テレビ界初、ウォール街をリアルに描いてヒット
アメリカのエンタテインメントでは、その時々の政治や時事ネタ、社会問題をダイレクトに作品に取り込み、実在の企業名や人名が登場することもしばしば。報道番組の裏舞台を赤裸々に描いた『ニュースルーム』や大統領選がリアルに展開する『ハウス・オブ・カード 野望の階段』、IT業界の内情を描く『シリコンバレー』など、日本では娯楽になりにくい題材でも、うまく料理するなあと感心することも少なくありません。そんななか、金融業界を描いた"テレビ界初のウォール街ドラマ"とも言われている『Billions』が高評価を得ています。
ヘッジファンドの大物で大富豪ボビー・アクセルロッドに、インサイダー汚職を調査するニューヨーク検事局の無敗検事チャック・ローズは疑惑を抱きます。しかし、告発する十分な証拠がないことから罠を仕掛けるのですが、ボビーは策略に気づいた上であえて罠に食いつきます。かくして検察と大富豪の丁々発止の駆け引きが展開していきます。
傲慢で非情なボビーがのし上がった背景には秘密もありそうですが、家族を大切にする良き家庭人でもあり、部下の信頼もあります。一方のチャックはキレ者ですが、私生活ではSM趣味でストレスを発散している変わった一面も。くせ者同士の対決は、どちらが悪者でどちらが正義かといった善悪の境界線があいまいな点に、ドラマとしての深みがあります。
出演は、ポール・ジアマッティ、ダミアン・ルイスほか。クリエイターは、映画『オーシャンズ13』の脚本家ブライアン・コペルマンとデイヴィッド・レヴィーン、アンドリュー・ロス・ソーキン。プレミアム・ケーブル局Showtimeで1月より放送スタート
主演2人の演技合戦
何より、演じる主演2人の絶妙な演技合戦は、ぞくぞくするほど魅力的。ボビー役は『HOMELAND/ホームランド』のブロディ役で絶賛された英国俳優ダミアン・ルイス。対するチャック役には映画『サイドウェイ』などのポール・ジアマッティ。共に舞台でも高い評価を得ている演技派のガチンコ勝負は、本作の最大の見どころのひとつです。
映画では、今年のオスカーを沸かせた『マネー・ショート 華麗なる大逆転』を筆頭に、リーマン・ショックを題材にした経済ものから秀作が生まれています。テレビ業界では弁護士ドラマなどの1エピソードとして経済ネタが登場することはありましたが、正面から金融業界を扱った作品は稀なこと。ウォール街の成功者の常人離れした姿には、映画『ウルフ・オブ・ウォールストリート』のような華やかで刺激的な楽しみもありつつ、専門用語が飛び交う本作の成功に、業界内外の関心が集まっています。
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今月のオススメドラマ
『SCORPION/スコーピオン』
テクノロジーがからむ難事件に挑む天才チーム
11歳でNASA(アメリカ航空宇宙局)にハッキングし、米国政府に協力した過去を持つIQ(知能指数)197のコンピュータの天才ウォルター。凄腕の行動心理学者トビー、メカの天才ハッピー、天才数学者シルヴェスターらと共に独自の会社"スコーピオン"を結成。だが、意に反してNSA(アメリカ国土安全保障省)から仕事を請け負うことになり、最新テクノロジーがからむ難事件に頭脳を駆使して挑んでいく。
14年9月よりCBSで放送がスタートするや、新作ドラマでトップクラスの視聴者数を獲得して人気シリーズに。オタク気質全開で社会性ゼロのメンバーに代わってシングルマザーのペイジが渉外係となり、NSAの特別捜査官ガロの依頼を受ける彼らの活躍ぶりが、頭脳戦+アクション満載で描かれる犯罪捜査ドラマだ。
出演は、『SMASH/スマッシュ』のキャサリン・マクフィー、『ゲーム・オブ・スローンズ』のエリス・ガベル、映画『ターミネーター2』のロバート・パトリックほか。製作総指揮は、映画『スター・トレック』シリーズなど大ヒット作の脚本を手がける、アレックス・カーツマンとロベルト・オーチー、新作『スター・トレック Beyond』の監督ジャスティン・リンらが名を連ねる。
映画&海外ドラマライター。女性誌、情報誌、ウェブ等に映画評やインタビュー等を寄稿。「BAILA バイラ」「eclat エクラ」「日経エンタテインメント!」映画サイト「シネマトゥデイ」などに連載中。著書に『海外ドラマ10年史』(日経BP社)
[日経エンタテインメント! 2016年6月号の記事を再構成]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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