一部では「オーディション会場で会いたくない女優No.1」とも称される芳根(よしね)京子。オーディションに合格して役をつかむことが多いためだ。2015年夏に放送のドラマ『表参道高校合唱部!』や、映画『幕が上がる』などはいずれもオーディションで選ばれた。その面目躍如といったところで、4月には、16年秋から放送予定のNHK連続テレビ小説『べっぴんさん』で主役を務めることが決まった。
実際は、そんなに受かってないんです。そういった記事が出た3日後に、私、オーディションに落ちたんですよ(笑)。15年の前半にオーディションで選んでいただくタイミングが重なったんですが、記事が出た後で受かったのは『べっぴんさん』が初めてで。
私、実はずっとオーディションが怖くて、行きたくないと思っていたんです。初めの頃はいろいろ考えて臨んでたんです、受かるために何をどうやって伝えるべきかなと。でもオーディションは、その場で台本を渡されるケースもあるし、覚えてきた台詞を披露するケースもあります。『幕が上がる』は、20人くらいで課題に取り組むワークショップがオーディションでした。現場ごとに違うので対策を立てようがないし、怖くなったんですね。
それが、『オモコー』(前述・『表参道高校合唱部!』)のオーディションの頃からだと思うんですけど、頭で考えるよりも、与えられた課題に全力で取り組むほうが伝わるのかなと思えるようになって。そうしたら、オーディションも楽しくなりました。実際のお芝居でもそうですけど、私、考えちゃダメなんだなと気が付いたんです(笑)。
2015年秋からニューデイズさん、代々木ゼミナールさん、アサヒ飲料さんなどのCMに出させていただき、短いお芝居をする機会が増えました。15秒や30秒という時間で、どうやって伝えようか悩んだんですけど、ここでも深く考えるより、素直な気持ちを出せばいいんだと改めて学びましたね。
『表参道高校合唱部!』ではデビューからわずか2年で主演に抜てき。真っすぐな心で前に進む少女を演じた。このように芳根は、ピュアなイメージの役柄を務めることが多い。だが、16年公開の映画『64‐ロクヨン‐』では、父親とケンカをして家出する娘という、全く異なる役を演じ、演技の幅の広さを見せた。そして、『べっぴんさん』では、戦後の混乱のさなか、子ども服作りにまい進した女性の、17歳から50代までを演じる。
演じる年齢の幅が広いことに、正直不安はあります。でも最近、「ちょっとのメイクで、大人っぽくもなるし、幼くもなる」と言われることが何度もあって、「老けられるぞ」っていう自信が付き始めました(笑)。
去年の『オモコー』では、約4カ月の間、毎日撮影する経験を初めてしました。すごく濃い時間だったんですけど、それがさらに長い期間続くと、どうなるんだろう。役にぐっと入り込むタイプなので、『べっぴんさん』でも染まっちゃうんだろうな。新しい自分に出会えるのかなと楽しみにしています。
誰より作品を好きでいたい
5月16日には、『べっぴんさん』の母親役に菅野美穂、父親役には生瀬勝久が決定。『幕が上がる』で共演した、ももいろクローバーZの百田夏菜子も友人役で出演する。
すごい方ばかりで、どうしようと思ってしまうんですけど、去年学んだのは、「主演だからこうしないといけない」ということはあまりないのかなと。もちろん頑張らなきゃという思いはありますけど、作品ってみんなで作っていくものだし、誰が一番とかじゃない。
ただ主役だからこそ、誰よりも作品のことを考えていたいし、作品を好きでいたいと思っています。自分でも子どもだなと思うんですけど、例えばツイッターなどで「オモコー、大好きでした」とコメントをいただくと、「誰にも負けない自信があるくらいに、私が一番、オモコーが好きです」と言っちゃう(笑)。もちろんみなさんに作品を好きになっていただきたいんですけど、みなさんの愛に負けたくないというか。『べっぴんさん』もそういう作品にしていきたいですね。「私が一番好きだ!」と思って、(収録開始の5月から放送終了の17年4月1日までの)約1年間過ごせれば幸せだなと思います。
(日経エンタテインメント! 羽田健治)
[日経エンタテインメント! 2016年7月号の記事を再構成]