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部下の能力アップは上司の責任? 互いに得する方法は
部下の能力開発にどう取り組んだらよいのか
新年度になると、業務目標に加え、能力開発目標を設定する会社も多く、部下の皆さんは、新たな能力の修得、あるいは既存の能力の向上を目指していくことでしょう。
今回のテーマは、この部下の能力アップです。部下の能力がアップすれば、職場の業績向上に結びつくのですから、上司は積極的に取り組むはずです。しかし、実際にはそういう上司は少ないもの。
部下の皆さんの中には、能力開発の機会の少なさや、上司の指導力不足に対して不満を持っている方が多くいるようです。そして、能力アップは自分自身のために必要、とわかっていながらも、日々の業務に流され、取り組みが不十分になってしまっている方が多いものです。
今回は、部下の能力開発に向けどう取り組んだらよいのか、考えます。
部下の能力アップに向け、力を注ぐべきだということはわかっています。ただ、部下も少しは自分で能力を上げていくような意識を持ってもらいたいですね。
私たちの頃は、仕事は習うものではなく、盗むものだと言われていました。だから、上司や先輩たちのやっていることをよく見て、自分から積極的に聞きに行ったりしながら、仕事の腕前を上げてきたものです。難しい問題については、他部署の専門家に相談に行ったりしましたよ。それで、新たな知識や能力を身につけられたと思っています。それに比べると、いまの人は教えられるのを待っているばかりで、自分から能力を上げていこうという姿勢が足りないように思います。
私も、もっと指導をしたいとは思っています。ただ、部下も多いですし、仕事もたくさんありますから、手取り足取り教えている時間的余裕はないんです。
部下の中には、資格を取るために勉強したり、個人でセミナーに参加したりしている者がいるようです。いいことだとは思いますが、実際の仕事に活かしている者は少ないように思います。もったいないですね。
【部下に求めること】
*自ら能力を高める意識を持ってほしい
*周囲や他部署の専門家に自分から働きかけ、能力を上げてほしい
*勉強するなら、もっと仕事に活かしたほうがよい
ウチの上司は、部下の能力開発に対する意識が低いと思います。実績を上げろというばかりで、能力開発に対する支援はほとんどしてくれません。
それ以前に「どういう能力をどう伸ばし、どのような人材になってほしいのか」というビジョンがありません。今後、どういう仕事に就いていくのかも示さず、「自分の能力は自分で伸ばせ」と言うのは無責任だと思います。
周囲や他部署の専門家を巻き込んでノウハウを盗めということもよく言われますが、納期がタイトな仕事ばかりで、余裕がありません。
いまの時代、自分の力は自分で伸ばさなくてはいけないということは、分かっています。でも、自分を伸ばしてくれる上司の下で働きたいということは、いつも願っています。
【上司に求めること】
*部下の能力開発に対する意識を高めてほしい
*求める人材像、高めるべき能力を示してほしい
*自分を伸ばしてくれる上司でいてほしい
能力開発に関する溝を埋めるために――
会社は「部下の能力開発は上司の仕事」と位置づけます。上司の皆さんには、部下の能力開発は管理職の仕事のひとつと捉えていただきたいと思いますし、この点は、ご理解いただいているでしょう。
ただ、上司は学校の先生ではありません。部下の能力を開発したら、仕事に活かし成果を求める姿勢でよいと思います。
そのために必要なことが3つあります。
*部門の将来像と部下への期待役割を示すこと
*部下本人の目指す像と期待役割の擦り合わせをすること
*上記に連動し、向上が必要な能力を明確化すること
これらがそろって、能力をどう伸ばしていくのかという話になります。そして、能力が上がったら、発揮する仕事を与える、あるいは、仕事を通じて能力を上げていくというように育成と仕事を連動させる必要があります。そこまでやってはじめて、成果につながる真の能力開発が実現できます。そして、そういう関わりができるのは、人事部門の教育担当ではなく、上司だけなのです。部下の主体性を求める気持ちは分かりますが、待っているより、こうやって仕掛けていった方が戦力アップにつながります。
とはいえ、指導する時間的余裕がないことも確かです。そこは、間接的な支援という方法も含めて進めればよいでしょう。例えば、能力向上のために、部門横断的なプロジェクトに参画させる、特定テーマに関するセミナーに参加せるなど、自分が直接手をかけない方法もいろいろあります。
自分は伸びているという実感はモチベーションの向上にもつながるものです。そんな実感を与えられるよう、能力開発を支援しましょう。
*部門、本人の将来像から開発すべき能力を導き出す
*能力開発と仕事を連動させる
*間接的な方法も含めて部下の能力開発を支援する
能力開発は自分でする、と割り切った方がよいでしょう。部下の能力開発は上司の責務の一つではあります。しかし、積極的でない上司もいます。嘆いていてもしかたありませんので、自分のためにと割り切る方がよいと思います。
20代も半ばを過ぎたら、自己プロデュースは必要です。どのような人材を目指し、市場価値をどう高めるか、自分でビジョンを作りましょう。
その上で、高めるべき能力を整理すると、大きくは3つあります。
(1)コンセプチュアルスキル・・・ロジカルシンキング、問題解決能力など考える力
(2)ヒューマンスキル・・・話す、聞く、説得する、発表するなどの対人関係能力
(3)テクニカルスキル・・・実務の専門知識、技術
このうち、(1)のコンセプチュアルスキルと、(2)のヒューマンスキルはどんな仕事においても必要なものです。パソコンやスマートフォンにおけるOSのようなもので、レベルアップすれば、仕事全体によい効果をもたらします。
(3)のテクニカルスキルについては、実務の専門知識・技術だけでなく、経営の基本知識、マーケティング、人事労務、財務知識などビジネス全体の枠組みも知り、大きな視点で仕事を捉えられるようにするとよいでしょう。
自己プロデュースの結果のもと、これらに優先順位をつけ、セミナーに行く、本を読む、学んだことを仕事に活かすといった方法で習得していきます。
そして、そのシナリオは上司に話し、理解を得て、支援を求めるとよいでしょう。プロジェクト参加などのチャンスがもらえるかもしれませんし、セミナー参加費は会社が持ってくれる可能性もあります。
能力開発は自分で進める。ただ、上司には理解を求め、支援を引き出すということもした方がよいものです。
*目指す人材像を自分で描く
*目指す姿になるために必要な能力の優先順位をつける
*上司とシナリオを共有し、支援を引き出す
上司は「部下の能力開発は自分の仕事」と考え、部下も「自分の能力は自分でアップする」と考え、お互いがビジョンを共有しながら進めていく。そんな姿を目指しましょう。
[日経Bizアカデミーの記事を再構成]
1960年東京生まれ。早稲田大学卒業後、住宅リフォーム会社に就職し、最年少支店長を経て、大手人材開発会社に転職。トップセールスマンとなり、営業マネージャー、経営企画室マネージャー、システムソリューション部門責任者を歴任後、独立。現在は、コンサルタントとして、公開セミナー、個別企業の研修に出講しており、これまで指導したビジネスパーソンは1万7000人を超える。
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