初出場で最年少V 空中戦士、オスプレイの舞は必見
「リコシェvs.オスプレイ」を知っていますか?
新日本プロレスリングのジュニアヘビー級リーグ戦「BEST OF THE SUPER Jr.」5月27日後楽園ホール大会のメーンイベントとして行われた一戦です。超人的な身体能力を持つ者同士がアクション映画のように飛んだり跳ねたりする動きが注目され、その日のうちにインターネット上で情報が拡散、反響を受けて新日本の公式動画がYouTubeに期間限定で公開するなど世界規模で話題となりました。
絶賛される一方で、そのあまりにめまぐるしい攻防に「闘いがない」「ストーリーがない」などと批判的な声もあったようです。私は会場で試合を観戦しました。むしろ見る前こそ「演武」的な試合になるのかも?と思っていましたが、ライブで体験してみると、とんでもない、負けず嫌い同士の最高の意地の張り合いだったのです。
後楽園ホールは日本テレビの人気長寿番組「笑点」の収録会場としても知られています。番組冒頭で映されるあの南側の観客席、普段はそのあたりで試合を観戦していますが、この日は「もっと間近で見るべき」との直感が働いて、いつもより少し良い席(西側リングサイド)のチケットを購入しました。直感は大当たり。司会席から大喜利メンバーを見るぐらいの距離感でこの試合を見ることができました。表情も肉眼でよく見えます。ウィル・オスプレイ選手の表情が実にすばらしいのです。
オスプレイ選手はイギリス出身の23歳。デビューわずか4年でありながら、異次元のハイフライムーブで注目されている若手選手です。2015年に新日本プロレスが英国に遠征したときに才能を見いだされ、エース、オカダ・カズチカ選手の紹介というかたちで新日本に登場しました。
対するリコシェ選手は27歳の若さながら、キャリア13年のベテラン。新日本ではおととし2014年のスーパージュニアで優勝も経験済みです。同じ舞台に立つハイフライヤーでもリコシェ選手のほうに経験値で余裕があったでしょう。
でもいざ試合が始まってみると完全に互角のシーソーゲーム、それも見る側の思考が追いつかないほどの超高速シーソーです。互いの一手二手三手先を読みに読みに読んでどこまでも高まっていく攻防。普段の後楽園とは質の違う大歓声が沸き起こります。「応援するぞ」のエールではなく思わず漏れ出てしまった約1500人分の叫び声が重なって爆発するような歓声……。年間約30試合、この10数年で何百回と後楽園ホールで観戦してきましたがこんな経験はめったにありません。
ここからは想像の世界です。オスプレイ選手は人の倍速で生き急ぐタイプのレスラーではないでしょうか。ふつうの人と違う時間の流れのなかで生きているから、自分が到達していると感じるステージと世界からの注目具合にズレがありジレンマを感じていた。そこに世界有数のプロレスカンパニー・ニュージャパン(新日本プロレス)からの大抜擢です。野心と才能をたっぷり持った若者が、一気に飛び級で栄光と知名度、すべてを手に入れるチャンスなのです。
華麗な飛び技、蹴り技の間にのぞくオスプレイ選手の「成り上がってやる!」「のし上がってやる!」という貪欲さに心をつかまれました。
永遠に続くかのような応酬を制して勝利を収めたのはオスプレイ選手でした。試合後お互いをたたえ合う場面でも、見せていたのはさわやかな笑顔ではなく威嚇するようなきつい表情でした。
この日の「リコシェvs.オスプレイ」は、この1試合にすべてを賭ける若者の捨て身の全力疾走と、すべて受けきる対戦相手、会場の磁場、いろいろな要素がいっせいに重なって生まれた二度とはないライブ体験でした。オスプレイ選手はいきおいそのままにリーグ戦を勝ち上がり、7日の優勝決定戦で田口隆祐選手を下してスーパージュニア初出場ながら史上最年少初戴冠を果たしました。
6月19日の大阪城ホール大会では4月にいちど敗れたチャンピオン、KUSHIDA選手とIWGPJr.ヘビー級のベルトを賭けたリマッチが決定しています。人の倍速で成長するオスプレイ選手は負けたときの試合とは別人でしょう。注目の一戦です。
今回のイラストは技ではなくオスプレイ、リコシェ両選手を象徴する美しいムーブ、逆方向のロープへ走ってからのシンクロバク宙を描かせていただきました。ちなみに周りを舞うオオムラサキは、優雅な姿から想像できませんがスズメバチや鳥にも向かっていくというたくましい蝶です。
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