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課長の手前までは「できる人」が出世する(中)

~組織における人事評価と昇進のルール

◆昇進判断基準とは具体的にどのようなものなのか

 昇進判断基準の中身を詳しく説明してみよう。

【人事評価結果】
【滞留年数】
【昇進テスト類】
【小論文】
【昇進面接】

見慣れない用語もあるだろうが、これを機会に覚えてみてほしい。

これらの基準を大きく区分してみると、「過去を確認する基準」と「将来を確認する基準」に分かれる。

例えば「人事評価結果」や「滞留年数」「昇進テスト」「小論文」は過去から現在に至る能力や業績を確認する基準だ。一方、「昇進面接」で確認しようとするのは将来の可能性だ。「小論文」もテーマによっては将来の可能性を確認する材料になる。

【人事評価結果】

おそらく多くの人が最初に思い浮かべる昇進判断基準はこの指標だろう。過去の人事評価結果が良い人物が昇進する、ということは納得性も高く思える。

では、具体的にはどのように基準として活用しているのだろう。

一例を挙げてみる。

 一般社員(ヒラ)から主任への昇進基準
過去3回の評価すべてにおいてB+以上の評価結果を得ていること
 主任から係長への昇進基準
過去2回の評価でA以上の評価結果を得ていること

この例では、人事評価の結果をいくつかのアルファベットで決定している。

典型的には、「S・A・B+・B・B-・C・D」というように。この中で標準的な結果が中間のBであるとすれば、BやAという人事評価結果を得ていることが昇進基準になることが多い。

ただ、このように過去連続して良い評価を得ている場合に昇格候補とする、という基準には問題点もある。例えば、たまたま一度でもミスをして悪い評価をとってしまうと、そこからさらに連続して良い評価をとらなくては、昇進できないことになってしまう。「一度の失敗によって何年も昇進が遅れる」ということが起こることになる。

だから、会社によっては次のような昇進基準にする場合もある。

 一般社員(ヒラ)から主任への昇進基準
過去4回の評価のうちB+以上を3回得ていること
 主任から係長への昇進基準
過去3回の評価でA以上の評価を2回得ていること

それ以外の基準としては、各人事評価結果を点数化して(S=5点、A=3点、B+=2点、B=1点、B-=±ゼロ、C=マイナス1点、D=マイナス3点)、主任への昇進時には3点、係長への昇進時には6点が必要とする場合もある(一度昇進すると点数はクリアされる)。

この例では係長までを挙げたが、課長や部長への昇進であってもとりあえず同じような基準を設定することは多い。

【滞留年数】

人事評価結果よりも優先する昇進基準を持つ企業もある。近年、少なくとも私がかかわった企業では廃止しているが、それでもなおこの基準を用いている企業は多い。それが「滞留年数」だ。滞留年数は、人事評価結果に基づく昇進判断をする前に適用される。

例えば、次のように用いる。

一般社員(ヒラ)から主任への昇進基準
過去2回の評価すべてにおいてB+以上の評価結果を得ていること
ただし、一般社員として2年間の勤続満了後から基準算定を始める
 主任から係長への昇進基準
過去2回の評価でA以上の評価結果を得ていること
ただし、主任として3年間の勤続満了後から基準算定を始める

この例の場合、一般社員から主任へ昇進するには、「滞留年数2年+B+の評価期間3回」が必要なので、実質的に入社5年目から昇進のチャンスが得られることになる。会社によっては、この5年(あるいは一度目のチャンスで昇進しないのであれば6年)という数値をもって「標準滞留年数」という場合もある。

なぜ滞留年数という基準があるのかと言えば、人間は習熟すれば成長する、と考えられてきたからだ。今担当している職務を覚えて、満足のいく仕事ができるようになるには最低○○年が必要だろう、という判断だ。最低必要な修行期間、として理解してもいい。言い換えれば、少なくとも今の仕事がちゃんとできるようになってからはじめて出世の階段に上れますよ、というメッセージでもある。

しかし隠れた目的もある。

滞留年数には、社内の年功序列を維持するための機能もあるのだ。どれだけ優秀な新卒が入社してきても、滞留年数という基準がある会社では、先輩を追い抜くことがとても難しくなる。そうして社内の入社年次による序列を維持することで、組織としての規律を守ろうとするのだ。

まだ年功的な昇給が維持されている会社の場合、いくら優秀でも、あまりに早い出世を許してしまうと給与の逆転も起きてしまう。5年目でヒラのままの先輩よりも、3年目で主任に昇進した後輩の方が給与が多いとなると問題がある、と考える企業では、この滞留年数という昇進基準を維持している。

年功主義を維持するための滞留年数基準だが、年功を守るために、さらにこんな使い方をする企業もある。この場合には「最長」滞留年数というが、例示すると次のようになる。

一般社員(ヒラ)から主任への昇進基準
過去3回の評価すべてにおいてB+以上の評価結果を得ていること
ただし、一般社員として2年間の勤続満了後から基準算定を始める

なお、評価結果にかかわらず、一般社員として8年の勤続を満了した時点でただちに主任に昇進する

つまり、仕事ができようができまいが、長年勤続していれば昇進させてあげますよ、というルールだ。

さすがに最近はほとんど見かけないが、あなたの会社でどう見ても仕事ができない人が課長手前くらいまで出世しているとすれば、それはこの最長滞留年数が設定されていることが理由かもしれない。

【昇進テスト類】

昇進テストを実施する企業もある。公正性を期すために、社外の研修機関が用意しているテストを用いることが多いが、従業員数が多い会社では独自のテストを作っている場合もある。100点満点で80点以上取得して初めて合格、というように用いる。

なお、昇進テストを行う会社ではもちろん試験範囲やテキストも示される。学校の延長のようにも思えるが、最近では外部研修の受講とセットにして、研修受講結果をテストで確認して、昇進判断に用いる場合もある。

昇進テストに近い使われ方をするものに、資格取得やTOEIC/TOEFLなどの英語力基準がある。いずれも点数で判断できるという点で公正性が高い。特に英語力が必須となるビジネスにおいては、直近6カ月以内での公開テスト受験結果しか使えないというようなことも多い。

その他、昇進時の参考情報として、適性検査を実施する会社もある。ただ、適性検査で不適切な結果が出た場合でもその時点でただちにふりおとすのではなく、参考情報として次のステップに進めることが多い。

【小論文】

管理職クラスへの昇進基準としてよく用いられるのが小論文だ。

「弊社の経営課題を踏まえ、今後3年間で取り組むべき改革について論ぜよ」

「現在所属している部署の問題点を明確にし、改善方法を具体的に示せ」

などのテーマが与えられ、それに対しての回答を審査される。

回答する側としては最も頭を悩ますものであるが、昇進判断をする側としては、実際には予備審査的に使うことが多い。

なぜなら、小論文をまともに審査しようとすれば、少なくとも審査する側の目線が同じでなくてはならないからだ。可能であれば、1人の審査官がすべてに目を通すことが望ましい。そうして点数化したり、評価ランク化したりしなければいけないわけだが、実際はそんな手間をかけられる会社はほとんどない。

私自身が昇進面接を外部者として担当する場合にも小論文の結果が添えられていることがあるが、「面接時の参考にする」以外の使い道がない、という場合もある。

また、小論文には代筆が可能だという問題点もある。代筆を避けるためにテスト形式で書かせる会社もあるが、審査がまともに行われなければ、やはり「参考にする」以外の使い道がないのが現実だ。

【昇進面接】

一定役職以上の場合には、昇進面接が行われることが増えている(昇進候補者が多すぎると不可能だが)。特にポストが限られていることもあって、部長への昇進審査で面接を重視する会社が増えている。公正な面接を行うために、外部の有識者に依頼することもあるが、その際には"アセスメント"式をとる。明確な面接基準を設け、面接の結果を点数化し、最終判断に用いるのだ。

面接/アセスメント時には5つ程度の判断指標が用意されており、それらの指標ごとに点数をつけ、その合計点で昇進判断を行う。

例えばとある企業では、課長昇進に際してこんな面接基準を用いている。

リーダーシップ:率先して組織を率いることができているか」
チームワーク:周囲と調和しながら働くことができているか」
責任感:結果の成否を問わず、組織の業績を自己の問題としているか」
自己研鑽:現状に甘んじることなく、さらなる成長を目指しているか」
部下育成:部下の行動特性に合わせた指導を行えているか」

これらは下位の役職に求められる行動や能力の基準ではなく、上位役職に求められる行動や能力の評価基準であることが大半だ。係長として素晴らしい行動をとっている人を昇進させるのではなく、係長の段階から課長にふさわしい行動をとっている人を選抜するためだ。人事評価からは見えない「入学基準」としての判断を面接で行っているのだ。だから、あなたの会社の昇進面接基準を知りたければ、上司の人事評価シート(未記入のものでよい)を見せてもらえればわかる。それがまさに昇進のための入学基準だからだ。

[日経Bizアカデミー2015年1月13日付]

 日経Bizアカデミーのアーカイブ記事のうちの人気連載を再掲載しました。次回は6月18日(土)に公開します。平康氏の書き下ろしの新連載も合わせてご一読ください。

◇   ◇   ◇

平康 慶浩(ひらやす・よしひろ)
セレクションアンドバリエーション代表取締役、人事コンサルタント
1969年大阪生まれ。早稲田大学大学院ファイナンス研究科MBA取得。アクセンチュア、日本総合研究所をへて、2012年よりセレクションアンドバリエーション代表取締役就任。大企業から中小企業まで130社以上の人事評価制度改革に携わる。大阪市特別参与(人事)。著書に『7日で作る新・人事考課』『うっかり一生年収300万円の会社に入ってしまった君へ』がある。

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著者 : 平康 慶浩
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