調剤費用、薬局で広がる差 お薬手帳持参で安く

薬剤師との相性も薬局選びのポイント(東京都内の薬局)
薬剤師との相性も薬局選びのポイント(東京都内の薬局)
病院や診療所が出した薬の処方箋をどこの薬局に持ち込むかで、調剤にかかる料金が異なるのをご存じだろうか。患者の行動や判断で変わる料金もある。どうしてこんな複雑なことになっているのだろうか。患者は薬局をどう選べばいいのだろうか。

「次からはお薬手帳を持ってきてもらえば40円安くなりますよ」

東京都内の主婦(52)は先月、家の近所の薬局で処方箋を出したところ、こんな声をかけられた。制度が変わったからと説明された。「よくわからないけど、とりあえず次からは手帳を忘れないようにしよう」と主婦は思った。

健康保険で受ける医療の料金は手術でも薬でもすべて政府が一つずつ決めており、これを診療報酬と呼ぶ。4月にこの診療報酬の改定があったため、薬局で支払う費用も一部変わった。

薬局は患者に薬を出す際、どのような薬が処方されたかを記録し、服用方法などを指導する費用として「薬剤服用歴管理指導料」という報酬を請求できる。この料金は原則500円だが、2回目以降は「お薬手帳」を持参した患者の場合、380円に下がった。

差額は120円だが、現役世代の患者は3割負担なので、実際に患者が払う額は四捨五入で40円の差となるわけだ。

手帳持参で負担減

お薬手帳とは、薬局などでもらえる手帳で、ここに処方された薬の名称や用法、用量が書いてあるシールを貼っていく。医療機関で処方された薬のすべてを一冊の手帳に記録していくことで、飲み合わせの悪い薬や重複している薬がすぐにわかり、緊急時にも役立つ。利点が多いとして政府は普及させたい考え。そこで、手帳を持ってくる患者の負担が減るようにした。

薬局でかかる料金はこの指導料だけではない。ほかにも様々な料金があり、それが薬局ごとに異なる場合がある。合計金額ではどのような違いが出るか。高血圧症の患者が降圧剤を処方された例で見てみよう。(表A

降圧剤は価格の安いジェネリック(後発)薬を使う。この代金(薬剤料)が840円。また飲み薬1種類を28日分出したときの調剤料は800円。ここまでの計1640円はどこの薬局でも同じ。しかし最終的な料金は、2340円から2750円まで様々。3割負担の患者なら100円以上の差となる。

料金が異なる原因はお薬手帳の有無のほか、「調剤基本料」にもある。薬局に処方箋を持ち込むと必ずかかる料金だ。基本は410円だが、大病院のすぐそばにあって、その病院が発行する処方箋ばかり大量に受け付けているいわゆる“門前薬局”だと、250円に下がる。さらに門前薬局のなかでも、チェーンの大型薬局などは200円だ。

政府は医師と同様、薬局についても患者に「かかりつけ」を決めてもらう方針を掲げる。お薬手帳も活用しながら、その患者に複数の医療機関が出す薬のすべてを把握するかかりつけ薬局があれば、安全性・効率性が高まるからだ。しかし一部の門前薬局などは処方箋通りに薬を出すだけで、求められる役割を果たしていないとして、懲罰的に調剤基本料を下げた。

ただし料金が下がると患者負担も安くなって、そこに患者が集まるという矛盾が生じかねない。「この問題への対策という面もあって」(厚生労働省)、これら門前薬局では患者がお薬手帳を持参しても「薬剤服用歴管理指導料」を下げないこととした。

「相性」で選ぶ

4月から「かかりつけ薬剤師指導料」という料金が新設されたことにも注目しておきたい。最近薬局に行った人の中には「私をあなたのかかりつけ薬剤師にしませんか」と声をかけられた人もいるかもしれない。

これは、薬局の中の特定の薬剤師を患者同意のうえで、かかりつけ薬剤師と決めたとき、調剤のたび取れる料金で、金額は700円。この薬剤師はその患者に処方される薬をすべて把握するほか、24時間患者から連絡がつくようにすることなどが求められる。

かかりつけ薬剤師を決めると、薬剤服用歴管理指導料は請求できなくなるが、合計金額はやはり少し高くなる。なかには丁寧に説明もせず同意書に署名させようとする薬局もあるようだが、納得できなければ、きっぱり断るべきだろう。

「かかりつけ薬剤師指導料を取らなくても、かかりつけの機能は果たしている」という薬局もある。日本薬剤師会も「高齢で複数の医療機関にかかっており、自分では薬の管理がおぼつかないといった患者向き」と話している。

一般的に後発薬を使うことで薬局でかかる費用は安くなる。また、それ以外でも患者の選択で変化する部分が確かにあった。しかし、わずかな安さを求めて遠くの薬局を探すより、「身近な場所で常に行く薬局を決めることが患者のためになる」(厚労省)との声は関係者にほぼ共通する。

その際の薬局は「相性で選ぶのが一番」(日本薬剤師会)だそうだ。「薬剤師の入れ替わりが少なく、気軽に立ち寄れて、地域の医療機関の情報も豊富なところがよい」(実務薬学総合研究所の伊集院一成社長)ともいわれる。

これらも参考に信頼できるかかりつけの薬局を探したい。ただそのためにも、かかりつけを持つメリットをもっと感じられる工夫が必要だろう。

(編集委員 山口聡)

[日本経済新聞朝刊2016年6月15日付]

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