社会保険は5本柱 年金や健保など最新の情報収集を

6月に入って次第に蒸し暑くなる中、筧ゼミでは今回から「知って得する社会保険制度」というテーマで議論する予定です。きょうの発表者は屋久仁達夫さんです。汗だくで発表資料を抱えながら、教室に入ってきました。
筧花子(かけい・はなこ、50=上)経済大学院教授。家計の経済行動や資産形成、金融リテラシーが専門。 宗羽士郎(そうば・しろう、23=中)大学院1年生。中堅証券「宗羽証券」創業家の一人息子。IT好き。 屋久仁達夫(やくに・たつお、54)大手製造業の技術職。定年を控え年金・介護など老後資金に関心。

 屋久仁さん、暑そうですね。まず汗を拭いて。落ち着いたら今回のテーマを選んだ理由から聞かせて下さい。

屋久仁 ありがとうございます。もう大丈夫です。自分も定年が間近な年齢になったので給与明細をじっくり見ていたら、様々な社会保険料があることに改めて気付きました。でもそれぞれがどんな仕組みで、何のためにあるのかよく分からないのです。

宗羽 僕も苦手な話題です。制度は複雑そうですし、まだ働いたこともないので自分とは縁遠いイメージですね。

屋久仁 では興味が持てるようにクイズから始めましょう。ズバリ、社会保険とは何でしょうか。

宗羽 え? 急に聞かれても……。

 宗羽君、シンプルに考えればいいのです。社会保険は社会、つまり国や公的機関が引き受け手となって、病気や老後などに備える保険のこと。読んで字のごとしですね。

宗羽 民間の保険でいえば、国や公的機関が保険会社の役割をするということですか。

屋久仁 その通りです。でも民間保険は一般に個人が加入するかどうかを選べますが、社会保険は条件を満たしたら加入するのが原則です。具体的な制度としてよく知られるのが健康保険と年金保険です。これに介護保険、雇用保険、労災保険を含めた5つが広い意味で社会保険とされます。

宗羽 5つなら何とか理解できそうです。

屋久仁 ところが職業や働き方、年齢によって加入する保険と種類は違うし、ここ数年は毎年のように保険料が上がったり、加入基準が変わったりしています。例えば健康保険は大企業の会社員なら健保組合、中小企業なら協会けんぽ(全国健康保険協会)に加入する例が目立ちます。自営業者は一般的に国民健保に入ります。いずれも74歳までが加入対象で、保険料は高齢化の影響で上昇傾向にあります。

宗羽 75歳以上になるとどうなるのですか。

屋久仁 健保の加入対象から外れ、後期高齢者医療制度に移ります。健康保険証から後期高齢者の被保険者証に切り替わるとき、しみじみと加齢を実感するシニアは多いらしいですね。

 年金保険はどうでしょうか。

屋久仁 自営業者は国民年金、会社員は国民年金に加えて厚生年金に入ります。保険料は国民年金が一律で、厚生年金は年収に応じて決まります。20歳から国民年金に加入した人は60歳で保険料の納付期間が終わりますが、会社員で60歳以降も働き、勤務時間の基準を満たす人は厚生年金に加入しなければなりません。加入年齢の上限は原則として70歳です。

 厚生年金への加入基準が10月から変わりますが、調べていますか。

屋久仁 もちろんです。現在は勤務時間が週30時間以上なら加入しますが「従業員501人以上の大企業で働く場合は週20時間以上、年収106万円以上」などになります。保険料の負担で手取りが減るケースもあり得るので、パート労働者などに影響が大きいとされていますね。

 雇用保険でも大きな変更がありますね。

屋久仁 ええ。65歳以上で新規雇用される人が来年1月から雇用保険に加入できるようになります。条件を満たせば、失業したときに一定額を支給されるなどのメリットがあります。現在も65歳以上で雇用保険に加入している人はいますが、同じ会社で働き続けている場合だけです。転職したら加入できません。

宗羽 そういえば私の祖父が介護費の自己負担を気にしていました。今は元気ですが、もう70歳代後半だから心配だと。

屋久仁 介護保険法の改正で、介護サービスを利用する際の自己負担が昨年8月に従来の1割から原則2割に上がった人がいるからでしょう。対象となるのは65歳以上で、収入から控除などを引いた所得が年160万円以上の場合です。一方、介護保険の保険料は65歳になると市町村ごとに決まり、年金から天引きされるのが原則です。保険料の支払い自体は40歳から始まっています。健保の保険料に介護分も合わせて納めるから、払い始めたのに気付かない人が多いですね。

宗羽 それにしても会社員は様々な保険料が天引きされるんですね。

屋久仁 でも会社員の場合、厚生年金と健康保険の保険料は個人と会社で折半するのが原則です。大企業の健保組合なら企業が保険料を50%より多く負担するケースもありますし、雇用保険料は企業が払う保険料の方が多い。給与明細には記載されませんが、仕事上のケガや病気の際に一定額を支給する労災保険の保険料は会社側が全額を払います。社会保険制度を維持するために必要な実際の保険料は、給与明細で分かる自己負担額の2倍以上だとも言えます。

 社会保険制度はそれだけ多くのお金が集まっているわけです。今後のゼミでは年金、健保などそれぞれについてより詳しくみていきましょう。

■不足分は貯蓄などで補う
社会保険労務士 池田直子さん
社会保険は複雑な制度ですが、正しく理解しなければ家計は効率的に運営できません。家計の運営では思わぬ病気やケガ、失業といったリスクに備えたり、定年退職後の生活資金を準備したりすることが必要です。まず社会保険がどれだけ活用できるのかを把握し、不足する分を貯蓄や民間保険などで補うという考え方が大切です。社会保険への理解が不十分だと、リスクへの備えに過不足が生じやすくなります。
「社会保険制度は変わるもの」という前提を置いて、常に最新の情報収集を怠らないようにしましょう。このところ社会保険制度は様々な変更がありますが、高齢化や国の財政悪化など現在の日本の変化を映した動きです。面倒くさがらずに社会情勢と照らし合わせて、自分の年金や健康保険が今後どうなっていくのかを考える意識が必要です。(聞き手は堀大介)

[日本経済新聞朝刊2016年6月11日付]

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