育ててみたら『鞍馬天狗』ツノゼミになった
あるツノゼミの幼虫を飼育観察してみることにした。
きっかけは2008年の9月に出会ったツノゼミの幼虫(上の写真)。地をはうように生えているウリ科の植物の茎にいたのだが、ぼくはこのとき写真を撮っただけで、飼育はしなかった。どのツノゼミの幼虫なのかも、わからないままだった。
その後、数多くのツノゼミと出会うなかで、ウリ科の植物で成虫が確認されたのは3種。その中からぼくは、幼虫の形や大きさ、住んでいるウリ科の種などを総合的に検討して、写真の幼虫はハイフィノエ・アスファルティナ(Hyphinoe asphaltina)であろうと予想した。
でも多様性の高い熱帯では予想が外れることがしばしば。きちんと確認しないと間違ったままの「単なる思い込み」になってしまう。最近、再びその幼虫に出会うことができたので、こんどは飼育観察してみることにした。
見つけて飼育し始めてから約10日後、その幼虫は成虫になった。
体長は10ミリ程度。ツノの前の方が「壁」のようになっている。飼育前に予想していた通り、それはハイフィノエ・アスファルティナだった。幼虫と成虫がハッキリつながり、脳もスッキリ。
それにしても、このツノゼミの変貌ぶりは印象的だ。成虫は幼虫から想像もつかないかたちと色をしている! 「どこかで見たことのあるような姿やな~」と思い、何に似ているのかを調べてみたら、古い映画に出てくる頭巾をかぶった『鞍馬天狗』にたどり着いた。だから、このツノゼミを見るたびに、ぼくは、『鞍馬天狗』を思い出してしまう。
ついこの間も、この『鞍馬天狗』のような成虫を見つけ採集してみたところ、網の中で動かなくなっていた(下の写真)。どうしたのか? 網から取り出そうとすると、木の破片のようにコロコロと転がる。
これは……死んだ振りをして木の破片になりすましているのではないか? オモシロイ! このツノゼミの色とかたちの意味が、浮かび上がってくるように思えた。
(日経ナショナル ジオグラフィック社)
[Webナショジオ 2016年4月19日付の記事を再構成]
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