葬儀業界、働きやすく 夜勤柔軟に130万人のピリオド

深夜、亡きがらを葬儀会館に安置してストレッチャーを寝台車に搬入するティアの高橋明靖さん(名古屋市中川区のティア松葉公園)
深夜、亡きがらを葬儀会館に安置してストレッチャーを寝台車に搬入するティアの高橋明靖さん(名古屋市中川区のティア松葉公園)

葬儀業界での働き方が変わろうとしている。人の死は予測できないため、年中無休で長時間労働が避けられないことが多いのが通例だった。ただ、それでは人手不足の中で多様な人材確保が難しいと、女性社員の深夜早朝勤務をやめたり、夜勤専門職を設けたりし始めた。メリハリある働き方の導入で、利用者の細かなニーズにも対応しようとしている。

全国で家族葬向けの会館を展開するエポック・ジャパン(東京・港)では、葬祭ディレクターと呼ぶ職種に就く女性社員の夜勤を廃止した。葬祭ディレクターは、式場の手配から通夜・告別式の運営までかかわる。通夜と告別式を終えても、仕事は終了とはならないことが多い。

例えば同社の宮崎支社(宮崎市)の場合。日勤は午前8時半~午後4時半だが、午後5時半~翌午前8時半の自宅待機を必要とする「夜勤」が定期的にある。夜間に人が亡くなった場合、病院などに向かい、遺体を引き取って葬儀会館や故人の自宅に安置する宅送という仕事をこなしている。

実は夜勤の後に、さらに続けて日勤となることも少なくない。エポック・ジャパンは2012年1月「女性ディレクターにはこの働き方はきつい」と考え、夜勤当番から外すことを決めた。13年春に宮崎支社に入社した大木良子さん(45)は「葬儀会社で当たり前だった夜勤がないと知り、この会社を選んだ」と話す。大木さん以降、3人の女性ディレクターが誕生した。

「力仕事の夜中の遺体引き取りがないおかげで、昼のディレクターの仕事に専念できる」と大木さん。故人が女性の場合、遺族は女性に見送りを依頼したがっていることも知った。大木さんは遺体に仏衣を着せる際、周囲の男性に見られないよう配慮する。こうした同性ならではの心遣いが受け、女性を指名する遺族が増えているという。

大木さんは3月にリーダーに昇格。支社の男性8人と女性4人の合計12人のディレクターのスケジュールを管理する立場で、同社初の管理職ディレクター。「女性として65歳の定年まで働き続けるロールモデルになりたい」と話すなど、働き方改革が本人のやる気アップにもつながっている。

夜勤が肉体的に厳しいのは女性だけではない。中高年の男性にとっても負担は大きい。中部地方を中心に葬儀場を展開するティアは、08年から夜勤専門の社員の採用を始めた。日勤社員を夜勤にできるだけ入れないようにするのが狙いだ。

会館25カ所がある最重要エリアの名古屋市内では、15人の夜勤専門社員が働く。午後3時半~午前0時と午前0時~午前8時半の2交代制を敷いている。1日に稼働する夜勤社員は10人ほど。

高橋明靖さん(47)も夜勤専門社員の一人。6月上旬の午後11時、市内の病院で亡くなった高齢男性を詰めていた本店から迎えに出かけた。入社して3年半。昼夜逆転の生活にも慣れた。「しっかり休んで働くので遺族にも失礼のない対応ができる。丁寧に見送ってくれたと感謝されるとやりがいを感じる」と話す。

高齢化が進み、年間死亡者数が130万人を超える今「死を語ることがタブーでなくなりつつあり、葬儀の仕事を志す若者は増えている」(葬祭専門学校の日本ヒューマンセレモニー専門学校)。2000年の開校時、学生の大半は家業を継ぐ目的だったが、この4、5年は全く関係ない若者ばかりだという。

親の仕事を見て育っていない在校生の中には、慣習で葬儀が少ない友引の日くらいしか休めない労働環境に不安を持つ人も。19歳の男子学生は「神奈川のある会社を訪問したら週2回は夜勤だと言われ驚いた。将来、結婚したら仕事と家庭は両立したい。会社選びが難しい」と話す。

そんな中「働く時間などで自由度の高い派遣スタッフに若者の関心が集まっている」と葬儀専門の人材派遣会社ディライト(東京・新宿)の高橋亮社長。同社は式場や生花の設営、会葬者の案内など、葬儀会社から仕事の依頼があれば、必要な人員を会場に派遣する。20歳代から40歳代を中心に200人が登録している。「日に平均40~50の中小・零細葬儀会社から依頼がある」と高橋社長。

若い人材確保には、特殊な職種ではあっても、個人の生活を犠牲にしない働き方が求められる。改革は待ったなしのようだ。

従業員数増えるも環境は厳しく

葬儀会社で働く人の数は右肩上がりだ。経済産業省の「特定サービス産業動態統計調査」によると、2015年の葬儀業の正社員とパート・アルバイトを合計した従業員数は約2万4000人。06年比で1.5倍。今後も就業希望者が増えるとみられる。事業所数も約2倍の2200にのぼる。

ただ長年の慣習から、業界全体が求人情報の公開に消極的で、ハローワークに求人情報を出したり、新卒を定期的に採用したりするのは大手十数社にとどまる。新規就業者の大多数は縁故や知人の紹介だという。

事業所の大半は資本金5千万円未満の中小・零細。家族経営が目立つ。葬儀は冬に多いとされ、繁閑の差が激しい。そのため、人員は必要最小限しか確保しない。経営資源を十分な人件費に回す余裕もなく、従業員が何役もの仕事を掛け持つ例も。長時間労働が常態化し「深夜にすぐ病院に行けるよう、黒のスラックスをはいて寝る」(都内の中小経営者)といった声すらある。

(保田井建)

〔日本経済新聞夕刊2016年6月21日付〕