理性的リーダーになるには「瞑想」が効果的?早稲田大学研究戦略センター教授 枝川義邦氏

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6月下旬、多くの上場企業で株主総会が開かれ、新社長や新役員が次々誕生する。卓越したリーダーは、マインドセット、コントロールに優れているといわれる。近年、脳科学分野の研究が進み、欧米のリーダーたちはそのメカニズムを積極的に学習し、脳科学を経営に生かそうとしている。早稲田大学研究戦略センターの枝川義邦教授に有能なリーダーの脳の働き方などについて聞いた。

――ファーストリテイリング会長兼社長の柳井正氏は「本物のリーダーは鬼と仏を行き来する」と語りました。有能なトップは理性と感情をうまく制御し、叱るのも、ほめるのもうまいといわれますが。

リーダーに必要な3つの要素

卓越したリーダーには「ビジョン」「ミッション」「パッション」の3つが備わっているといいます。これらがバランス良く整っている状態は、パフォーマンスが上がるだけでなく精神的にも平穏でいられるものです。そして、周囲ともこれらを共有していくことで、組織をけん引する魅力に満ちていくことにもなりましょう。

ビジョンとミッションを意識することで、どんな状況においても目標を見失わず「理性的」でいられます。しかし、魅力的なリーダーはそれだけでなくパッションに満ちているものでもあります。パッションとは情熱です。情熱に満ちているときには、脳では神経伝達物質のノルアドレナリン量が多くなった状態です。しかしこれはストレス反応でもあるので、長く続けると脳も身体もダメージを受けてしまうことから、自在なコントロールができれば、魅力を維持しながら持続可能性が高くなるといえるでしょう。

また、卓越したリーダーは「失敗から学ぶ」とよくいわれます。これは、失敗を失敗にとどまらせずに成功の糧とし、将来に対する「不安」という感情をうまく駆動力として、次のステップに生かしていくことができる存在なのだと思います。

リーダーは困難をストレスととらえない

早稲田大学研究戦略センター教授の枝川義邦氏

このようなトップリーダーの振る舞いは、「セルフエフィカシー(自己効力感)の高さ」で説明できるでしょうか。セルフエフィカシーは、以前は「その気」に言い換えて「その気の上げ方」といいました。しかし、トップリーダーは既に「その気」が高いものです。そのような人の行動パターンとしては、一般の人よりも難しい課題を選びがちで、困難な課題は自分を成長させる要因だと考えることができるというものです。

一見、難しいと感じられることも、このようなトップリーダーにとっては喜びに感じるともいわれます。通常はストレスに感じてしまうような仕事であっても、それを「成長のハードル」と捉えることができるからです。

実はこのように考えることができると、身体の反応も変わってくるようです。一般的に、精神的なストレスに感じることがあったときには、身体でもストレス反応が生じて、血圧が上がったり汗ばんできたりするものです。しかし、同じ状況を「糧」にできる人たちには、そのようなことが生じても、それを「エネルギーに満ちた状態」と捉えることで、「ストレス反応」が持続せず、次のステップへの飛躍が図れるのだといいます。

これは、いわば、恋をしているときと同じようだともいわれます。心身ともに躍動感に満ちた状態になるのだそうです。つまり、その人の脳にとっての「報酬」になっているのです。

成功率50%だと脳は「報酬」に感じる

ところで、脳が「報酬」に感じるハードルの高さは成功確率が50%のときだとされています。これは、自分のベストパフォーマンスを発揮したときに、ようやく飛び越えられるようなハードルの高さといえるでしょう。このようなときには、脳の報酬系の神経ネットワークの活動が最大になっているのです。

大きな仕事であっても、セルフエフィカシーが高く「その気」になっている人は、自分が頑張れば「それを越えられる」と受け取ることができ、スキルに伴って成功体験を積むことで、さらに自身のマインドコントロールがしやすくなるだけでなく、成果も伴ってくることで、ますますリーダーらしい風格を身につけていくのでしょう。

――有能なトップリーダーや、マネジャーはどのような脳のつくり、あるいは機能をしているのでしょうか。

理性の脳は瞑想で心穏やかに合理的判断ができるようになる=PIXTA

ビジネスの場面では、トップリーダーには、一見「非情」とも思える意思決定も必要かと思います。人情味があることはリーダーの魅力を増すものですが、それだけでは成り立たない立場だということでしょう。

もちろん、トップリーダーには先に触れた「情熱のコントロール」だけでなく「感情のコントロール」も求められます。自身の感情のコントロールや周囲の感情もコントロールできることが、リーダーにとってどのような意味や意義があるのかをみていきましょう。

脳のなかには、いわゆる「理性の脳」と「感情の脳」と呼ばれる領域がそれぞれあります。代表的なのは、理性的な価値判断やスケジューリングを担う「前頭前野」、感情的に好き嫌いや喜怒哀楽などを担う「扁桃(へんとう)体」や「島皮質」が挙げられます。

これらの領域はお互いのニューロンが情報を送り合って、影響を及ぼし合っていることが知られています。それぞれの領域の活動性によっては、相手の領域の働きに「ブレーキ」をかけてしまうこともあるくらいです。ついカッと感情的になったときに理性的な判断ができなくなるのは、「感情の脳」が「理性の脳」の働きにブレーキをかけているからです。怒りにのまれて「アタマが真っ白になる」のはこのためです。

脳内では理性と感情を天秤に

「理性の脳」である前頭前野に大きな影響を及ぼしているのは、それ以外にも、モチベーションや快感といった「報酬」に感じる状態を担う「報酬系神経ネットワーク」なども知られています。報酬に感じるものが手に入ると期待できると、意欲が増すのはこのためです。

このような脳でのやり取りにおいては、常に「理性」と「感情」が天秤(てんびん)にかかった状態になっています。前頭前野と扁桃体や島皮質の活動性のバランスが、どちらに傾いているかによって、実際の判断、その先にある行動に違いが生まれるのです。

経済的に不条理な条件を提示されたときに脳でどのような領域が働いて、どの領域同士が影響を及ぼし合っているのかを調べた研究によると、「感情の脳」の活動性が高い場合には、いわゆる「ちゃぶ台返し」をしてしまいがちだということです。合理的な判断ができる人の脳と比較して「理性の脳」の活動性は同程度なのに対して、「感情の脳」の活動性が高いことから、バランスが感情側に傾いた行動をとるのだというのです。

となると、合理性を追求した経営判断を求められるトップリーダーは、脳のなかのバランスが「理性の脳」へ傾いているといえましょう。情熱に満ちたように見えても、その実、脳は「理性的」で冷静な判断ができるような状態です。

「理性の脳」活発化には瞑想が有効

このような「理性の脳」の活動性を高めるには、どのようなことが有効なのでしょうか。最近の脳の研究では、瞑想(めいそう)が効果的だということが分かってきています。瞑想の習慣がある場合には、前頭前野の活動性が高く、扁桃体の活動性が低く抑えられるようになるといいます。いわゆる「達観」に近い状態になれば、混迷極める実社会においても、心穏やかに合理的な判断が可能になるのです。

ところで、リーダーに選ばれる人の脳の働きを調べた研究からは、リーダーたる存在の身の振り方に対する示唆を得られます。

この研究では、リーダー不在のコミュニティーから自発的にリーダーが選ばれる過程を調べ、リーダーはフォロワーと脳波の同期がみられることを報告しています。フォロワー同士では脳波の同期が生じず、リーダーとフォロワーとの間でのみ見られる現象なのだそうです。また、これは言語化されたコミュニケーションでのみ生じたことから、リーダーは、言葉によって周囲の心をつかんでいく術にたけていることが必要だということが改めて証明された形になります。

会話の質で良いリーダーに

そして、このような“脳のコミュニケーション”は、会話の時間には依存せず、会話の質によるものだということです。多くは語らずとも周囲の心に響くメッセージを伝えていくのがリーダーの存在感といえましょう。

私たちの脳では、危機管理の一環として、脅威を感じて忌避的な感情になるときには、「扁桃体」と呼ばれる領域の活動性が高まっています。リーダーに選ばれる人とは、フォロワーの脳の扁桃体があまり活動せずに「納得感」をもってフォローしたくなる存在なのです。

枝川義邦氏(えだがわ・よしくに)
早稲田大学研究戦略センター教授(早大ビジネススクール兼担講師)。1969年生まれ、東京都出身。98年東京大学大学院薬学系研究科博士課程修了、博士(薬学)。2007年早大ビジネススクール修了、MBA(経営学修士)。同年、早大スーパーテクノロジーオフィサー(STO)の初代認定を受ける。14年から現職。脳の神経ネットワークから人間の行動まで、マルチレベルな視点による研究を進めており、経営と脳科学のクロストークを基盤とした執筆や研修も行っている。著書に『「脳が若い人」と「脳が老ける人」の習慣』(明日香出版社)、『記憶のスイッチ、はいってますか』(技術評論社)、『タイプが分かればうまくいく!コミュニケーションスキル』(共著、総合法令出版)など。

(代慶達也)

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