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「1日16時間労働」「元旦の午前中を除き365日働く」――。「モーレツ経営者」として名を馳せる、日本電産の永守重信会長兼社長が、働き方改革に挑んでいる。日本電産は、10万人を超える社員のうち9割が外国人というグローバル企業に成長した。外国籍の社員も意識した、賃金体系や教育システムへの変革まっただなかにある。「長時間労働はもう評価しない」と断言した、カリスマ経営者の本音をたずねた。

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我慢して自身の勤務12時間に短縮 

――永守さんといえば、がむしゃらに働く「モーレツ経営者」のイメージです。今でもそうでしょうか。

「最近、かなり宗旨替えした。10万人を超える社員のうち、日本人は1割しかいない。今や9割が外国人で、34カ国の人が働くグローバル企業だ。日本のやり方を押し付けてもうまくいかない。国内外に通じる統一的な人事、賃金体系、教育体制が必要だ」

「これまでと違い、長時間働くことは、必ずしも評価しない。結果を出した人を評価する方法に変えた。アメリカ人は定時に帰ってしまうし、ドイツ人はバカンスで2カ月休んでしまう。時間の感覚が違う」

日本電産会長兼社長の永守重信氏

日本電産会長兼社長の永守重信氏

「私も今は早く帰るようにしているが、それがなかなかつらい(笑)。会社を創業した約40年前に、『朝7時にきて夜12時まで働こう。10歳年取ったら1時間早く帰るようにする』と決めた」

「今も私は働きたくてしかたないし、仕事をエンジョイしている。でも、社員を横並びにするつもりもない。ところが、私が早く帰らないとみんな帰らない。我慢して朝は7時より前に出社しないようにして、夜は19時に帰るようにしている。けれど、家で時間調整することの苦しさといったら……。相変わらず休みの日も働いているけど、そっと会社にきて、裏から入ってそっと帰っている」

――長時間労働を減らして、どんな効果がありましたか。

「女性幹部の登用だ。部長級が6人になった。これまで、こんなに遅くまで働くのか、と女性から管理職が敬遠されていた。結婚し子どもがいて、家庭のことをしなければならない女性が働きやすいような職場にする。これで、将来の女性管理職予備軍も増えた」

「もうひとつは、社員が勉強できる時間を作れるようになった。実は、お客様から営業部門はまだいいが、特にエンジニアに英語が通じない、というクレームが多かった。定時に帰って英語を勉強してもらう、会社で英会話教室を開くなど、残業するよりそっちに時間をかけたほうが、仕事の効率があがる。とにかく残業しないで勉強してほしい。今はこれまでの日本電産のイメージを否定する毎日だ」

仕事のストレスは仕事でしか治せない

――普通、70歳を超えたら気力や体力が衰えると思いますが。

「全然衰えないね。先日、自分への古希祝いだと家にトレーニングセンターを作った。毎朝30分から1時間は、トレーナーの作ったプログラムにあわせて体を動かす。1年間毎朝だ。以前は体力測定をしても58歳から60歳くらいだったが、今測ると48歳まで一挙に若返った。継続は力なりですな(笑)。1944年生まれ、71歳の財界人で集まったら、腕立て伏せが1回もできない人もいるので驚いた。私なんて50回できる」

「疲れもない。早く帰りたいなんて思ったこともない。毎日、ああもう帰らなければいかんのか、という気持ちだ。会社にくることも、仕事で世界中を回るのも楽しくてしかたがない。メシはうまいし、体も健康だ」

――ストレスはないのですか。

「以前ストレスの研究をしている大学の先生に、過労死なんてないといわれたことがある。もし過労死があるなら、永守君はもう10回は死んでいるぞと。結局、酒を飲んだりゴルフをしたりして解消するようなストレスは、ストレスじゃない。仕事のストレスは、仕事でしか治せない。開発者だったら新商品を作る、営業だったら新しい注文をとる。酒ではストレスをごまかすことはできても、治すことはできないよ」

頭のいい人材を採ったが

――永守さんの人材育成の哲学を教えてください

「40年で、人の育て方も変わった。昔は、将棋のコマでいうところの『歩』しか入ってこなかったけれど、だんだん優秀な『金・銀・飛車・角』が入ってくるようになった。ところが、かつて、錯覚したこともあった」

「能力の低い『五流』の人材だからと、『歩』を『と金』にするような研修に大変なエネルギーを費やしていた。これでは、いつまでたっても10兆円企業になれない、ともっと頭のいい人材を採ろうとした。灘高から東京大学を出て米ハーバード大の大学院を出たような人、米マサチューセッツ工科大学(MIT)を卒業したような、いわば『金』であり『銀』であり『飛車角』をバンバン採用した。10年間彼らを見ていて、『歩』を『と金』にするような鍛え方じゃないが、別の鍛え方をしないといけない、とわかった。本当のプロ経営者になるための真髄を教えなければいけない」

「プロ経営者を育てるために、今年の春、経営大学校を作った。国籍を問わず、グローバルの人材教育だ。参加者は半分が外国人、残り半分が日本人で、世界中の日本電産グループからきた、40歳代中心の将来の幹部候補生、20人だ。ビジネススクールの先生にファイナンスやマネジメントも教えてもらう。私も日本電産の生い立ちから100年後、10年後のビジョンを話した。お寺の高僧にもきてもらっている。電話の対応ひとつでも、仏教に由来する日本の文化を知ることで互いの理解が進みやすくなるからだ」

「外国人でも、この会社は日本から生まれた会社だから、日本の文化を知ってほしい。将来、この経営大学を卒業した人が、自分の出身ではない国の社長になる、ということもありえる。中国人がアメリカの会社の社長になる、とかね」

永守重信氏(ながもり・しげのぶ)
1967年職業訓練大電気科卒。73年日本電産を創業し、社長に就任。2014年から現職。「【新装版】奇跡の人材育成法」(PHP研究所)など、著書多数。71歳。

(代慶達也 松本千恵)

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