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プロが明かす出世のカラクリ

弱いつながりはビジネス上の「素敵な偶然」をもたらす 出世する人は人事評価を気にしない(8)終

2015/2/10

PIXTA

第2のキャリアを設計する(下)

◆弱いつながりはビジネス上のセレンディピティをもたらす

 強いつながりは価値の源泉だ。では第二のつながりである、弱いつながりはどうだろう。

 弱いつながりも価値を生み出す。

 ただし、その生み出し方は確実ではなく、段階的でもない。その代わりに、強いつながりよりも大きな変化を引き起こし、強いつながりからは生まれないような大きな価値を生み出すことになる。

 ビジネスにおける弱いつながりとは、単なる知り合いのことではない。

 前提として、その人と知り合っているのがあなただけ、という状態だ。

 例えば、新しい見込み先から問い合わせを受けたとしよう。窓口になったのがあなたで、社内では相手の会社と面識のある人はいない。結果としてその会社との間でビジネスにならなかったとしても、あなたにとってその会社の担当者との関係は、弱いつながりだ。

 弱いつながりにならない例は、例えば、長年付き合いのある取引先と軽く知りあうような場合だ。あなた以上に深いつながりを持つ人が社内にいれば、強いつながりにすらならないだろう。

 弱いつながりとは、相手側が持つ強いつながりとの窓口として、あなたが認識されている状態だ。どんなビジネスパーソンでも、強いつながりは必ず持っている。その強いつながりとしてのネットワークが、他のネットワークにつながる唯一の点になることを目指す。それが弱いつながりを増やすということだ。

 弱いつながりから生まれる価値は、確実でもなく段階的でもない。

 それは偶然のチャンスと言い換えてもいい。

 しかし幸運と思われる人は、実はこの偶然に助けられることが多い(J・D・クランボルツ、A・S・レヴィン『その幸運は偶然ではないんです!』ダイヤモンド社、2005)。そして偶然の幸運は、手に入れやすくすることができる。それが弱いつながりを増やすことだ。

◆今後10年間の間に幸運をもたらす“青い”つながり

 多くのビジネスパーソンは、もちろん強いつながりを持っており大事にしているが、意外に弱いつながりを意識していない。

 棚卸しした人的資本を見直してみよう。

 そのつながりの部分にマークをつけてみてほしい。

 強いつながりは、赤いマーカーで目立つようにする。

 そして、他のつながりの中で、強いつながりにある人や組織とつながっていない者だけを選んで、青いマーカーで目立たせよう。

 そうして確認してみると、赤いつながりは多いが、青いつながりはそれほどでもないことに気付くだろう。あるいは、そもそも青いつながりになりそうな人を、人的資本棚卸しシートに書いていないことに気づいたかもしれない。

 典型的な弱いつながりには、例えば数年に一度会う友人たちや親戚などがある。あるいは、過去のビジネス上の取引先。特に先輩から引き継いだ後、その先輩が退職しているような場合だ。それ以外にも、あなただけが窓口となっている他のネットワークとのつながりは数多くあるだろう。5年も10年も連絡をとっていなければ、それらのつながりには消えてしまっているものもあるだろう。

 でも、メールやSNSなどで軽く連絡をとってみることはできる。ご機嫌伺いの電話でもいい。そうして消えてしまっていたつながりを、弱いつながりとして復活させてみよう。今増やした弱いつながりは、これからの10年間に、幸運をもたらす人的資本になるのだから。

 自分自身の弱いつながりを確認するために、次のような関係をあらためて見直してみるとわかりやすいだろう。

 学生時代のつながり:同期だけでなく、先輩、後輩、教官、他校の友人
 社内のつながり:同僚、上司、部下
 職業としてのつながり:取引先、顧客
 専門性としてのつながり:同業の知人、学会
 交友としてのつながり:紹介された友人・知人、SNS、交流会
 親族としてのつながり:家族、親族

◆社外に目を向けることで社内での価値が高まる

 もしあなたが転職経験者であれば、人的資本の棚卸しという作業が、職務経歴書の作成に近いことがわかっただろう。

 職務経歴書を作成するよりも楽しい作業だったとは思うが、人によっては「意外と書けることがない」と思ったかもしれない。しかしそう考えた人ほど、このタイミングで自分の人的資本の棚卸しができたことを喜ぶべきだ。

 人事制度の取り組みの一つに、キャリア研修というものがある。

 45歳、あるいは50歳というタイミングで従業員を集め、自分の過去の経歴を棚卸しさせる研修だ。そうして、今後の会社の中でのキャリアを考えさせようとする取り組みだ。

 会社によってはこのタイミングに合わせて、早期退職の希望を募ることもある。

 50歳の現時点で退職を選ぶのであれば、今から半年間は出社しなくても月給は支払います。さらに、退職金を500万円加算しますよ、だから第二の人生を歩んだらいかがでしょうか、在籍している状態のままで転職活動をしてみてはどうでしょうか、という提案がこっそりと用意される。

 実は「人的資本の棚卸しシート」は、過去に実施したキャリア研修時の記入シートをもとに作成した。

 会社の中の人生は40歳で転機を迎えるが、そのことを説明してくれる人は少ない。

 なぜなら、会社としてはそこから10年間を頑張ってほしいからだ。40歳で課長にまで昇進させているのだから、ぜひ結果を出してほしい。活躍してほしい。しかし、その中の3人に2人は部長にはしない。さらに部長になったうちの3人に2人は執行役員にも取締役にもしない。そんなことを言うわけにはいかないので、人事評価制度を用意して、活躍に対して昇給や賞与で報いる。

 やがて気づけば多くの人が、部長にも、執行役員、取締役にもならないまま、50歳、55歳になってしまう。そしてキャリア研修に呼ばれて愕然とする。あるいは役職定年をほのめかされて、会社の制度を非難するかもしれない。

 50歳や55歳でも、そこから新しいキャリアを考えることはできる。しかし、選択肢が狭まることは事実だ。

 さらに、人事制度を前提とすれば、60歳が次の転機であることがわかる。ごく一部(大企業で10社に1社、中小企業で5社に1社)を除けば、60歳を定年としている会社が大半だからだ。

 とはいえ、無理に転職を選ぶ必要はない。人的資本の棚卸しをして、会社の中での昇進以外の選択肢を視野に入れることは転職ではなく、むしろ社内での働き方を変えるきっかけにもなるからだ。

 さらに、人的資本の棚卸しから始まるここまでの作業を終えると、逆に課長から部長への昇進を目指す道のりが見えることもある。

 例えば、製造部門の品質管理担当課長である人がいた。

 社内で出世するには、本社の品質管理部に戻り部長を目指すか、あるいは製造部門で工場長となり、製造部長を目指す選択肢しかない。でもそのためには現在の部長よりも深い知識と見識が必要で、それはとても難しいと漠然と考えていた。サイドビジネスでもしようか、と考えているころに、私の前著を読み、問い合わせのメールをくれた。私は彼に対して人的資本の棚卸しを指示してみた。

 その結果、彼は本社の品質管理部長に昇進できる可能性があることに気づいた。重要なことは知識や見識ではなく、品質管理部としての職務を果たすための、各部署とのつながりであることに気づいたのだ。

 そして、彼の同期たちが今や各部署で課長級として活躍していることを思い出した。

 今働いている工場の中だけで品質管理を徹底するのでなく、そこで得られた品質管理の標準化プロセスをもとに各部署への情報共有を進めることで、同期達とのつながりを深めることができるだろう。それは自分自身の強いつながりとなり、他の工場の品質管理担当課長よりも抜きんでるための具体的な行動になる。

 今の部長が持っているつながりは、彼自身が部長に選ばれるときには価値を生み出さないものになっているかもしれない、ということにも気づくことができた。

 次の世代の部長候補たちは、ちょうど彼の年代あたりになるからだ。

 今、彼が課長として築く強いつながりは、10年後に会社としての価値を生み出す強いつながりになり、それ自体が彼の人的資本となるのだから。

[日経Bizアカデミー2015年2月10日付]

→平康氏の連載一覧

◇   ◇   ◇

平康 慶浩(ひらやす・よしひろ)
セレクションアンドバリエーション代表取締役、人事コンサルタント
1969年大阪生まれ。早稲田大学大学院ファイナンス研究科MBA取得。アクセンチュア、日本総合研究所をへて、2012年よりセレクションアンドバリエーション代表取締役就任。大企業から中小企業まで130社以上の人事評価制度改革に携わる。大阪市特別参与(人事)。著書に『7日で作る新・人事考課』『うっかり一生年収300万円の会社に入ってしまった君へ』がある。

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