外見そのまま、改善の25年史 無印「脚付マットレス」
良品計画が手がける「無印良品」の商品に共通するのは、無駄な機能は持たず、華美なデザインを排除し、本当に必要な本質だけを抽出しようとしてきたところにある。本質を見抜く"目利き"を重視する開発思想は、商品改良のための 小さな配慮や細やかな視点にもつながる。無印良品で人気のロングセラー商品の数々は、生活者目線で何年にもわたって使い勝手を地道に磨きあげられてきたものばかりだ。
「脚付マットレス」という商品も例外ではない。寝心地、座り心地、メンテナンスのしやすさなどを向上するため、目に見えない部分で多くの改良を繰り返してきた。
今から25年前の1991年、最初に発売した商品は、マットレス内部のバネにボンネルコイルを採用していた。らせん状に巻いたコイルスプリングを全面に配列し、スプリング同士を水平方向に連結している。コイル同士がつながっているため、1カ所にかかった力を広く分散できる。スプリングの数が少なくて済み、価格を低く抑えられる。フレームは木製で、マットレスと脚が一体化して分解できない構造だった。文字通り、「マットレスに脚を付けた」という商品だった。
「寝る」「座る」「洗う」を改良
2002年には、一般的なベッドと同じような構造になり、マットレスと脚、フレームが分解できるようになった。マットレスの両面使用が可能になり、マットレスや脚を交換することもできるようになった。
2005年にはポケットコイルを採用したマットレスも追加投入。不織布の筒に収めたコイルスプリングを隙間なく並べたものだ。
ボンネルコイルが「面」で体を支えるのに対し、ポケットコイルでは1つひとつのスプリングが「点」で体を支える。ボンネルコイルは、スプリングが横方向に連結されているため、例えば2人で寝ているときに寝返りを打つと、隣で寝ている人にも揺れが伝わってしまう。
一方、ポケットコイルは、スプリングが独立しているので横揺れしにくい。しかし、スプリングを隙間なく並べるため必要な本数が倍以上になり、価格が高くなってしまう。顧客の用途や予算に合わせて選べるように、無印良品はボンネルコイル版とポケットコイル版の両方をラインアップした。こんなところにも生活者目線を貫く。
ソファのような使い方にも対応
改良はさらに続く。2006年にはポケットコイルのマットレスを改良。外周部分のコイルを固いものに変更した。ベッドとしてだけでなく、ソファのように座るために使うユーザーも多いため、マットレスの端に腰掛けても深く沈み過ぎないようにする配慮だ。
2008年にはコイルの固さを3段階とした。外周の固いコイルと内側の柔らかいコイルの中間の固さのコイルを腰の部分に配置し、「日」の字のようなコイル配置とした。寝るときに背骨を支えることで腰が沈むことを抑え、寝心地を向上させた。
2011年にはマットレスカバーを洗濯できるものに変更した。それまではマットレスカバーの内側は、ポリエステルのわたの上に不織布を当てて縫い付けていた。不織布を丈夫なポリエステル生地に変更することで、家庭でも洗濯機で洗えるようにしたのだ。
スチールフレーム採用し、脚を3種類に
そして2014年、これまでにないほどの大掛かりな改良を施す。それまで木製だったフレームをスチール製に変更した。これにより、フレームの厚みが減ったため、全体の高さを変えずにボンネルコイルの長さを1cm増やすことができた。たった1cmとはいえ、寝心地向上の効果は大きい。
一方、ポケットコイル版ではマットレスとフレームの間に、腰の部分に左右を渡すウッドスプリング(すのこ)を追加してクッション性を向上させた。このウッドスプリングは2015年の改良で、腰だけでなくマットレスの下全体をカバーするよう改良し、さらに寝心地を高めている。
加えて、カバーも洗濯しやすくした。カバーの素材自体は2011年に洗濯可能になっていたものの、取り付け方法は従来のまま、フレーム側の面ファスナーとカバーの底面に1周ぐるりと貼った面ファスナーをくっつけるものだった。カバーを外すときも再び取り付けるときもかなりの力が必要で、女性には難しい。これを、カバーの16カ所に付けた帯状の面ファスナーをスチールフレームに巻きつけて留める構造に変更し、格段に扱いやすくなった。
スチールフレームに変更することで脚の取り付け強度も増加し、3種類の長さの木製の脚を選ぶことが可能になった。床下12cmタイプ、床下20cmタイプ、床下26cmタイプがあり、26cmタイプを使うと、無印良品の高さ24cmのポリプロピレン衣装ケースをフレームの下に入れることができ、収納スペースとしての活用度も増した。
昔の商品と並べて使っても違和感なし
2014年の改良に伴って生産体制も見直している。従来は、カバーからフレームまですべて同じ工場で製造し、組み立てていた。ところがスチールフレームの採用によって、今までになかった溶接の工程が発生する。これを分業にする必要が生じたため、すべての生産工程を見直し、カバーの縫製、コイルユニットの製造、フレームの溶接をそれぞれに得意分野を持つ別々の工場が担当する体制に変えている。
このように、数々の改良が加えられてきたものの、最初に発売された1991年の製品と、現在販売されている製品では、外見上はほとんど見分けがつかない。追加購入するユーザーも多いが、昔の製品と並べて使っても違和感がない。定番として安心して使える理由は、その「変わらなさ」にもある。
(ライター 笹田克彦)
[書籍『無印良品のデザイン2』の記事を再構成]
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