M・ムーア「世界侵略のススメ」 米が海外に学ぶ
品田英雄・日経BPヒット総研上席研究員
突撃取材のお騒がせ男と思っていたマイケル・ムーアが、60歳を超えたらためになる映画を撮るおじさんになっていた。タイトルは「世界侵略のススメ」だが、内容は世界の優れたものを米国に持ち帰ろうというドキュメンタリーだ。
まずイタリアを訪ね、有給休暇が年間40日あることに驚き、フランスの小学校では給食が手作りでフルコースであることにため息をつく。ドイツでは休暇中に部下への連絡を禁止した法律に共感する。初めは都合の良いもうけ主義批判と思えたが、発想を変えれば可能かもしれないという発見がいくつも出て来た。
(1)ノルウェー:再犯率が低い
刑務所の囚人が住むのは快適そうな一戸建て。ノルウェーは死刑がなく懲役も最長で21年。2011年の連続テロ事件の犠牲者の父親にもインタビューして死刑の是非について語る。こんなに寛容でいいのかと思わせるが、米国の再犯率8割に対し2割と世界最低レベルだ。罰を与えるのではなく社会復帰をするために刑務所があると聞くと納得がいく。
(2)ポルトガル:薬物中毒者の減少
01年から麻薬の所持や使用が犯罪ではなくなった。やり放題のはずが、逆に薬物中毒者が減りそれにまつわる警察や刑務所の費用がかからなくなった。犯罪ではないので周囲に相談でき、治療にも行けるようになった効果だという。
(3)アイスランド:女性活用
世界初の女性大統領を誕生させた国は女性が力を発揮する。企業は役員の40~60%が女性でないとならない。アイスランドはリーマン・ショックの際に財政破綻した。その後、国有化された3大銀行のうち2行は女性がCEOを務めることになる。一方、ギャンブル的な投資をした経営者たちの多くが刑務所に送られた。「わかることにしか投資しない」のが女性の経営の特徴だという。
ほかにも、宿題なしで優秀なこどもを育てるフィンランド、大学の授業料を無料にして世界から学生を集めるスロベニアなどが紹介される。自分たちは特別だと思っていた米国が海外の優れた部分を学ぼうと言い出している。米国一辺倒だった日本もうかうかしていられない。
〔日本経済新聞夕刊2016年6月11日付〕
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。