上司への「ゴマすり」は効果ある? 上手なやり方は?
今回は、「ゴマすり」と評価の関係を考えます。
「評価されるヤツは上司にゴマをすっている。でも、自分はそんなことはしない。だから自分は評価が低い」という話をよく聞きます。これは本当なのでしょうか?
「ゴマすり」は効果があるのか、ないのか。「ゴマすり」はすべきなのか、すべきではないのか、を考えます。
上司の言い分
上司にゴマをすれば評価が上がるなんて、とんでもない。そんなことはありません。ミエミエのおだてに乗るほど、上司はまぬけではありません。
部下の中には「さすがマネジャー。仕事が早いですね」というようなことを言う者がいます。そう言われても単純には喜べないですね。「君に言われたくないよ」という感じがします。
「自分はゴマをすらないから評価が低い」と思っている部下もいるようですが、それは勘違いです。私はゴマすりなど求めていません。それよりも、アドバイスしたことについて結果を知らせたり、こちらが労力をかけて支援したことについてひとこと感謝の言葉を述べたりしてほしいものです。ゴマをする、すらないの問題ではなく、対人関係をもっと考えてほしいということです。
管理職の中には、部下のおだてに乗るタイプもいるとは思います。でも、そんな管理職は少数派です。いまどき、一部の部下と頻繁に飲みに行き、おだてに乗って評価を上げる上司など、めったにいませんよ。
【部下に求めること】
*「ゴマすり」と評価は無関係と考えてほしい
*アドバイスしたら結果を知らせてほしい
*支援を受けたら感謝の言葉を述べてほしい
職場に、大して実績をあげているわけではないのに、いつも評価が高い同僚がいます。たぶん、上司にゴマをすっているからです。しょっちゅう「マネジャーのおかげです」なんて言っており、それを聞いた上司はうれしそうにしています。でも、自分は上司にゴマをするつもりはありません。そんなみっともないことはイヤです。いつか、誰かが仕事ぶりをきちんと見て正当に評価してくれると思っています。
「ゴマすり」に乗る上司もどうかと思いますが、ゴマをする同僚も嫌いです。彼は上司だけでなく、他部署のメンバーやサポートスタッフまで、あっちこっちでゴマをすっています。八方美人で軽薄なヤツです。でも、そういうミエミエの「ゴマすり」でも喜ぶ人がいるのが不思議です。どっちもどっちです。
【上司に求めること】
*部下のおだてに乗って喜ぶのはやめてほしい
*仕事ぶりを見て正当に評価してほしい
「ゴマすりは効かない」と言う上司、「ゴマすりが評価に影響している」と言う部下。両者の言い分は真っ向から対立しています。どうすればよいか、考えましょう。
部下の中には「評価される人は上司にゴマをすっている」と考えている人が多いものです。中でも評価されていない部下ほど、そう考えます。
自分に甘言ばかりを述べる部下を取り巻きとして重用し、苦言を述べる部下を遠ざけて冷遇するような上司の職場ならば、そう言われてもしかたがないでしょう。ただ、そういう上司は少ないはずです。それでは、チーム運営がうまくいかず、いずれ実績もあがらなくなり、マネージャーの立場を追われるからです。
ここで取り上げたいのは、誤解されているケース。客観的に評価しているにもかかわらず、部下から「ゴマすりで評価が決まっている」と思われている場合です。
この場合の問題は、低評価の部下が自分の評価に納得していないこと。だから、その原因を「ゴマをする、すらない」に求めてしまうのです。対策は、人事考課の際、個々の部下に「なぜそういう評価なのか」「どうすれば評価が上がるのか」をきちんとフィードバックすることです。
表向き「ゴマすりが評価に影響している」と公言していない部下も、腹の中ではそう思っているかもしれません。考課後のフィードバックをきちんとしましょう。
*多くの部下はゴマすりが評価に影響していると思っている
*人事考課の際、個々に「なぜそういう評価なのか」伝える
*あわせて「どうすれば評価が上がるのか」を伝える
上司は「ゴマすりは効かない」と言っています。だから、ゴマはすらなくてもよいのです。ただ、少し違う角度からこのことを考えてみましょう。
もし、あなたが様々な人々の助力を得られる状況だとしたら、どうですか。上司をはじめとする身近な仕事仲間、部門を越えた他部署の関係者、サポートスタッフまで、いざとなったら少々無理をしてでも、あなたのために一肌脱いでくれる。それは、とても心強い状況でしょう。
「そういう状況を作っておくのも仕事のうち」という話なら納得できますね。そのためには、日ごろから多くの人々とよい関係を築いておく必要があります。つまり、日常的によいコミュニケーションをしておく、具体的には声掛けです。そのことを「ゴマすり」と呼ぶならば、大いにした方がよいでしょう。
問題は「ゴマのすり方」です。例えば、上司に「仕事が早いですね」と言ってもあまり喜ばれません。その言葉に評価のニュアンスを感じ取り「なぜ上司の私が部下の君に評価されなくてはならないのか」と思ってしまうからです。これでは、逆効果。
評価のニュアンスを感じるのは、話の主語が「あなた(上司)」だからです。「さすが」をつけようが、言い方を丁寧にしようが、逆効果は変わりません。
そこで、主語を「私」に変えます。「(私は)マネジャーの仕事の早さを手本にしています」というように。これならば、評価のニュアンスを感じません。他部署の人々やサポートスタッフに対しても同様です。「(私は)力を貸してもらって感謝しています」とすればよいのです。
また、相談に乗ってもらったら結果報告とともに、「(私は)アドバイスしていただき感謝しています」とお礼をしたいものです。支援してもらっても、相談に乗ってもらっても、その後なにも言わず、いざという時だけ力になってほしいというのは、ムシがよすぎます。
上で述べたような意味でなら、どんどん「ゴマすり」をして、自分の仕事環境を作っていきましょう。
*力になってくれる人との関係を良好にするのも仕事のうち
*「私」を主語に話す
*支援を受けたり相談に乗ってもらったら、感謝の言葉を
こういう「良いゴマすり」は部下だけでなく、上司も部下に対し、した方がよいものです。部下が力を貸してくれたら「私」を主語に感謝する。お互い様です。
[2013年掲載の日経Bizアカデミーの記事を再構成]
1960年東京生まれ。早稲田大学卒業後、住宅リフォーム会社に就職し、最年少支店長を経て、大手人材開発会社に転職。トップセールスマンとなり、営業マネージャー、経営企画室マネージャー、システムソリューション部門責任者を歴任後、独立。現在は、コンサルタントとして、公開セミナー、個別企業の研修に出講しており、これまで指導したビジネスパーソンは1万7000人を超える。
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