NON STYLE井上が「性格イケメン」に
ポジティブ格言、恋愛本も
「ブサイク」「ナルシスト」といわれ続けてきたNON STYLEの井上裕介が「性格イケメン」として注目度をグングン上げている。いくらたたかれても折れないその性格が、いつしか「ポジティブなキャラ」へと変化し浸透。今やPR会社のブッキングリストに名前が挙がる常連となり、映画の宣伝や企業のキャンペーンに次々に起用されている。
昨年春、数々のポジティブ格言が盛り込まれた日めくりカレンダーを発売した。そのヒットを受け、恋愛指南本や手帳、カプセルトイなど関連アイテムが続々登場。今年はカレンダー『まいにち、ポジティヴ・ラヴ』を発売したほか、プリントシール機の筐体(きょうたい)にまでなった。最新カレンダーの格言は「恋には専門家がいっぱいいるんだ」「失恋は、新たな出会いへのトランジット」などの恋愛バージョンということもあり、気がつけば女子中高生のアイドルと化している。
もともとNON STYLEは『M-1グランプリ』をはじめとして、漫才の賞レースを総なめするほどの実力の持ち主。コンビでの漫才に関しては高い評価を得ていたが、井上個人にスポットが当たるようになったのは2013年ごろから。当時たびたびニュースになっていたSNSでのこんな現象がきっかけだ。
「自分がツイッターを始めたとき、一般人と芸人がケンカすることが多くて、よくニュースになっていたんです。だったらみんなと逆のことをしようと思って始めたのがポジティブツイート。正直、自分にもネガティブな面はあるけど、意図的にポジティブな面だけ出すようにしました」(井上)
大きな拡散を見せたのは、あるツイートに対する返答だった。
「自分のアカウントに140文字全部"死ね"と書かれたことがあって。これに対して"この文章を作ってる時間で、誰かに優しくできますよ!"って返したんです」
これが番組で取り上げられたことで、「バカにしていた人たちも"いい奴なんや"と見方が変わってきた」と振り返る。「ナルシスト」という呼ばれ方は次第に「性格イケメン」に変わっていった。
これまではブサイク、ナルシスト一辺倒だったが、ポジティブという要素が加わったことで「トークの幅も広がって、すごくラクになりました」。ヘコまない性格は、「そうやって育てられたんです」と、親への感謝ものぞかせる。
とはいえ、よしもと芸人のブサイクランキングで殿堂入り(14年)を果たした際には、さすがにポジティブになれなかったのでは? と尋ねると、「あれは獲(と)りに行って獲りましたから」という答えが返ってきた。「みなさんが俺の術中にハマった。勝ったと思いました」とニヤリ顔。ブサイクキャラが世に広く認知されたことを考えると、確かに井上の言う通りなのだろう。
何事もポジティブに捉えられる能力は、有能な戦略家にもなり得るのだということを教えられる。著書やカレンダーに書かれている格言は、ガチでこの人の戦術なのだ。ブサイク、ナルシスト、ポジティブ…。彼が次に打ち出す第4のキャラクターが待ち遠しい。
(「日経エンタテインメント!」6月号の記事を再構成。敬称略、文・遠藤敏文 写真・佐賀章広)
[日経MJ2016年6月17日付]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。