかだからこそ粋が大切という考え方もあります。まずは、粋について整理しましょう。

1.粋とはなにか

すっきりしていて、あかぬけた様子を指します。反対の言葉が「やぼ」、洗練されていない様子です。

例えば、チームの飲み会の一次会の後、幹事に「オレ、用があるから帰るわ。これ2次会の足しにしておいて」とお金の入ったポチ袋を渡し、サッと帰っていくのは粋。2次会、3次会と嫌がる部下を引っ張りまわすのはやぼ。たとえおごったとしても、みんなの前で幹事にお金を渡し、「あすからしっかり働いてくれるなら安いもんだ」などと言うのはやぼです。

部下の仕事をさりげなく手伝い、完了のめどがついたところを見はからい、なにもしていないふりをしながら「すまないけど先帰るわ」と去っていくのは粋。「これやっておいたから」と部下に念押しするのはやぼです。

2.粋になるには

粋のもとは、思いやりと、かっこつけです。思いやり系で必要なのは、当然ですが相手を思いやる気持ち。しかし、それだけでは足りません。観察力、洞察力、判断力、配慮が必要です。いま、起こっていることを、大局と面前の両方から見られる観察力。つまり、トリの視点とアリの視点で見られること。

加えて目の前の人間がなにを考えているかを見抜く洞察力。そして、総合的にどういう手を打つべきかを選択する判断。さらには、こちらのアクションを受けた相手が置かれる状況を予測した「配慮」が必要です。この時点で「やること」が決まります。

これらは、よく考えれば、マネジメントに必須なものばかり。粋の前半はマネジメント力に直結するものでした。

かっこつけ系は「やり方」、起点は遊び心です。それには余裕が必要です。これは余裕のない状況で生み出すことに意味があります。そして、かっこつけ系のトッピングはシャレ、あえて言わない、あえて見せない。背後にあるものは照れかくしです。残るは「絶妙のタイミング」。これも重要なポイントです。

どのみちマネジメントに必要な「思いやり系」に、「かっこつけ系」を少し加えてやれば粋になるということです。

3.粋の一歩目は

まずは、職場を見てください。そして、普通ではない状況の人を見つけてください。普通でなく頑張っている、普通でなく困っている。必ずいるはずです。そんな人を見つけるとともに、とりまく環境を、大局的にとらえる。これが「観察」です。そして、相手の心の中を察してください。困っていることはなにか、どうしてほしいのか。これが「洞察」。

次は「判断」です。どんな選択肢があるか、なにが効果的かを考えます。そして、それをやった時、相手の状況はどうなるか、気まずくならないか、恐縮しないかといった配慮も加えます。これで、やることは決まります。

あとは「やり方」、かっこつけです。余裕のないなかから、1分間を割き、遊び心を発揮しましょう。どんな表現がシャレているか、どんなタイミングで実行すると相手が「まいりました」と思うのか、考えてみてください。

きょう、なにかひとつ「粋」なことをやってみましょう。単純なところで、間接的に仕事を手伝うなどいかがですか。

粋の難しいところは、それを粋と感じる相手がいて成立するところです。いまの若い人は、ベタなセリフ、ごていねいな繰り返し、親切過ぎるほど説明的なテロップなどを浴び続けています。上司の粋なはからいを粋と感じてくれるか、わかりません。ただ、粋と感じてくれなかったからといって、大声で嘆くのはやぼ。「まぁ、そのうちわかってくれるだろう」とサラリと言ってのけるのが粋です。

*粋は思いやりとかっこつけからなる

*思いやり関連はマネジメントに必須なもの

*少々かっこつけを加えれば粋になる

部下への提案

確かに粋な上司は少なく、上司を粋にするため部下ができることはさほどありません。せいぜい、上司が粋っぽいことをやってくれたときに、リアクションとして感謝の言葉を述べるというぐらいです。

あまり事態は好転しそうもありませんが、嘆いていても面白くありません。粋な上司がいないならば、いっそ部下の皆さんが後輩に対し、粋な先輩になってあげてはどうでしょう。

ここでは、そのような趣旨で、部下の皆さんに粋な先輩、粋なリーダーになることを提案します。では、はじめに、あなたの粋度テストを。

問題

後輩と一緒にお客さん回りをした際、次のアポまでに30分の空き時間がありました。目の前にはセルフのコーヒーショップがあり、後輩にコーヒーをおごってあげることにしました。後輩の分も含めてお金を払うと、後輩は、「すいません。いいんですか。申し訳ないです」と恐縮しています。ここで、最も粋なリアクションはどれでしょう。

A.「いいよ」とだけ言う

B.「いや、コーヒー飲みたかったのは僕で、君はつきあってくれているわけだから」と言う

C.「サボりの口止め料」と言う

答えはCです。それはなぜか。Cを言えば相手もニヤリとするからです。Aでは相手の恐縮は解けません。相手に配慮がなければ粋とは言えません。Bは少し説明し過ぎです。あまり説明し過ぎると粋の反対、やぼになります。答えのCも言い方次第で粋度は変わります。真面目な表情で言った後、ニヤッとするなんていうのが粋でしょう。

粋とはなにか、と難しく考えるより、他者に対して少しだけ良いことをし、相手に「ありがとう」を言わせず、ニヤリと笑わせるようなことを、やってみましょう。それが粋です。

*後輩に小さな良いことをする

*相手に「ありがとう」を言わせずニヤリとさせる

上司、部下ともに粋ならば、粋な職場ができるはず。そんな職場を目指しましょう。

「粋を語るほどやぼなことはない」。これは、私が生まれ育った東京の下町、神田の人々がよく言っていたことです。私もその通りだと思います。ただ、そう言っているうちに粋は消えそうです。ということで、今回の記事になりました。

文中で挙げた事例は粋ですか? やぼですか? 読者の皆様の判定及び、粋なご意見お待ちしております。ご一緒に「平成の粋」を作りましょう。

[2013年掲載の日経Bizアカデミーの記事を再構成]

濱田秀彦(はまだ・ひでひこ)
株式会社ヒューマンテック代表取締役、マネジメントコンサルタント
1960年東京生まれ。早稲田大学卒業後、住宅リフォーム会社に就職し、最年少支店長を経て、大手人材開発会社に転職。トップセールスマンとなり、営業マネージャー、経営企画室マネージャー、システムソリューション部門責任者を歴任後、独立。現在は、コンサルタントとして、公開セミナー、個別企業の研修に出講しており、これまで指導したビジネスパーソンは1万7000人を超える。

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