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個人型DCの選択慎重に 手数料や品ぞろえ玉石混合

2016/6/15

個人が掛け金を積み立てて運用し、老後資金を作る個人型確定拠出年金(DC)。対象者を来年から大幅に増やす改正法が5月24日、国会で成立した。節税効果が大きい仕組みだが金融機関の手数料はまちまちで、扱う金融商品の品ぞろえも玉石混交。どう選べばいいのだろうか。

「法改正を待っていた」。こう話すのは香川県の県立高校の男性教師Aさん(34)。7年前から国内外の資産に投資している。しかし「節税効果が大きな個人型DCが使えないのが残念だった」。

個人型DCは現在、企業年金のない会社の会社員と自営業者の計約4100万人が対象。法改正で来年から公務員や主婦、企業年金のある会社の会社員など約2600万人が加入できる。

■所得控除の恩恵

最大の利点は掛け金全額が所得税・住民税の対象から除外される所得控除。例えば会社員の上限である27万6000円を拠出すると、課税所得500万円の人なら年8万2800円の節税だ。

運用期間中は運用益に課税されないし、原則60歳からの受給時も税優遇が受けられるが制度がほとんど知られておらず、加入者は今年3月末で26万人と加入資格のある人のわずか0.6%だ。しかし法改正を機に制度の周知が高まれば普及が加速しそうだ。

個人型DCは自分で金融機関(運営管理機関)を選んで申し込むため、どこを選ぶかで資産形成に大きな差がつく。カギは運営管理手数料と投信の品ぞろえだ。

まず管理手数料をチェックしよう。個人型DCを扱う金融機関のうち、手数料が現時点で最も低いのはスルガ銀行とSBI証券(資産50万円以上)で、いずれも年2004円ですむ。しかしNPO法人、確定拠出年金教育協会(東京・中央)の調査によると、6000~7000円台が全体の8割弱を占めている(グラフB)。

個人型DCの掛け金は年6万円から。所得が低く、税率が15%の人が6万円を拠出したときの節税額は年9000円になる。手数料が7000円台の金融機関を選べば大半が吹き飛ぶ計算だ。

個人型DCは少額投資非課税制度(NISA)と違って預貯金も対象。リスクを避け、預貯金で節税効果を得ることもできる。この場合は管理手数料が低いSBI証券とスルガ銀行が選択肢となる。

一方、投信を使って老後資金を増やしたい場合は、投信の品ぞろえが重要になる。投信は保有期間中に毎日、信託報酬というコストが差し引かれる。長期では信託報酬が成績に大きな影響を与える。

一般に信託報酬が低いのは株価指数などに連動することを目指すインデックス型投信だ。国内株、海外株、新興国株、国内債券、海外債券の主要5資産のインデックス型投信があるところが望ましい。

現在、低コスト投信の品ぞろえが多いのはSBI証券、りそな銀行、野村証券などだ。国内外株式のインデックス型投信で信託報酬が年0.1~0.2%台のものを多くそろえている。

表Cでは10~30年の運用期間ごとに信託報酬などを試算した。りそなとB銀行の投信は、同じ先進国株式の指数に連動するインデックス型投信。しかし信託報酬の違いで、合計コストは30年間で130万円の差になる。C銀行で扱う外国株投信は、運用者が市場平均を上回る成績を目指すアクティブ型が1本だけ。これで比較すると、りそなとのコスト差は250万円だ。コスト差を埋め合わせるほど高い運用成績を出せるかは慎重に検討する必要がある。

■安易な選択は禁物

B、C銀行は信託報酬が高いだけでなく、管理手数料も高め。個人型DCでこうした金融機関は多い。「地元だから」「企業型DCで使っていた金融機関だから」などの理由で安易に選ぶと、資産形成に不利に働きかねない。

金融機関選びでは確定拠出年金教育協会が運営するサイト「個人型確定拠出年金ナビ」が参考になる。独自調査に基づいて管理手数料や投信の商品構成、信託報酬などを掲載し、比較がしやすい。

ただ同協会のサイトがすべてをカバーしているわけではない。サイトでの比較を好まない金融機関もあるからだ。ある大手生保は数カ月前「当社の情報は開示しないで欲しい」と申し入れ、協会は情報を削除せざるを得なかった。

同様にホームページで手数料や信託報酬などを十分に開示していない金融機関は多い。厚生労働省などが情報開示の強化を求めることも、普及のカギになりそうだ。

法改正を受け、品ぞろえを強化したり、新たに参入したりする金融機関が増えそうなので、未加入ならしばらく様子をみるのも選択肢だ。複数の大手金融機関が品ぞろえ強化を検討しているほか、大手ネット証券は低コスト投信をそろえて今秋をメドに個人型DCに参入する方向だ。(編集委員 田村正之)

■退職所得控除、主婦も対象に
主婦で所得のない人は個人型DCに加入しても掛け金への所得控除を受けられないので、あまりメリットがないと思われがちだ。しかし「全く働いたことのない主婦でも受給時に一時金でもらう際、退職所得控除の対象になる」(柴原一税理士)。
退職所得控除は掛け金を納めた年数ごとに20年目までは40万円、その後は年70万円ずつ非課税枠が積みあがっていく仕組み。例えば30年加入なら、1500万円まで税金の対象から控除される。長く加入すればかなり大きな金額が実質的に非課税で運用できる。柴原氏は「これが今後知られていけば、加入を検討する主婦は増えそうだ」と話している。

[日本経済新聞朝刊2016年6月8日付]

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