HPのSurfaceライバル機、Officeの軍門に下る
戸田覚のPC進化論
マイクロソフトの「Surface」はWindowsパソコンの人気モデルとして定着したようだ。店頭でもよく目立っているし、利用しているユーザーもちらほら見かけるようになった。タブレット+薄型キーボードというスタイルを確立したモデルと言っても過言ではないだろう。
そんな中、Surfaceのライバルとして新登場した日本HPの「HP Elite x2 1012 G1」を見ていこう。タブレット+薄型キーボードというスタイルだけでなく、背面にキックスタンドを装備するなど、コンセプトはSurfaceと全く同じだ。
なお今回は、手元にあるSurface Pro 3を同製品と比較する。Surface Pro 3とSurface Pro 4では液晶サイズが違うのだが、本体の大きさはほぼ同じなので、参考にはなるはずだ。なお、キーボード(タイプカバー)はSurface Pro 4用のものを装着した。
スタンドの可動域は最大150度
HP Elite x2 1012 G1は、Surfaceと同様、背面のスタンドで自立する。可動域はSurfaceと同じで、最大150度まで無段階で傾けることができる。
違いは、Surfaceのキックスタンドが板状なのに対し、HP Elite x2 1012 G1は、枠のような形状になっている点。ちょうつがい部分が小さいので固定するのが難しそうだと思っていたが、どの角度でもきっちり止まり、倒れてしまうようなことはない。
ちなみに、設置には一般的なノートパソコンよりも奥行きが必要という欠点もSurface同様だ。新幹線のテーブルなど、狭いところでは使いやすいとは言えない。
ベゼルが広いために不格好に見える
さて、下の写真をご覧いただきたい。なんとなく、不格好に感じないだろうか? 特にSurface Proシリーズのユーザーは、そう感じるに違いない。原因はベゼルの広さだ。
Surfaceとサイズを比較してみよう。Surface Pro 3は201.3×292×9.1mmだが、HP Elite x2 1012 G1は213.5×300×8.05mmと、幅と高さはSurfaceより長くなっている。縦横とも1cm前後の違いなのだが、液晶はどちらも縦横比3対2の12型なので、結果としてHP Elite x2 1012 G1のほうがベゼルが広くなる。そのせいで正面から見るとちょっと不格好に感じるのだ。
そもそもこの手のモデルを買う時点で、ユーザーは格好の良さを期待しているはず。そう考えると、HP Elite x2 1012 G1はやや残念なデザインだ。せっかくSurfaceよりも薄く仕上げているのだから、あと7~8mmはコンパクトにしてほしかった。
安くなるならフルHDでも納得できる
最近は高解像度の液晶が主流になっているので解像度も比較してみよう。Surface Pro 3の液晶は12型で、解像度は2160×1440ドット。一方HP Elite x2 1012 G1は同じ 12型で も1920×1280ドットとなっている。さらに、Surface Pro 4は2736×1824ドットだ。
近ごろは、ハイエンドノートパソコンの解像度がどんどん向上しているとはいえ、フルHDでも実用上は問題ないと個人的には思っている。解像度の高い写真などを表示すると違いは明らかだが、ワードやエクセルで作業したり、ウェブサイトを見たりする程度では、それほど違いを感じないはずだ。
もちろん、解像度は高いほうがいいに決まっているが、価格が安くなるなら、そちらのほうがありがたい。それよりも期待したいのは、より鮮やかで消費電量が抑えられるであろう有機ELだ。
僕の手元のSurface Pro 3と比べると、明るさはHP Elite x2 1012 G1のほうが明らかに上だ。この2つの液晶のどちらがいいかと言われたら、僕なら後者を選ぶだろう。ただし、手元にあるSurface Pro 3は液晶がやや黄ばんできており、劣化したものを比較しているので念のため。
拡張性はSurefaceの上を行く
Surface Proシリーズに比べてという注釈付きになるが、HP Elite x2 1012 G1の拡張性は"かなり"優れている。通常サイズのUSB3.0端子は1基にとどまるものの、充電端子としてUSB Type-Cが採用されているのだ。このUSB Type-Cはディスプレーなどとの接続にも利用できる。
Surfaceの場合、充電用の端子は専用で、USB3.0端子とMini DisplayPortという組み合わせだ。
USB Type-CでもMini DisplayPortでもディスプレー接続にはアダプターが必要になるのが普通だ。それなら、将来性が高いUSB Type-Cの方が使いたい。
HP Elite x2 1012 G1は、LTEに対応しているのも大きい。SurfaceのProシリーズはなぜかLTE非対応で、下位モデルのSurface 3のみが対応している状況だ。
これからタブレットを手に入れるなら、LTE対応はマストだと僕は考えている。また、指紋認証センサーも標準で搭載している点を考慮すると、タブレットとしての拡張性は、HP Elite x2 1012 G1に軍配を上げたい。
金属製のキーボードはなかなか打ちやすい
標準で付属するキーボードは金属製だ。当然、重量の点ではマイナスになるのだろうが、たわみが少なくて打ちやすい。ストロークも1.5mm確保されており、アイソレーションタイプのキー配列も上々。タブレット付属のキーボードとしては、かなり高く評価できる。とはいえ、Surface Pro 4のキーボードも打ちやすいので、この点は引き分けだ。
なお、どちらもタッチパッドのボタンが独立していないのが残念。使い勝手を考えるなら独立させてほしかった。
また、HP Elite x2 1012 G1はペン入力にも対応しており、ワコムのアクティブ静電結合方式が採用されている。2048段階の筆圧を検知するとのことで、しばらくテストしてみたのだが、筆記の線が飛ぶことが何度もあった。個人的には、もう少し正確に認識してくれないと使う気になれない。個体差なのかもしれないが、念のために記載しておく。
性能は十分だがコスパはイマイチ
HP Elite x2 1012 G1のCPUはCore Mシリーズだ。Core i7が選べるSurface Proシリーズと違って、Core M7のCPUが最上位になっているが、普通に使っている上では十分だと思う。大量に手書きをするなど、ヘビーな作業をしない限り性能不足を感じることは少ない だろう。
キーボード込みの重量は1.205kgと、HP Elite x2 1012 G1のほうがやや重い(Surfaceは1.061kg)。特にキーボードの重さに差がある。また、バッテリー駆動時間は、JEITAバッテリ動作時間測定法による測定で8.2時間とまずまず。Surfaceは、連続9時間のビデオ再生が可能となっているが、評価の方法が違うので言及しない。
価格は、HP Elite x2 1012 G1が税込み15万6384円(キーボード付き1000台限定モデル)。Surfaceに別売のタイプカバーを加えた価格は税込み15万2496円なので、その差は4000円弱となる。
HP Elite x2 1012 G1は完成度も高く、キーボードも打ちやすいのだが、メジャーでブランド力のあるSurfaceをライバルと考えると、現在の価格で勝負するのは難しいかもしれない。Surfaceには「Microsoft Office」も付いているのだ。こればかりは本家マイクロソフトの強みで、HPからすれば"反則"かもしれないが……。LTE対応であと3万円ほど安いモデルが登場すれば、いい勝負になるのではないかと思う。
1963年生まれのビジネス書作家。著書は120冊以上に上る。パソコンなどのデジタル製品にも造詣が深く、多数の連載記事も持つ。ユーザー視点の辛口評価が好評。
[日経トレンディネット 2016年5月31日付の記事を再構成]
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