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日本経済の最前線で、デリバティブ市場の活性化を支える日々!
 出産・育児・親の介護と、変化するライフステージのなかでも働き続けられるのは、娘が社会に出た時に「自分が良き理解者となりたい」と思うからこそ。

――デリバティブ市場の活性化を目指し、舞台を整える仕事

東京証券取引所(以下、東証)で働いて12年目を迎えます。現在は、東京・日本橋兜町にあるオフィスに席を置き、大阪取引所デリバティブ市場の営業サポートを担当しています。

デリバティブとは株式や債券などを原資産にした金融派生商品のことで、先物取引やオプション取引などのことです。

今の営業部には、機関投資家、個人投資家、海外投資家ごとに営業部隊があります。営業といっても、もちろん個別銘柄を売り込むわけではありません。私たちはあくまでも取引の場所を提供する中立の立場。商品を開発し、各商品をわかりやすく伝え、取引が活発に潤滑に行われる舞台を整えるのが役目です。

――新しいチャレンジと、粛々と続ける守り

日本取引所グループは、社会的なインフラとして公共性を確保する必要がありますが、同時に、上場している株式会社でもあります。

海外に目を向けると、市場は目まぐるしく変化していますし、商品も多様です。世界経済から取り残されてしまわぬよう、グローバルな視点で常に新商品を考えるためには、日々取引をしている投資家のニーズを聞く部隊が必要で、営業はその役割を担っていると考えています。

世界のニーズに対応し新しいことへ取り組むマインドと、粛々とあるべきことを守っていくマインド。常にこの両輪を意識しながら事業を展開しています。

――刺激的だったIT本部

私は入社して、まず市場の流れを知り現場での勘を身に付けるために、マーケットを監視する仕事からスタートしました。

最初の転機は入社5年目。当時のCIO(最高情報責任者)の陣頭指揮のもと、東証にIT本部が立ち上がったころです。「取引所の各システムを根幹から見直そう!」という大きなプロジェクトに携われたことは、とても刺激的でした。

私もまだ若く、自分のためだけにがむしゃらに働けた時期でした。残業も、システムテストのために休日に出勤することも楽しかったですね。

――留学先で、いろんな働き方・生き方を知る

その後、IT本部の仕事を通じて語学の必要性を感じ、社内の語学留学制度を利用して3カ月海外へ出ました。仕事を3カ月間休むことに危機感もありましたが、そんな心配は杞憂(きゆう)に終わりました。

語学力の向上はもちろん、各国のビジネスパーソンと知り合えたことは大きな実りでした。お互いの仕事の話になると「ずっと同じ会社で働いているの?」と、よく驚かれましたね。海外では転職やキャリアチェンジは当たり前。いろんな働き方、生き方があることを知り、視野が広がりました。

私自身は、語学留学で得た語学力を生かし、日本に戻って真剣に仕事に取り組みたいと改めて意識しました。

――異動を希望して参加した新プロジェクト

帰国すると、ちょうどマーケット営業部という新部署を立ち上げる話があり、「やってみたい!」と思いました。希望を出しての異動は初めてでした。日本、欧州、米国で相互発注ができるシステムを構築するというビッグプロジェクトで、海外との折衝も多く、IT知識も語学力も生かせる仕事でやりがいがありました。

同じ社内でも部署が変わるとまるで会社が違うほど、業務も文化も異なるのが我が社。この時はいろんな部署から人が集まったので、今まで関わることのない人たちと出会えて面白かったですね。

しかし、プロジェクトには関係者が多く、制度チーム、システムチーム、海外の交渉相手、それぞれに文化、スピード、決定フローなどが異なり、なかなか着地点が見いだせない日々が続きました。なんとかリリースまでこぎ着けたものの、思うように実をとれませんでした。しかし、海外の取引所と直接議論をし、考え方を学べたのは大変有意義でした。

――結婚、出産、親の看病……母と上司が道しるべに

この新部署の時代に、プライベートで大きな転機を迎えました。結婚と出産、そして親たちの介護という、うれしいニュースとつらいニュースが同時にやってきたのです。優先順位をどうするか、いつ仕事に復帰するのか、そもそも仕事を続けるのか、いろいろ悩みました。

そんな時、道を示してくれたのは母と上司でした。病床の母からは「仕事は簡単に辞めるものじゃない。生まれた娘にも、働いて社会とつながり続ける母親の姿を見せなさい」と言われ、その通りだと思いました。

そして仕事に復帰したのですが、勤務時間も短くなり、急に休むこともあり、「これならむしろ長期休暇を取った方が会社にとっていいのではないか」とモンモン……。そんな様子を見ていた上司が「毎日少しでも来てくれるだけで、その分仕事が進むんだから」と言ってくれました。少しでも自分には役割があると励まされ、やれる範囲で全力で頑張ろうと思えましたね。今でも感謝しています。

――誰かと比較することに意味はない

出産・育児・介護などを経験し、私が得た教訓は「人にはそれぞれライフステージごとに抱えているものがあり、その時々に何を人生の柱にするかは自分しだい。共通のものさしも答えもないんだ」ということ。

育休明けで職場に戻った時、正直、同期の男性たちが第一線で活躍している姿がまぶしかった。でも、人には花を咲かせる時期と根を張る時期がある。直近の成果をせっかちに追わなくていい、と思えました。

また、育児を通じて知り合った、戦友のような働くママ友仲間がいるのですが、見えないところでそれぞれがいろんなことを抱えています。そんな苦労がふと垣間見えることがあります。

人にはそれぞれ背景がある。自分勝手に思い込んで誰かと比較することに意味はない、とつくづく思います。それよりも、今、自分の目の前にあることにしっかり取り組むことが大事。そう思って暮らしています。

――仕事があるからこそバランスがとれる

子育てとひと言でいっても、そこには振れ幅があり、様々なスタイルがあります。「子育てしながら週5日のフルタイム勤務はキツイ!」と思うこともありますが、かといって「週5で子育ても無理!」というのが本音です(笑)。

職場で大人同士の会話をする時間があるからこそ、家に帰ればゼロから育児モードになれ、子どもとの時間が充実します。仕事を頑張る自分があるからバランスがとれる。仕事で落ち込む日も、子供の笑顔を見ると自分の役割をきちんと果たせていると幸せに感じます。両方あるからこそ、自分のなかでバランスがとれているのだと思います。

――仕事を続けるからこそ、娘に伝えられること

夫も社内にいるので、仕事の状況を1話せば10理解してもらえて助かります。育児にも協力的です。子どもが朝、熱を出した場合は、必ず母親が休むという考えではなく、その日のそれぞれの予定上「今日は絶対に行きたい!」と強く思う方が出社する、というのが私たちのルールです(笑)。

夫婦といえども育児への考え方が異なる時もありますが、彼に任せた時は彼のやり方に任せきる。口を出さないように気をつけています。

私はこれからも仕事を続けながら、「ママになっても自分の人生がある」という生き方を、そして「自分の軸をしっかりと見つければ、どんな道を選んでも楽しんで生きていける」ということを、娘に伝えていきたいと思っています。

三堀由紀子(みほり・ゆきこ)さん
株式会社日本取引所グループ 調査役
2005年、東京証券取引所グループ入社。デリバティブ取引の監視、清算システム開発などを経て、10年からマーケット営業部へ。13年、東京証券取引所グループと大阪証券取引所の経営統合により日本取引所グループが誕生。現在、大阪取引所デリバティブ市場営業部 兼 東京証券取引所エクイティ市場営業部。一児の母。東京都生まれ。

●取材後記

株式売買立会場閉場からはや17年。もみくちゃになりながら手サインを送り合う男性たちの姿が印象強く、証券取引の世界は男性社会というイメージがありましたが、三堀さんのように営業部でも活躍し、育児や介護とも両立を続けている女性がいる! うれしく、頼もしく思えました。ちなみに、産休・育休は最大3年間だそうで「男性でも育休をとる人が増えている」といいます。誰もが働き手であり、育て手である。そんな社会が着実に広がっています。

日本取引所グループのホームページ http://www.jpx.co.jp/

[2016年6月2日公開のクラブニッキィの記事を再構成]

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