相続・税金

税務署は見ている

103万円は無関係 誤解が多い“プチ起業”の税金

2016/6/14

PIXTA

最近、女性の“プチ起業”が増えています。今回は、食品サンプル(ミニチュアフード)を作る活動をされているA子さんとの対話を再現してみましょう。

飯田:「いや~、どれもかわいいですねぇ」
A子:「そうなんですよ。作ってると、ちょっと子どもの頃に戻れるというか、いとおしいし、なんだか楽しい気持ちになれるんですよ」
飯田:「アイスクリームとかチョコレートのチップとか、細かい材料が色々あるんですね」
A子:「こっちは土台になるパフェの入れ物です」
飯田:「うわ~、本物そっくり!」
A子:「こんなんもありますよ」
飯田:「へ~。ラーメン鉢のキーホルダーですか。面白いですね~。あれ、この機械は?」
A子:「機械ってほどのもんでもないんですけど、できあがった作品にしばらくこれをあてて乾燥させるんです」
飯田:「なるほどね~」
A子:「初めは自分の楽しみとして作ってたんですけど、チャームにしてバッグにつけたりしてたらお友達から教えてほしいって言われるようになって、教室みたいになってきたんです」
飯田:「自分で作れると楽しいですもんね」
A子:「そうなんです。次女が小学校に上がってから少しは自分の時間が持てるようになって、できあがった作品をブログにアップしたら、それを見た方から『私も習いに行きたいんですけど……』って、お問い合わせのメッセージが来るようになって、家でやるより場所を借りた方がいいかなって思い、今のスタイルになったんです」
飯田:「自然な流れで教室みたいになってきたんですね」
A子:「はい!」
飯田:「でも、ワークショップをするときは材料とか道具を運ばないとダメですよね」
A子:「そうなんです。そやから去年、軽自動車を買ったんです。それで、イベントに行くときはその車で運ぶようにしてるんです」
飯田:「ふむふむ。ってことは、今後はお仕事としてやっていこうって思ってはるんですか?」
A子:「いいえぇ~。旦那の扶養から外れない範囲で“プチ起業”でいいと思ってるんです」
飯田:「プチ起業?」
A子:「そうです。年間の収入が103万円を超えないように気を付けて教室を開くようにしてるんです」
飯田:「えっ?」
A子:「はい。まあ、去年は車を買ったことで赤字になったし、103万円っていう数字も気にしなくてよかったんですけどね」
飯田:「う~ん、A子さん。ちょっとゆっくりお話しした方がよさそうですね」

「一億総活躍社会」が叫ばれる中、女性の起業を応援するセミナーやイベントやビジネスコンテストなどがいろいろな形で開催されています。東京で開催された女性の起業を推進するイベントの説明会に私も参加したことがあるのですが、参加者は会社員が3分の1、すでに起業されている経営者の方が3分の1、専業主婦の方が3分の1という割合でした。

女性の場合、もうけようという気持ちよりも、趣味が高じて教えることなどによって、ちょっと楽しむ程度の費用は賄えるようになりたいという感覚で活動をしている方が結構いらっしゃるように思います。そのことを“プチ起業”と呼んだりしているのかなと思います。

A子さんは、頭の中で1年間の収入の計画をこんなふうに立てていました。

(1)毎週1回、3人が受講し受講料は1人5000円

5000円×3人×4週=6万円

(2)毎月1回、ショッピングモールでワークショップを3回実施し、1回に4組くらいの親子が参加。1つ1000円の作品を作って持ち帰る

1000円×4組(8人)×3回=2万4000円

この場合、Aさんのおおよその年収は(6万円+2万4000円)×12カ月=100万8000円となります。

なるほど、これだと103万円以下になっていますね。なのでAさんはこの計画通り収入を抑えて教室を開催すれば、ご主人の扶養家族から外れることはないと思っておられたのでした。

この103万円という基準。この連載を続けて読まれている方はご存じだと思うのですが、これは給与所得者の方の収入金額です。雇用契約を結んで時給○○○円という形でお給料をもらっている方が扶養家族でいられるかどうかを判断する金額です。

プチ起業の方は税法の所得の区分は給与所得ではなく、事業所得になります。ですから、ご主人の扶養家族に入れるかどうかの基準は、収入金額103万円ではなく、収入金額から必要経費を差し引きした所得金額が基礎控除である38万円以下であるかどうかなのです。

またA子さんは車を購入した年は赤字になったというお話をされていましたが、これも間違いです。車を購入した場合は、その購入代金を1年で経費として計上はできません。車は数年間使えるものなので、減価償却といって耐用年数に応じて費用化することになるのです。

購入した車が新車で80万円だった場合、耐用年数が4年であれば1年で費用として収入から差し引きできるのは、80万円÷4年=20万円(考え方を説明するため、概算です)ということになるのです。

プチ起業というとなんだか魅力的な言葉に聞こえるかもしれませんが、普通に商売をされている方と同じ土俵に上がることになるのです。

後で大きな痛手を負わないためにも、まずは税務署に開業届を提出し、税務署の窓口で青色申告のことなども含め、最初に詳しく説明を受けることが大切だと思います。

飯田真弓(いいだ・まゆみ) 税理士。産業カウンセラー。日本芸術療法学会正会員。初級国家公務員(税務職)女子1期生。26年間国税調査官として7カ所の税務署でのべ700件に及ぶ税務調査に従事。在職中に心理学を学び認定心理士の資格を取得。2008年に退職し12年(社)日本マインドヘルス協会(http://jamha.org/)を設立し代表理事に。税務調査とメンタルヘルス研修という切り口で、企業が活性化する研修を全国で開催し好評を得ている。著書に『税務署は見ている。』『B勘あり!』(ともに日本経済新聞出版社)。

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著者 : 飯田 真弓
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