検索朝刊・夕刊LIVEMyニュース日経会社情報人事ウオッチ
NIKKEI Prime

朝夕刊や電子版ではお伝えしきれない情報をお届けします。今後も様々な切り口でサービスを開始予定です。

検索朝刊・夕刊LIVEMyニュース日経会社情報人事ウオッチ
NIKKEI Prime

朝夕刊や電子版ではお伝えしきれない情報をお届けします。今後も様々な切り口でサービスを開始予定です。

検索朝刊・夕刊LIVEMyニュース日経会社情報人事ウオッチ
NIKKEI Prime

朝夕刊や電子版ではお伝えしきれない情報をお届けします。今後も様々な切り口でサービスを開始予定です。

NIKKEI Primeについて

朝夕刊や電子版ではお伝えしきれない情報をお届けします。今後も様々な切り口でサービスを開始予定です。

/

小室淑恵 建設コンサルの改革、残業減で利益倍増

パシフィックコンサルタンツ(上)長時間労働の弊害に挑む

詳しくはこちら

NIKKEI STYLE

日経DUAL

ワーク・ライフバランス主催で経営者限定の働き方改革についての勉強会が行われた。ゲストスピーカーは総合建設コンサルタント、パシフィックコンサルタンツの長谷川伸一会長とワークライフバランス推進担当の広報室の油谷百百子さん。残業を5%削減し、利益を2~3倍に増やした同社の事例について、ワーク・ライフバランスの小室淑恵社長と語り合います。上下の2回に分けてお送りします。

働き方改革は経営を改善するためだった

長谷川会長(以下、長谷川) 建設コンサルタント業界は欧米では100年から200年くらいの歴史があり、価格よりも技術の成果によって金額を決めることが多いのですが、日本は戦後の誕生でまだ歴史が浅いことや、公共事業予算との関係から「安ければいい」という風潮が根強く残っています。

私が若いときにこの業界は"男の仕事"と言われ、自己犠牲の上に成り立っていました。社会に貢献する誇りを持ちつつ、国土を作っているのだから残業は当たり前じゃないかという意識です。会社に寝泊まりしながら頑張っていた世代が今の経営者となっているので、長時間労働の改善になかなか意識がいかない。私はなんとかその呪縛から抜け出したいと思っていました。

小室さん(以下、小室) 2012年に働き方の改革に挑む前は、仕事の山が毎年3月に集中していましたよね。公共事業の予算の都合上、3月に納期が集中するという背景がありました。

ところが3年間、働き方の改革に取り組まれたことによって、利益や受注高が良い形で変化したんですよね。このように変わるにはどのような意識で取り組んだのでしょうか。

長谷川 実は自分以外の役員たちは長時間労働をやめることによる経営への悪影響を心配していました。お客さんの要望にすぐに応えられなければ、お客さんが離れていってしまうのではという恐怖感があったのです。

ところが長時間労働を続けていると、サービス残業により労災を認定されるなど、企業そのものが指名停止処分を受ける恐れもあります。また、当時は公共投資に対するバッシングがあり、売り上げも落ちている時期でした。長時間労働で人件費のウエイトが高くなり、"損益分岐点"が上がっていた。それでは経営が成り立ちません。ならば「長時間労働をなくせば経営が改善するのではないか」ということで、多くの役員が納得するに至りました。

長時間残業の申請は、300件から60件にダウン

長谷川 その後、東日本大震災からの復旧・復興業務や防災・減災などの事業が増えたということもありますが、利益が伸びました。

2012年からの3年間で売り上げも320億円、370億円、420億円と増やすことができ、2014年9月の利益は40億円ほどになりました。久しぶりに社員に予定を上回るボーナスを支給でき、ベースアップも3.5%になりました。

一方、残業時間は、2013年は1%、2014年は5%減少。会社が規定する時間を超えた残業申請については、2012年に300件近くあったものが、2013年には60件ほどに減っています。利益が2~3倍になったにもかかわらずです。

小室 仕事が増えると残業時間が上乗せされ、長時間労働に耐えきれなくなって人材が流出してしまうというケースがあります。そうではなく受注高16%アップ、残業がマイナス5%という現象になったのですね。素晴らしいです。実際にどのように進めたのでしょうか。

油谷百百子さん(以下、油谷) 2009年秋にワークライフバランス講演会として小室社長に講演していただいたときに、私自身が衝撃を受けたんです。それまでワークライフバランスは"きれいごと"かなと思っていたのですが(笑)、限られた時間で生産性を上げることは当社にとって必要な考えだと思い、すぐに企画を立てて社長に提出し、会社として取り組むことになりました。

管理職を対象に研修を実施したときには、「ワークライフバランスの研修」とは言わず、「内部統制研修」という名前で行いました。顧問弁護士を呼び「なぜ残業が減らないのか」「どうしたら残業を減らせるのか」についてワークショップで話し合って発表し、弁護士に講評してもらうことから始めました。

管理職からは「裁量労働制を取り入れる」「個人の働き方を見直す」という解決策の提案がありましたが、弁護士からは「個人の意識改革だけでは変わりません。あなたたち、管理職が部下一人ひとりの残業を管理しなければ減りません」というアドバイスがあり、管理職の意識が高まったように思います。

最初は社内の4チームという小さい単位で、働き方を見直すプロジェクトから始めました。

小室 小さいチームでも社内に事例を作ることが重要なんです。他社で見られる良い事例を紹介しても、「あの会社はウチの会社みたいに時差のある国とやり取りをする必要がない」「業界が違うのだから、同じようにはいかない」などと取り入れようとしないからです。同じ社内で、しかも残業の多いチームが変わっていく様子を実際に目の当たりにすることでやっと意識が変わるんです。

最初の講演会で参加者から「わが社の価値は、クライアントからどんな時間に連絡が来ても対応できること。ワークライフバランスを進めることで、その強みが失われてしまったらどうするんですか」というご質問がありました。

私は「御社の付加価値は、本当に24時間、365日、お客様のご要望にお応えすることなのでしょうか。技術という付加価値ではないのでしょうか。すぐに対応できることだけが価値なら、残業をしなくなれば受注はなくなります。御社の価値はそれだけなのか、ぜひ考えてみてください」とお伝えしました。

実は、2013年末に弊社に転職してきた女性が、パシフィックコンサルタンツさんの大手取引先に勤めていました。彼女は産休を取って会社に戻ったら、パシフィックコンサルタンツさんの位置付けががらりと変わっていたことに気付いて驚いたそうです。以前は、3月の納期に向かってお互い泥沼になりながら進めていたのに、産休復帰後はパシフィックコンサルタンツさんが劇的に働き方を変えていた。自分達が納期通りに仕事をするために、いつ何をしなくてはならないかを前倒しでリマインドしてくれるようになったのだそうです。それでお互い確認しあいながら進めていくことで、安心して着実に納期を迎えることができた、と。

今は、発注先としての位置付けが上がり、技術力で勝負しなければならない重要な案件こそ、パシフィックコンサルタンツさんに最初に相談する雰囲気が生まれているそうです。

多くの人を巻き込み、ノー残業デーの退社率が約95%

油谷 ワークライフバランスを推進するに当たり、事務局としては色々な人を巻き込むようにしました。事務局からの発信だけでは弱いので、社長が社員の前で話をする際には、必ず「限られた時間で成果を出すことが大事だ、という話をしてください」と依頼しました。プロジェクトのリーダーには「自分達がどういう取り組みをしているか」「どういうところで働き方の見直しが役立っているか」を、色々なところで話してくださいと伝えました。

長谷川 「残業に支えられている経営は、将来行き詰まる。将来のことまで考えて、付加価値を付けることが大切なんだ」ということを何度も伝えました。

「経営者としてもワークライフバランスの推進に対し、率先垂範することで決意を示してください」と言われ、常務以上の経営トップの会議で"スタンディング会議"を実施しました。ほかの役員からは「なんで立って会議をしなくてはならないんだ」と言われましたが、油谷さんが「経営者は役割の重要性からも、知力や体力が求められます。立つことによって脳が活性化し、会議の効率化・活性化の両方につながります」とズバッと言ってくれ、みんなしぶしぶ続けることになりました(笑)。

油谷 それまでもノー残業デーはありましたが、録音された音声が放送されるだけで形骸化していました。労使の委員会で「まずは長時間労働の削減として、もう少し実現性を高めよう」と全社一斉でノー残業デーに取り組むことにしました。

組合が社長の写真と「帰れ」というコピーを掲載したポスターを作りました。その後、さらにノー残業の大切さを身近に感じてもらうために、それぞれの事業本部長も顔写真を載せて貼り出しました。モノクロに赤字で「帰れ」と文字がある、かなり怖いポスターです。

この月のノー残業デーの退社率は94.8%でした。

その取り組みについては業界紙でも取り上げられました。業界紙は発注者さんも読まれます。業界紙で予め告知をしているのに、ノー残業デーの日の夜に会社にいたらお客様におかしいと思われてしまいます。こうして外堀も埋めて「帰らざるを得ない状況」を作りました。

さらには、退社率94.8%という結果を受けて、同業他社に「業界一斉でやりませんか」と呼びかけました。その後、計14社で実施することになり、14社平均の退社率は82.3%でした。

14社で話し合い「"ノー残業の輪"をもっと広げたいね」ということになり、さらに19社で行いました。今では、建設コンサルタント業界全体で行っています。

長谷川 最初は、他社から「ノー残業デーなんてできるわけがないだろう」と言われていましたが、長時間労働によって若い人が辞めてしまったり、家庭がダメになったりする可能性があるなら、何がなんでもやらなければと思いました。

業界紙やメディアにも取りあげていただいたことで、若い優秀な社員が集まってきてくれるようになりました。業界他社では社員が集まらなくて悩んでいる。それなら、業界全体で取り組もうという話になったのです。

業界紙に「こういう改革をしました」という情報を載せてもらうと、発注側も見るので話題になります。広報担当も一緒に、どんどん社外にも知らせていくことが大切だと思いました。

小室 「外部のメディアに出たわが社の姿」というのは、社員は非常に気になるものです。外部のメディアにどう出すかも、戦略の上で大切だと思います。

長谷川 ワークライフバランスに取り組み、実際に残業が目に見えて減った部署をたたえる報奨制度を作りました。同じ成果を出している2つの部署があったら、残業が少ないほうが効率がいいわけです。ですから、「残業を削減した分を全額ボーナスで返します」と言ったのですが、最初は誰一人信用してくれませんでした。

そして実際に結果を出した部署にはボーナスで返しました。これで会社と社員の距離が一気に縮まり、信頼関係が深まったと思います。

メンバー間で興味を持つと、仕事がスムーズに

小室 「朝メール・夜メール」の効果もありましたね。これは「毎朝、自分の仕事を15分から30分の単位で組み立てて、部内にメールをしてください」とお伝えしているものです。

「おはようございます」に続いて、「週末に娘の運動会がありました」といったプライベートの様子を紹介する人も出てくれば、「あの人って子どもがいたんだ」「今、親御さんの介護中なんだ」などと、一人の人間として興味を持ち始めるようになります。

生産性の低さは実は社内の"人間関係の悪さ"から来ていることが多いのです。「隣にいる人が嫌い」「仕事を頼みたくない」「先輩に嫌われている気がする」……。そんな思いがあるために、仕事の全部を自分でやってしまい、誰にも聞けずに一人で迷走してしまうのです。

上司も自分が若いメンバーだった時代、そういう経験をしている。つまり働き方が職人的なのです。そんな道を通ってきているので、やはり上司になっても同様に困っている若いメンバーを野放しにしてしまいがちです。

この状況は朝夜メールによって解決することができます。

長谷川 周りの人の仕事内容が見えて家庭状況が分かると、その人のことが気になり始めるんですね。困っている人がいたら「じゃあ、みんなでどうフォローしようか」という話が自然と出てくるようになり、仕事もスムーズに進むようになったと思います。

* 次回は、質疑応答についてお伝えします。

パシフィックコンサルタンツ
1951年創業の建設コンサルティング企業。社会資本整備を主体とする公共事業が約85%を占め、主な顧客は国や地方自治体。社員の80%が技術者で、土木、都市計画、建築のプロフェッショナル。業務内容は社会インフラ全般の企画、調査、設計、施工管理、維持管理で、最近は防災・減災対策や、災害からの復興、地域活性化や老朽化した公共施設の維持管理、エネルギーなどに一貫性を持って取り組んでいる。
小室淑恵
 ワーク・ライフバランス代表取締役社長。2006年ワーク・ライフバランスを設立。 「ワーク・ライフバランス組織診断」や「育児休業者職場復帰支援プログラムarmo(アルモ)」「介護と仕事の両立ナビ」「朝メール.com」などを開発。また携帯電話用サイト「小室淑恵のWLB塾」をリリース。09年よりワーク・ライフバランスコンサルタント養成講座などを主催、多種多様な価値観が受け入れられる社会を目指して邁進中。2児の母の顔を持つ。消費増税集中点検会合など複数の委員会・公務を兼任。著書多数。最新刊は『労働時間革命 残業削減で業績向上! その仕組みが分かる』。

(ライター 西山美紀)

[日経DUAL 2016年5月24日付記事を再構成]

春割ですべての記事が読み放題
有料会員が2カ月無料

有料会員限定
キーワード登録であなたの
重要なニュースを
ハイライト
登録したキーワードに該当する記事が紙面ビューアー上で赤い線に囲まれて表示されている画面例
日経電子版 紙面ビューアー
詳しくはこちら

ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。

関連企業・業界

セレクション

トレンドウオッチ

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
春割で無料体験するログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
春割で無料体験するログイン
Think! の投稿を読む
記事と併せて、エキスパート(専門家)のひとこと解説や分析を読むことができます。会員の方のみご利用になれます。
春割で無料体験するログイン
図表を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した図表はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
春割で無料体験するログイン

権限不足のため、フォローできません

ニュースレターを登録すると続きが読めます(無料)

ご登録いただいたメールアドレス宛てにニュースレターの配信と日経電子版のキャンペーン情報などをお送りします(登録後の配信解除も可能です)。これらメール配信の目的に限りメールアドレスを利用します。日経IDなどその他のサービスに自動で登録されることはありません。

ご登録ありがとうございました。

入力いただいたメールアドレスにメールを送付しました。メールのリンクをクリックすると記事全文をお読みいただけます。

登録できませんでした。

エラーが発生し、登録できませんでした。

登録できませんでした。

ニュースレターの登録に失敗しました。ご覧頂いている記事は、対象外になっています。

登録済みです。

入力いただきましたメールアドレスは既に登録済みとなっております。ニュースレターの配信をお待ち下さい。

_

_

_