津田大介 ソニー「HUIS」が家電操作のハブになる日
「ツイッターの伝道師」「金髪のジャーナリスト」として知られるジャーナリスト津田大介氏。実は"大のガジェット好き"でもある津田氏が"気になるモノ"に迫るこの連載。今回は、前回取材したソニーの学習リモコン「HUIS REMOTE CONTROLLER」を1カ月みっちり使い込んだレビューを、津田氏の事務所からお届けします。
6台のリモコンを「HUIS」1台に
ソニーの学習リモコン「HUIS REMOTE CONTROLLER」(以下、「HUIS」。「ハウス」と読む)を、事務所で使うこと1カ月。事務所の機器のリモコンが増えたため、学習リモコンを探して見つけたのがソニーの「HUIS」。取材では、電子ペーパーを採用した理由や、ソニーの若手が集まって開発したチャレンジングなモノ作りであることも面白かったのだが、実際に使ってみると、将来的なリモコンの新しい役割がみえてきた。
まず、どんな環境でどう使ったかをお伝えしよう。
今回、登録した機器は、テレビ2台、ハードディスクレコーダー、プロジェクター、スクリーン、オーディオ。合計6つの機器の基本的な操作が、これ一台で可能になった。
この事務所でよく使うのが、プロジェクターとスクリーン。両者に付属するリモコンは、スクリーンの上げ下げや電源のオン・オフといった単純操作しか通常使われていない。使うボタンが限られているからこそ、ほかのリモコンに統合したいと思っていたわけだが、「HUIS」を利用することでそれが簡単に実現した。
これまでは、映像を見ながらの打ち合わせの場合、離れたリモコン置き場にまとめてあるリモコンを取りにいって、スクリーンを下ろし、プロジェクターの電源を入れ、テレビを操作して映像を映し出す。この一連の動作を完了するのに、リモコンを3~4台、持ち変えなければならなかった。しかも終わったら、またそれをゴッソリ戻す必要がある。そうした煩わしさが、あっさり解消したのだ。
「HUIS」の真骨頂はカスタマイズ
「HUIS」のような学習リモコンは、AV機器だけでなく、照明器具やエアコンなど、リモコンの赤外線信号で操作するほとんどの家電を手元でコントロールできるようになるのが利点。ソファに座ったまま、ピッピッピッとひとまとめに操作できる。
その上で、ボタンがない「HUIS」ならではの特徴は、そうした操作をカスタマイズしてひとつの画面にまとめられるところにある。
このカスタマイズが、「HUIS」を使いこなす上でのキモだ。「HUIS」には、登録した機器の一通りの機能がプリセットされているので、チャンネル選択などだいたいの操作はそのまますぐできる。しかしプリセットのままでは、できないこともある。CMを細かくカットするなど複雑な作業をする場合は、たくさんボタンがある元の機器の付属リモコンのほうが便利だ。しかし、付属リモコンも、毎日、全てのボタンを使っているわけではない。つまり、日々使うボタンだけを選んでカスタマイズして一番に収めるのが、HUISを使うポイントとなる。
そこで、テレビのリモコンのボタンで、使用頻度が高いものがどれか、チェックしてみた。
「決定」? 「再生」? もちろんそれらも使うが、実は事務所で一番よく使っていたのが「入力切換」だった。テレビ放送、録画再生、PCのプレゼン、そしてプレイステーションと、「入力切換」をよく使っている。しかしこれが、プリセットでホーム画面になかった。
そこで、カスタマイズを行った。プリセットのホーム画面には番組表のボタンがあったのだが、普段自分は番組表を使わないので「入力切換」を割りつけた。これで、「入力切換」が「HUIS」でもできるようになった。
こうしたカスタマイズを重ねることで、自分が必要な機能をひとつにまとめた「マイリモコン」に仕立てていくのが、このリモコンの真骨頂なのだと思う。
ただこのカスタマイズ、リモコンだけでひとつひとつ登録していくのはけっこう面倒な作業である。取材時に、近いうち「パソコンでカスタマイズできるアプリを配布する」という話だったので、そのアプリが配布された時こそ「HUIS」の"秘めたる真の力"が発揮されるはずだ。決して安い買い物ではないだけに、このアプリが提供されるまでは、HUIS導入は「待ち」でも良いかもしれない。
すべてのリモコンが直立して欲しい
実際に使っているうちに一番の長所だと感じたのは、機能よりもデザインだった。リモコンが直立することが地味に便利なのだ。最近のリモコンはどれも大型で置く場所を選ぶ。自宅ではチェストの上など邪魔にならない場所に置いているが、「HUIS」は縦置きできるので省スペース。どこにでも置けて、すっきりしていて、しかも見つけやすい。単体でしっかり直立して邪魔にならないのがとてもスマートで、すべてのリモコンがこうなって欲しいとまで思ったぐらいだ。
また、消費電力の少ない電子ペーパーを使っているためか、充電をほとんど意識しなくて済むのも良かった。一回充電すれば1カ月は持つので、この間、充電したのは1~2回。ほとんど切れることがなかった。電子ペーパーを採用したディスプレーは思った以上に見やすく、薄暗いところでも見える。反射も少なく、蛍光灯の下でも使いやすい。
使っていて気持ちが良かったのは、ボタンを操作した時のブルブルっという震え。操作すると軽く振動するのだが、この手応えが良い。感覚的に使っている感がある。かすかな操作音が鳴るのも心憎い演出だ。
一方、独特なスワイプ操作には少し戸惑った。画面をスクロールするのにスマートフォンだと、スッと液晶表面をスワイプすればいいのだが、「HUIS」の場合、画面の枠外から指を滑らせないといけない。これが特殊で、慣れるまで時間がかかった。
アプリに期待、ネックは価格
製品としての評価をまとめよう。モノとしての質感はたいへん良い。
ただし実用的なマイリモコンにするには、それなりにカスタマイズが必要。このカスタマイズを本気でやりはじめると、それだけでアッと言う間に何十分かたってしまうのが最大の難点だ。今後、配布予定というアプリに期待したい。
また、価格が高価なのも難点。この価格では二の足を踏む人も多いのではないだろうか。ソニーとしても実験的製品という位置付けなのだろうが、今後の量産化などで値下げして欲しい。価格を下げるのは難しいかもしれないが、2万7950円(税込み)が、半額ぐらいになれば、買いたいという人も多いのでは。
では、何台ぐらいのリモコンをまとめれば、感覚的に金額と見合うのか。最近のリモコンは多機能で、ハードディスクレコーダーのリモコンでテレビ操作もできる。そのため学習リモコンの必要性が感じられないかもしれないが、同時に3台以上のリモコンを操作するなら、こうした学習リモコンを使う意味は大きくなる。弊社はまさにそうで、使用頻度の高い6台のリモコンをひとまとめにできたことは、大きな意味があった。
それから、リモコンで使うボタンがほぼ固定されている人、無駄を省きたい人、日々の操作をクイックにしたい人は、これを使うことで時間が節約できるだろう。たとえば1日2分節約できれば、年間にすると約半日。この節約できた時間に、価格以上の価値が見いだせるならアリだ。
気になるなら、普段、どのリモコンをどう使っているか、自分の操作パターンをチェックしてみると良いだろう。安価な学習リモコンなら数千円台で買える。それに対する優位性がどれくらいかは、自分の使い方から判断するしかない。一般的な学習リモコンに比べて3倍便利かといわれると、正直なところ微妙ではある。しかし現状、直立するリモコンはこれしかなく、この質感を気に入った人であれば十分満足できる買い物になるだろう。
将来、Iotリモコンに進化すれば
ここで「HUIS」というネーミングのコンセプトを思い出してみよう。「HUIS」という名称は「Home User InterfaceS」を短縮したもの。「毎日使うものをより便利に、家のユーザーインターフェースを進化させたい」というビジョンを持ったプロジェクトのシリーズ第1弾だ。それがなぜ、リモコンだったのか。
それはリモコンが、家の中の家電を操作する"わかりやすい"ものだからだ。
家電操作を一元管理したいという欲求は、まさにスマート家電を一括管理するホームコントローラーのような方向性だ。しかし、そうした新しい機器は、普通の家庭で使うにはなじみがないし、まだほとんどの家電がネットにつながらない。
しかし「HUIS」は、みんなが使い慣れているリモコンを進化させたもの。リモコンなら子どもだって使えるし、すぐに家で使っている複数の家電とつながる。使いやすくカスタマイズもできる。近い将来、クレードルのようなアクセサリーが発売されて、LANケーブルや無線LANを介してネットにつながれば、IoT(Internet of Things)機能を持った製品としての未来も見えてくる。そうなれば今の価格でも十分実用的かつ魅力的な製品になる。
将来、アプリが配布されれば、カスタマイズの自由度も高くなるだろうし、新しい機能を追加することもできるだろう。いずれは「マクロ機能が欲しい」というユーザーもでてくるかもしれない。マクロというのは、たとえばボタンを押せば、指定してある機器の電源を入れ、順番で別の機器を起動したり、作業を完了するまでの一連の流れを登録できるような機能。今は無理でも、そのうちボタン一個で、複数の機器の電源が入って、音楽を鳴らして録画を再生するといったことが可能になるかもしれない。
さらに、帰宅する前に外から指示しておけば、家に着いてソファに座った時には、快適な照明や空調が調整され、全ての機器が指定した通りの状態で稼働しているといった生活も夢ではない。今、スマホのアプリでそれに近いものが出てきているが、リモコンの使いやすさにはかなわない。
そうなると、それはもう単なる学習リモコンではなく、家の中の全ての機器のコントロールが可能なIoTデバイスとしての、IoTリモコンや、IoTサーバーみたいなものかもしれない。
つまり「HUIS」は、リモコンがIoT機器のハブに進化する可能性を示す製品なのだ。
こうした製品を、ソニーの若手、それも同期が集まって開発したというのも面白いと思った。「HUIS」プロジェクトの第1弾に、リモコンを選んだセンスが素晴らしい。今までにもたくさんの学習リモコンが作られ、それなりに一長一短あった。そのなかでHUISは間違いなくもっともスマートな製品である。
最後に、レビューしながらこれが登録できればいいなと思ったのが、事務所で導入しているスマートロックだ。室内のドアホンなどと連携して、キンコーンと鳴った時、確認してガチャッと鍵を開けられるとすごく便利だ。IoTデバイスとして進化するのであれば、Bluetooth機能を備え、さまざまなデバイスが操作できるようになるとさらに便利になる。さまざまな方向に進化する可能性を秘めた実験的製品がHUISなのであろう。万人にオススメできる学習リモコンではないが、この製品の将来可能性に賭けたいソニー好きの人ならば、十分購入を検討する価値はある。
(写真 石井明和、編集協力 波多野絵理)
ジャーナリスト/メディア・アクティビスト。「ポリタス」編集長。1973年東京都生まれ。早稲田大学社会科学部卒。大阪経済大学客員教授。京都造形芸術大学客員教授。テレ朝チャンネル2「津田大介 日本にプラス+」キャスター。フジテレビ「みんなのニュース」ネットナビゲーター。一般社団法人インターネットユーザー協会(MIAU)代表理事。株式会社ナターシャCo-Founder。メディア、ジャーナリズム、IT・ネットサービス、コンテンツビジネス、著作権問題などを専門分野に執筆活動を行う。ソーシャルメディアを利用した新しいジャーナリズムをさまざまな形で実践。主な著書に『ウェブで政治を動かす!』(朝日新書)、『動員の革命』(中公新書ラクレ)、『情報の呼吸法』(朝日出版社)、『Twitter社会論』(洋泉社新書)、『未来型サバイバル音楽論』(中公新書ラクレ)ほか。2011年9月より週刊有料メールマガジン「メディアの現場」を配信中。
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