日韓の働く女性、結婚・出産… 手探りの未来
日経と韓国・中央日報社が共同調査
選択肢多く「まだ遠い話」
「結婚はしてもしなくてもいいけど、子どもはほしい。結婚するなら子どもは必須」。大手メーカーに勤務するエンジニアの女性(23)は話す。
「一生働き続けたい」という思いから、結婚後も女性が活躍できるかを重視して会社を選んだ。
結婚相手に求める条件は「働くことに賛成してくれる人」。出産したら母親も面倒を見ると言ってくれている。「子どもをつくる年齢を考えると、結婚するなら30歳くらいまで」が目標だ。
選択肢が多い20代。結婚相手に求める条件は人それぞれだ。文具メーカー勤務の女性(29)は、今夏に海運会社勤務の男性(23)と入籍予定だ。性格や価値観の一致はもちろんだが、「大手の関連会社に勤務していることと、将来への考えがしっかりしていたこと」が決め手と振り返る。結婚1年以内に第1子をもうけたいと彼と話している。
結婚・出産を早くから計画する女性がいる一方で、現実的に考えられない人もいる。メーカーに勤める長崎県在住の女性(29)は、「結婚はしてもしなくてもいい。子どもを持つ友人も多いが、うらやましいという思いはない」と話す。
韓国の輸出関連の会社に勤める韓国人女性(28)も、「結婚も出産もまだ遠い話」という。かつて留学していた欧州は、教授が子どものお迎えのため10分早く帰ろうという雰囲気があった。しかし「韓国はそんな雰囲気がない」。そういう社会で、出産後に職場復帰するには資格があったほうが有利だし、子どもを産むにはベビーシッター代など経済力が必要だ。今の自分では、「あまりにも準備ができていない」と感じている。
願望はあるが、妥協できず
「結婚はしたいけど毎日残業でヘトヘト。婚活する気にはなれなくて」。そう話すのは都内の会社に勤める女性(36)だ。関西の大学を出た後、東京で就職。同級生は次々と結婚、出産し、「いつかは自分も」と思いながら仕事は忙しく気が付けば三十路に。
32歳で海外赴任が決まった時にはうれしい半面、「婚期を逃すかも」と不安に駆られた。帰国後は責任も増し、部下もできた。仕事を頑張っても、「結婚しないと半人前なのかな」との思いがくすぶる。
「子どもを産むなら結婚を急がないと」。40歳を目前にして大手商社に勤める女性(39)は初めて心が揺れている。「旅行も食事も一人で平気」という性格で、結婚願望は強くなかった。転機は海外赴任で経験したホームパーティー。家族連れの同僚たちを見て「出産願望」が膨らんだ。
仕事の経験を積み、自立する独身女性は多いが、結婚したい、子どもがほしいとの思いは時に切実だ。それでも相手が誰でもいいわけではない。
14年前に来日し、メーカーに勤務する韓国人女性(33)は韓国に帰国した時、タクシー運転手から「早く結婚しろ」と諭された。「親戚で集まってもいつ結婚するんだとの話題ばかり」。そんな窮屈さに比べると日本での生活は自由に感じる。
子どもがほしいので「35歳までには結婚したい」。ただ、条件ばかり先立つ婚活は苦手で「自分が自然体でいられる人と自然に出会いたい」。仕事や趣味の旅行など日々は充実しており、「妥協して結婚する必要はない」との気持ちもわきつつある。
仕事や自由、失いたくない「成長できるのが楽しくて20代から夢中で働いた。新しい仕事をどんどん任され、やりがいが大きい」。テレビ通販「ショップジャパン」のブランド戦略を担う安藤素古さん(42)は大学卒業後、アパレル会社に就職。転職を経て順調にキャリアアップし、30代から管理職として活躍する。
結婚は、「普通にしたいと思っていた」。ただ、20代で交際した相手とは結婚のタイミングで迷いが生じ、30代で付き合った相手とはすれ違いが続き別れた。今後誰かと付き合うなら結婚したいと思うが、出産まで考えるとためらう。
出産を結婚のハードルと感じる40代は多い。「30代で婚活していれば違ったかな」と話すのは45歳の営業事務の女性。性別、年齢を問わず友人は多く、結婚を急ぐ気持ちは消えていた。婚活に踏み切ったのは40歳になってから。「子どもがほしい」と語る男性を前に、自分を売り込めなかった。
責任感が「現状維持」を選択させるケースもある。都内の人材派遣会社に勤める女性(46)は、7年間付き合っている彼がいるが、結婚の話が出たことはない。二人とも両親の暮らしを支えているからだ。結婚するなら彼しかいないと思うが、親の世話を考えると決断できない。
韓国の公共機関で課長職を務める女性(44)は働き始めて16年目。結婚をせかされたくないと話す。「以前は結婚はすべきだという雰囲気が社会にあったけど、それは女性が経済力を持っていなかったから。今は違う」。いい人に出会えたら結婚するかもしれない。でもこうも思う。「自由に、気楽に暮らしたい」
(成瀬美和、横沢太郎)
日韓、仕事と育児の両立に依然多くの壁
一人の女性が生涯に産む子どもの数を示す合計特殊出生率は日本が1.46、韓国が1.24(2015年)。深刻な少子化に加え女性管理職の割合が1割程度と低く、女性の活躍が遅れているのも日韓共通の課題だ。
調査結果から両国の働く女性の意識を分析すると年を重ねるにつれ結婚に消極的になる傾向が見られる。結婚を「必ずすべき」「したほうがいい」と答えた人の割合は、20代では日韓両国で4割だが、30代で3割弱、韓国の40代では2割弱。「結婚したら子どもを持つべきだ」に同意するのは日本の20代女性で53%、韓国で58%にのぼるが、40代ではいずれも51%だった。
「いずれ結婚して子どももほしいが残業が多い今の仕事を続けられるか不安」(日本、26歳未婚)、「子育てや家事を夫が手伝うとしても女性がやるのが8割以上だと思う。仕事と家庭の両立は難しい」(韓国、32歳未婚)。仕事と家庭を両立したいと就職しても、長時間労働や、家事・育児の負担が女性に偏る現実に不安が募る。30代、40代とキャリアを積むにつれ、やりがいある仕事や自由を失いたくないと感じるようになる。結婚したくないわけではないが「理解ある相手が現れたら」と先送りする女性は少なくない。
仕事と育児の両立に依然多くの壁が立ちはだかる日韓。その現実が変わらない限り、女性の活躍と少子化克服の実現は難しい。
(女性面編集長 佐藤珠希)
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