フォークとナイフを手に映画鑑賞 劇場体験、劇的変化
フォークとナイフを手に、料理を食べながら映画を鑑賞――。そんな新たなスタイルのシアター「プレミアム・ダイニング・シネマ」が、2016年4月23日、「ユナイテッド・シネマ キャナルシティ13」(福岡市)内に国内初オープンした。
プレミアム・ダイニング・シネマは、上映開始の30分前に"開店"。座席にあるメニュー表を見て、ホールスタッフにオーダーすると、料理が席まで運ばれてくる。
フードメニューは、ロイヤルホストなどを展開するロイヤルグループと連携。メーンからサラダ、デザートまで20種類以上を用意する。ビールやワイン、カクテルなどアルコール類も充実している。
シアター内の雰囲気も一般的な映画館とは大きく異なる。まず、驚くのは劇場内の照明。真っ暗にならず、手元の料理が見える程度の明るさに保たれるのだ。上映中でも、食べ終わった食器類を回収するなど、スタッフが劇場内を行き来するのも特徴。追加オーダーも可能だ。「映画館というより、大迫力のスクリーンがあるレストランという表現が近いかもしれません」(ユナイテッド・シネマ)
なお2種のシートがあり、席数の多い「カジュアルシート」は食事代に使える1000円分のバウチャー(金券)付き。電動リクライニング機能が備わる「ラグジュアリーシート」は、1500円分のバウチャーが付く。
動画配信サービスに対抗
昨今、ネットフリックスなどの動画配信サービスが揃い、家庭で簡単に映画を見られる環境が整ってきた。「映画館は、足を運んでいただく努力をしていかなければいけない。その1つが、映画館ならでは体験の提供です」(同社)
体験に力を注ぐ背景には、13年から普及の始まった4Dシアターの成功がある。まるでアトラクションに乗っているかのような、新しい映画の楽しみ方に観客が殺到。「4Dの稼働率は、一般のシートと比べて2倍以上で推移している」(同社)。映画をあまり見ないライト層の利用も多く、客層の間口を広げられたという。
プレミアム・ダイニング・シネマは、4Dとは異なる客層を獲得できるとユナイテッド・シネマは期待を寄せる。「4Dが映画への"没入"なら、ダイニング・シネマは、同行者と語らいながら映画を楽しむ場。さまざまな来場動機がそろう"エンタメコンプレックス"を目指す」(同社)
日本以上に動画配信サービスが普及する海外では、「映画館は危機感をさらに強めており、改革が進んでいる」(アメリカ在住の映画ジャーナリスト・猿渡由紀氏)。
本格的な料理を出す上映スタイルは海外で先んじて導入が進んでおり、アメリカでは100以上の劇場で実施。この他、劇場内に用意されたベッドに寝転んで映画を見る「ピロー・シネマ」や、湯船に入って酒を飲みながら鑑賞する「ホット・タブ・シネマ」など、変わり種も出現している。
さらには、映画館収入の"肝"ともいうべき、チケット販売にまで改革は及んでいる。会員制サービス「MoviePass」は、毎月30ドルから45ドル程度の会費を払えば、提携する映画館で映画を見放題というもの。一見、大幅な収入減となりそうだが、「MoviePass会員は、一般客の123%増しでポップコーンなどの飲食代を使うという調査結果もある」(猿渡氏)。客が来れば、売店の売り上げが伸びる。足を運んでもらうことが重要というわけだ。
この映画館改革の波が、いずれ日本にもやって来る可能性は高い。
(日経エンタテインメント! 羽田健治)
[日経エンタテインメント! 2016年6月号の記事を再構成]
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