管理職試験に10年受かりません…
著述家、湯山玲子
取締役や社長になった友人たちは「30代前半で会社の出世コースに乗るかどうかの人物判断はついている」と断言します。その判断基準はふたつ。会社に利益をもたらす実力の手応えが感じられるプロ、もしくは失敗を避け、出世の評価基準をコツコツとクリアしていくタイプかどうか。さらに、私の経験を付け加えるならば「社長のお気に入り」などという意味不明の抜擢もある。いずれも試験の点数が高ければクリアできる話なんぞではなく、社員として働く時間と人となりのすべてが勝負どころになるシビアなものです。
ということは、管理職試験は実は出世できない人たちを納得させるための儀式だと思った方がいい。この方法は受験システムを血肉化してしまった日本人に極めて有効で、それを会社が利用しないわけがない。
質問者は50代で、管理職試験に10年も受からないのなら、会社は管理職にする気は全くないと考えた方がいい。落ち続けている事実は社員に知れ渡っており、そういう人が組織を束ねられるか、という点でも会社は二の足を踏むでしょう。
さて、世間一般の同じような境遇の社員はどうしているのか。多くは出世をあきらめて、徹底した「5時から男(もしくは女)」に生き方を変えます。仕事は言われたことだけはきっちりやり、アフターファイブは趣味や家庭に没頭する。「あの人はそういう人だし、それで生き生きしているのならば羨ましい」と同僚に思わせればしめたもの。「自分は会社人間にあらず」というプライドも保てます。
しかし、質問者はそれ以外の回答を求めている。ならばカギは仕事にあります。この際、立場にかかわらず会社を儲けさせることを改めて徹底的に実践してみる。これまで以上に多くの本を読み、取引先と話し、街を歩いて「人が何におカネを使っているか、または使いたいか」を捉え、いわば起業する勢いで、ビジネスアイデアを会社に提案し続ける、というやり方です。自分を仕事人間だと思うのならば、いっそここまで入れ込むべきです。
この方法を実践すると、結果として社長に近い目線を持つようになるので、可能性は高くないにせよ、管理職試験なんぞを飛び越えた出世があるかもしれない。会社が無視し続けたら、本当に起業してしまう手もある。ベテランの起業には公的な創業支援もあります。
あきらめることで開ける第3の道があるのです。努力しようがない試験に悩み多くの時間を埋めてしまうのは、人生があまりにもったいないと思います。
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[日経プラスワン2016年6月18日付]
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