--本題に戻ります。名勝負シーンです。(ジャーマン・スープレックス・ホールドの写真を見ながら)ブリッジの足のつま先が立っているのがキレイですね。相当トレーニングしないとできませんね?

真壁 俺が入ったのは1996年、20年前。新日本プロレスはね、頭のおかしいやつの集団なんだけど、プロレスラーになって業界ナンバーワンを目指すのは当たり前なんだよ。そうでないと世間に胸を張れないなと思った。何せ高校生のころはボンタンのズボンを履いて髪型はリーゼントで肩で風切ってるアホだったんだよ。俺の兄貴は出来が良くて地域で一番いい高校に入って、俺は一番下の高校に通ってたの。出来のいい兄貴と、そうでない弟。周りからはそういう目で見られてたんだよね。親父は東北の生まれで高卒で、学歴社会の中で苦しい思いしながら、俺と兄貴を育ててくれたんだよね。だから、ちょっと踏ん張って兄貴のように大学に行ってみてーなと思ったの。現役の時はパッパラパーだったけど、予備校でいい友達に巡り合って勉強法を教えてもらったのが大きかった。ホント、単純なこと。英語なんか何度も何度も辞書を引くんだよね。ぺったんこな辞書が膨らむくらい勉強すれば頭に入るんだよね。

--繰り返しが大事なんですね。

真壁 徹底的にやることなんだよね。それで、大学(帝京)に入って、女子学生と合コンやるようなチャラいサークルに入りたかったんだけど、体格のいい連中が勧誘してきたの。何かと思ったらサークルでプロレスやってるって。どうせみんなでビデオを見てるオタク系かと思ったんだけど、リングを借りて、学園祭とか町のお祭りとかでプロレスを見せるって言うの。高校時代はボクシングや柔道の県大会、地区大会で実績のあるやつらなんだよね。

-- 真壁さんも柔道をやっていました。

真壁 県内でベスト16まで行ったんだけどね。まあ、一生懸命やっていると花が咲くもんだよ。結局、プロレスラーになりたくて就職活動は全然しないで、体育館の隅でずっとスクワットをやってたの。最初は50回もできなかったのが、1週間後に100回、その次は150回、200回と……半年で1000回できたんだよね。普通の人から見たら、おかしいんじゃないかってことを新日本の入門テストではやるからね。スクワットやプッシュアップ(腕立て伏せ)を300回、500回と。あとはリズム感とか体のつくりとか見るんだよね。

-- 入門テストは1回落ちたんですよね?

真壁 そう、どうしようと思ったよ。でも、諦めが悪いから、もう一回受けよう、1年やって体力付けたら受かるだろうと。そしたら、雑誌で急募のお知らせが出たんだよね。合格者が逃げたんだよ。改めて 360人が書類審査とか現場のテストを経て、俺と高校生ぐらいの子が合格したんだ。彼はすぐに辞めたんだけどね。

--練習は厳しいらしいですね。

真壁 ホントにびっくりするよ。今は許されない拳(ゲンコツで制裁)がすごかったのよ。「てめえ、声が小さーいっ」と殴られる。ほかの誰よりも声を出して、誰よりも腰を落としてスクワットをやっているのに、「てめえ、ちゃんとやれーっ」と、またぶん殴られる。それで、クソっと思ってやると、また「声が小さーいっ」と。とにかく無理難題の押し付け。残れるものなら残ってみろというのが、当時の練習だったんだよね。今となっては何回ぶん殴らたか覚えてないよ。

イケメンに「壁ドン」を決められ、ギブアップ寸前?

-- それ、今ならパワハラですよね?

真壁 そう。着々と誰を訴えようかと考えてるよ(会場、大爆笑)。笑いごとじゃないよ。今だから笑えるんだからな、この野郎。当時のことはだいたい覚えているけど、細かい記憶がないのよ。人間ってね、思い出したくない、ツライ記憶を捨てちゃうんだって。俺、昔から自分が正しいことをやってるのに難癖つけられるのが一番嫌でね、最大限のストレスなんだ。(赤ちゃんが泣きだす)。ねっ、そうだろう? 子供は俺のことわかってくれるんだよ。とにかく、一番強くなって、そいつらを早く潰してやりたい、ねじ伏せたいと思ったんだよね。

--厳しいトレーニングに耐えられたのは、目をかけてくれる先輩の存在も大きかったそうですね。

真壁 一生懸命てっぺんを目指して頑張っていると必ず背中を押してくれる先輩とかいるんだよね。それをみんな見逃してはダメなの。俺のときはね、山本小鉄さん(10年没)。みんな知ってる? (お客様うなずく)。スキンヘッドの竹刀を持ったオジサン。レジェンドレスラーの前田日明さんも、小鉄さんの愛車、キャデラックのエンジン音が道場(世田谷区上野毛)に聞こえると縮み上がったらしいよ。

広く。 「鬼軍曹」と言われていましたね。

真壁 俺が入ったころはとっくに引退して仏の小鉄さんだったけどね。健康管理のためにトレーニングに来ると、面白い昔話をしてくれるの。こっちは朝から晩までトレーニングをやって、頭くらくらしながらちゃんこ番をやってるだろ。先輩の練習着などの洗濯や道場、合宿所の掃除とか雑用もあるしね。でも、小鉄さんが来ると楽しいのよ。ある日、練習で先輩に難癖をつけられて、道場の外に追い出されたんだよね。「入ってくるな、この野郎!」って。こっちは「すいませーん、開けてくださーい」と、子どもみたいに扉を叩くんだけど全然駄目で。モタモタしているとまた難癖をつけられるから早く準備しなきゃと思って風呂に行くと小鉄さんがいてね。二人とも真っ裸。小鉄さんから「オイ真壁、どうした?」と声をかけられて、「何でもないです」と答えたら、「何でもないわけないだろ、バカヤロー!」といきなり怒られて。「実は、誰よりも一生懸命やっているのに、なぜ難癖つけられるんでしょうか。意味がわかりません」と言ったのね。そしたら小鉄さんが「真壁、お前、誰よりも強くなれ。誰よりも強くなったら、お前のこと文句を言わないぞ」と。それで、ハッと気づいたんだよ。俺、先輩の言うことを聞いて練習さえやっていればデビューできてスターになれると思っていたけど、それは大きな間違いで、言われたことだけをやっていたらダメなんだよね。誰よりも強くならなきゃいけないって根本を忘れていたんだ。先輩の罵声とか厳しいトレーニングに付き合えば大丈夫って、守りに入っていたんだよね。そう思ったら次の日に考えが変わったね。「よし、だまされたと思ってやってみよう」と。やらされてるんじゃなくて、ねじ伏せるためにやるんだと思ったよね。誰よりも声を出してバンバンバンバン練習をやって、いつかコイツらやっつけてやろうと思いながら。そしたらね、スパーリングで先輩にボロ雑巾のように扱われていたのが、3年たって1人、2人ときめ、6年ぐらいしたら誰からも誘われなくなった。筋力とか根性とかすべて整ったんだよね。小鉄さん、これを言いたかったんだなーと気づいたね。

エンタメ!連載記事一覧