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救急搬送、高齢者増える 軽い症状で利用も 緊急度判定の動き

2016/6/15

1日700件を超える通報に対応する管制官(横浜市の市消防局消防指令センター)
 高齢者の救急搬送が増えている。高齢化の進行に加え、一人暮らしや夫婦2人の世帯で身近に頼れる人がおらず、比較的軽い症状でも救急車を呼ぶ例が少なくないとみられるからだ。消防は対応に追われ、医療機関などからは本来必要な緊急搬送に影響しかねないと懸念する声も出ている。一方で、重篤に陥る危険性が高い高齢者は、ためらわずに救急車を呼ぶことも求められる。119番する前に心得ておきたいことを探った。

 「出血がひどいんです。早く来て下さい」

 「意識はありますか。1人で歩けますか」

 6月上旬。横浜市にある市消防局消防司令センター。ヘッドホンとマイクを付けた管制官が、次々に飛び込む市民からの通報に応じる。通報数は1日平均で約711件(2015年)。災害通報の約9割が救急に関する内容だ。

 管制官は10人を1チームとして、通報内容を聞き取る。意識や呼吸の有無、顔色などの項目を確認。目の前にある端末画面の「緊急度・重症度識別シート」に入力する。すぐに画面に判定結果が表示され、これに基づいて出動させる救急隊を決める。同消防局が08年に全国で初めて導入した「コールトリアージ」と呼ばれるシステムだ。

 ◇   ◇

 判定結果は、緊急度の高さでA+からCまでの5段階に分かれる。「生命の危険が切迫している可能性が極めて高い」とA+に判定された重篤の場合は、総勢8人の救急隊員を派遣して高度な救命活動に当たる。逆に「生命の危険性はなく、搬送に困難が伴う可能性が低い」とCに判定された軽症の際は、2~3人の救急隊員が対応する。

 膨大な数の通報にどう対処するか、各地で消防の課題になっている。とりわけ、高齢者からの通報、緊急搬送は年々増えており、同消防局の15年の緊急搬送者は約15万5000人で、65歳以上の高齢者が55%と半数を超える。高齢者はこの5年、毎年、平均で3千人ずつ増えている。

 高齢者は、軽い打撲や突き指、歩くのがおっくうなどの理由で救急車を呼ぶ例も多い。軽症の場合、家族や地域などが支えることで救急車を呼ばずに済むケースも少なくないが、支える側も高齢者だったり、身近に頼れる人がいなかったりすれば、救急車に頼りがちになる。しかし、「むやみに使うななどとは言えない」(消防関係者)。

 実際、緊急事態に陥りかねない例もあった。西東京市に住む80代の女性は買い物の途中で胸が苦しくなり救急車を呼んだ。受け入れた病院の医師は「救急搬送しなければ最悪の事態になっていた可能性がある」と話す。同消防局は「限られた人員や救急車を適切に使って対応するコールトリアージは、増加する高齢者の搬送需要に対応するために欠かせない」(下枝昌司・司令課長)とみる。

 ◇   ◇

 救急搬送を受け入れる病院側も高齢者の増加に対応を迫られている。東京都立墨東病院(東京・墨田)の救命救急センター。一刻を争う重症・重篤の患者を受けることができる医療機関で、年間8000件程度の救急搬送を受け入れている。「15年の収容患者のうち65歳以上が占める割合は49%と、02年と比べ12ポイント上昇している」と同センターの浜辺祐一医師は言う。

 高齢者の場合は、「1週間前から食欲がない」といった必ずしも緊急とは言えないケースでも搬送されてくる例があるという。浜辺医師は「高齢者の不安はわかる。呼んでくれれば救急車は向かう」としたうえで、「救命救急センターへの搬送がふさわしいとは言えない患者まで受け入れていると、本来受けるべき患者を受けられなくなる」とも指摘する。

 「救急隊員に緊急性がないと判断されたならば、医療機関には救急車は使わずに自家用車やタクシーなどで行ってほしい」と促す。

 ◇   ◇

■救急車を呼ぶ前に 居場所を確認、電話で相談も

 119番する際にはどこに注意すればいいのか。東京消防庁によると、最も大事なのは「まず通報者がいま居る場所を知らせること」だ。現在地がわからないと救急車が出動できない。

 屋外の路上などで場所がわからないときは、周囲に目印になる建物がないかを確認する。交差点の表示なども役立つ。自分では困難なときは周囲の人に頼んで、代わりに居場所を伝えてもらう。気が動転すると知っている事柄も出てこなくなる。自宅から救急車を呼ぶときに備え、電話機の近くなどに自宅の住所を書いておくことも大切だ。

 高齢者が緊急か否かを自分だけで判断するのは危険だ。単なる体調不良と判断し、救急車を呼ばずに、心筋梗塞や脳卒中などの治療が遅れてしまうこともある。救命救急医らは「めまいやふらつき、不整脈など脳や心臓の病気の可能性がある時は、我慢せず、一刻も早く救急車を呼んでほしい」と口をそろえる。

 高齢者や、寝たきりで動けない人など、緊急性を伴わなくとも、救急車に頼らざるを得ない場合がある。同消防庁は、「高齢者や持病がある人は、かかりつけ医、治療、服薬の状況など医療情報が救急隊や医師にわかるよう、メモなどにまとめておくといい」と勧める。

 気兼ねして救急車を呼ぶのを迷う人もいるかもしれない。そうした際には、専用ダイヤルを利用する手もある。同消防庁は救急車を呼ぶべきかなどの相談に24時間体制で応じる「救急相談センター」を運営。「#7119」に電話すると救急相談通信員、救急相談看護師が対応する。横浜市消防局も「市救急相談センター」(#7119)で同様なサービスを実施している。

(大橋正也)

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