キンプリの応援上映… 客が「関わる」消費が人気
日経BPヒット総合研究所 品田英雄
エンターテインメントもレストランも、本来は優れたプロの腕前をお客が楽しむものだ。だが、この夏の新しいタイプの人気作品やスポットを見ていくと、それだけでは物足りなく思う人たちが増えているのを感じる。実際に足を運んで見えてきたのは、一歩踏み込んで関わりたいと思っている消費者の心だ。
「キンプリ」の「応援上映」
2016年1月に公開されたアニメ作品「KING OF PRISM by PrettyRhythm(通称:キンプリ)」がロングランヒットになっている。通常ならば1カ月程度で終わる上映が6月現在も続き、客足は衰えない。この人気を支えているのが「応援上映」というこれまでにない観賞法だ。
映画は通常、静かに見るもの。上映前には「ケータイはオフに」「前の席を蹴らない」などとともに「おしゃべりしない」と注意がある。しかし応援上映では大騒ぎしながら見るのだという。筆者も土曜日の夜、東京・新宿の新宿バルト9で「応援上映」を体験してきた。
チケット売場の上映作品一覧表には、作品名の前に「応援上映」と記されていて通常とは異なることがわかる。会場のスクリーン6は客席数が405席。20時10分の上映開始を前に客席はほぼ満席になっていた。観客は女性が約8割で、20代が多いように見える。ほとんどの人がペンライトを持ち、中には登場するキャラクターのコスプレ姿のグループもいる。
「キンプリ」は10代の男の子たちがスターを目指して寮生活を送りながら、互いの技量を競い合って成長していく物語だ。
上映開始とともに映像に合わせてペンライトを振ったり声援を送る。登場人物の顔が近づくと「キス、キス、キス」と声を合わせてスクリーンに向かって叫びもする。また「嫌いな食べ物はなんだい?」という劇中の台詞に対して、観客それぞれが「ピーマン」「トマト」など自分の嫌いな食べ物を叫ぶこともある。さらに、登場キャラクターの代わりにセリフを言うシーンが用意されていて、字幕を観客が読む「生アフレコ」の場面まである。とにかく、休む暇もなく次々とやらなければいけないことが続く。
最後は「アンコール、アンコール」という声があふれる中で場内照明がつき、上映は終了した。アイドルのコンサートと参加型の演劇が一緒になったような時間だった。
声援を送りながら映画を見ることは5年前の「けいおん」の頃から見られるようになったという。それが「キンプリ」では上映側が「お客様みなさんで一緒に盛り上がるイベント上映です」とはっきりとうたうことで、観客の心をつかんでいるのだ。
隣は10回ぐらい来ているという女性の3人組だったが、もっと来ている人はたくさんいるという話だった。だからこそ、ここで何を言えばいいか、次は何をすべきか熟知していたのだ。登場人物の一部になった気分なのだろうか。こうした熱心なリピーターによって支えられているのが「キンプリ」のヒットだ。
ポールダンス
ポールダンスをやっているという女性が増えている。教室に通い発表会に出る人もいれば、バーやクラブで踊る姿を目にすることも多くなった。
ポールダンスは垂直に立てられたポールを使って昇り降り、スピン、倒立などを組み合わせた踊りだ。1980年以降、米国のクラブなどでセクシーな演目として踊られるようになり、世界的に広がってきた。最近になって人気が高まっている背景には、その魅力が知られるとともに、スポーツとして始める人とダンスとして取り組む人、その両方から参加する人がいることがある。
13年には「日本ポール・スポーツ協会」が設立され、スポーツとしてポールダンスの発展に取り組むとともに、将来はオリンピックの正式種目入りをめざしている。一方、ポールダンスを覚えた女性たちがバーやクラブでパフォーマンスを披露するようになり、市場全体が膨らんでいる。
そうした現象をテレビの情報番組が取り上げたり、お笑い芸人のチュートリアル徳井義実さんがテレビの企画で挑戦したりで、急速に認知度が上がりつつある。「東京や大阪だけでなく、札幌や福岡でも教室が増えていて、この勢いは続きそうだ」(日本ポール・スポーツ協会)
世界チャンピオンのインストラクターも在籍する東京・六本木のスタジオ「Pole & Aerial Studio Polish」でも、ここ1年で受講者が急増しているという。「習う人のほとんどは女性だが、男性もちらほら交じるようになっている。特に多いのは20代後半から30代の女性」(小池志都絵代表)だ。習っている人によると、その魅力は「セクシーでかっこいい」「普通の人ではできないことをやっている気持ち良さ」「練習した分、成長を実感できる」などだという。簡単にできるものではないので、器械体操やほかのダンスの経験者が一歩踏み込んだダンスとして習うことが多いようだ。インターネットで世界的なパフォーマンスを見ることが刺激となり、自分たちの動きを動画サイトにアップロードして、みんなに見てもらえるのも励みになる。
発表会に行くと、露出の多い衣装やセクシーな動きに、男性としては圧倒される。だが、出演者たちは男性よりも他の出場者の目線が気になるという。筋力や柔軟性、ムーブメントの美しさ、どれもトレーニングが必要なので、鍛え方がばれてしまうからだと言う。ある意味、ポールダンスは究極の非日常。それさえも自分のものにしたいという女性たちの意識を感じた。
最近は毎週末に発表会や大会があり、クラブやバーのイベントも増えている。見る人気よりも、する人気が目立つのも、こうした意識と関係があるのかもしれない。
レストランバーベキュー
外食業界で注目を集めているのが、レストランでできるバーベキューだ。キャンプや河原など、これまで外でやっていたバーベキューが街中のレストランにも入り込みつつある。特にテラスがある店では、高層ビル、都会の景色の中で楽しむことが人気だ。
東京・赤坂で16年からバーベキューを提供し始めたのは「イル・カシータ」。赤坂サカスをのぞむテラスのあるおしゃれなイタリアンダイニングだ。バーベキュー人気を受けてスタッフが発案したというが、8月までの土曜祝日限定で始めてみると予想をはるかに超える人気で、予約が埋まることも多い。前菜の盛り合わせから始まり、野菜、メイン(魚介か肉のどちらか)、そしてパスタとカレーは食べ放題で1人前3800円だ。
利用者で多いのは30代、40代のカップルとファミリー。気軽にオシャレなピクニック気分が楽しめるというのが大きい。もちろんシェフが下ごしらえ(玉ねぎをスチームしておく、下味をつけておくなど)をするのでおいしい、酔いが回ればスタッフが手助けしてくれるなど便利なこともあるが、やはり自分たちで手を加えるのが楽しいという。「子どもは自分でできるのを喜ぶ」という家族もいた。ある男性は「バーベキューはうまく焼けるときもあればそうでもないときもある。それでもお仕着せじゃなく、自分で焼きあげていくのが魅力だ」と語る。
外食産業は、高級路線と大衆路線に二極化した。高級路線での集客のカギは、ミシュランの星の数やシェフの知名度など。料理とサービスの質で勝負していた。だが、それにお客の参加性が加わったようだ。野外で過ごすのが気持ちいい季節、ビアガーデンとは一味違うバーベキューができるレストランはまだまだ増えそうだ。
一見遠い関係にある3つのヒットだが、大局的に見ると分かってくることがある。これまでプロの領域だった部分にもお客が積極的に関わろうとしている。単にサービスされるよりも一歩踏み込んだ関わりを求めている。映画、踊り、食事まで、おもてなしよりも楽しいことがあるようだ。
日経BPヒット総合研究所 上席研究員。日経エンタテインメント!編集委員。学習院大学卒業後、ラジオ関東(現ラジオ日本)入社、音楽番組を担当する。87年日経BP社に入社。記者としてエンタテインメント産業を担当する。97年に「日経エンタテインメント!」を創刊、編集長に就任する。発行人を経て編集委員。著書に「ヒットを読む」(日経文庫)がある。
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