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「私と180度変えてもいい」TV通販王の引き際 ジャパネットたかた前社長、高田明氏に聞く(下)

2016/6/11

 「過去最高益を超えなければ、社長を辞める」。2013年の年初にジャパネットたかた社長(当時)の高田明氏はこう宣言した。その言葉どおり、同年12月期の経常利益は過去最高の154億円と、目標(136億円超え)をはるかに上回り、さらに14年12月期は同174億円まで伸びた。12年との劇的な違いは、液晶テレビの売り上げが全く回復していないのに、布団専用の小型掃除機「レイコップ」などの売れ筋商品を開拓したり、商品の見直しを図りエアコンや白物家電に注力したりして収益構造をがらりと変えたことだ。

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 私は長男の旭人にもう経営を任せてもいいのかなと思いました。私は最高益更新が確実となった13年の暮れに開く恒例の「望年会」(注:ジャパネットでは忘年会ではなく、新年への気力を養う意味で「望年会」と呼ぶ)で、全国から集まった取引先や社員に向けて「2年以内に社長を退く」と宣言しました。最高益を達成したのだから、辞めなくてもよくなったのだけれども、目標に到達したからこそ身を引いてもいいんじゃないかと思いました。13年の1年間、彼の仕事ぶりを見ていてやれるだろうと確信を抱いたのです。

 前回も言いましたが、創業者はどこかで若い世代に事業を承継して次のイノベーションを託さなければならない。それが今だと直感で思ったわけです。体力的にも自分がどこで倒れるか分からない。リスク管理の意味でも思い切って退任することを決めました。しかし14年の新年度を迎え、2~3カ月たったころです。もう2年待たなくても1年で十分と思い直し、翌15年1月16日にバトンを渡しました。

■長男の「覚悟」が社長交代の決め手に

 社長交代の決め手となったのはなんといっても、旭人が会社を継ぐ「覚悟」を持てたことです。企業は公器、社会貢献のためにあるのだという理念さえぶれなければ、やり方は私と180度変えてもいいと思うのです。次の世代にバトンが引き継がれ、その世代が新しいイノベーションを起こしながら、会社の形を変えていく。そのまた次の世代はその時代の中で状況を判断して新たなイノベーションを起こしていく。そのように経験を積み重ねながら会社は新しい形へ進化していくと思います。会社を託した以上、今後成長するかどうかは新しい社長と社員にかかっているわけです。私は経営には関わらず相談役や顧問にも就かず、全てを託すことにしました。現在、私はテレビ番組の制作にはアドバイス役として少し関わっていますが、それも早く引いた方がいいと思っています。

高田明氏(右)は長男の旭人氏(左)にトップを譲った(2014年夏の記者会見)

 私は世襲ではなく、信頼に値する人物に託したのだと考えています。私はいったん任せると決めたら、とことん任せます。そのため権限委譲にためらいはなかった。会社が成長するに伴い、「資本と経営の分離」が起こる例は多くの老舗企業が経験することです。数年前に幸い、私は株の譲渡も終了していたので、旭人も安定して自由な発想で判断できる状態になっていました。

 ジャパネットは事実上の無借金経営を貫く優良企業だ。非上場だが企業価値は数千億円とも言われる。創業家には相続などで株を手放さざるを得なくなることもあるが、それは次の世代が決めることだと明氏はいう。

 私はジャパネットを上場しなかった。私の頭の中に上場という考えは過去にも一切浮かびませんでした。なぜなら上場すれば右肩上がりの成長を株主から常に求められるからです。株主のために企業が存在するとしたら、売り上げ至上主義や、短期主義になり、自分のやりたい経営ができなくなる恐れがあると思ったからです。例えば、12年の時に売り上げが600億円も減りました。上場していたらそれだけで私は首になっていたかもしれません。上場を否定するわけではありませんが、上場する会社にはそれなりの理由があって、資金面や資本・人材の確保など、上場によって企業価値を高めることもできます。

 幸い、ジャパネットは事実上の無借金経営。今のところ上場する必要はありません。外部の客観的判断がないというのはリスクもありますが、それ以上の利点を非上場会社は持てる場合もあります。ファミリー経営(創業家経営)と公開企業とどっちがいいかとよく言われますが、どちらも一長一短があり比較すること自体がおかしい話です。経営という意味では一緒ですから。相続などの問題は、旭人やその後の世代がその時々の状況の中で考えていくでしょう。

 明氏の話はカリスマ経営者としてならしたセブン&アイ・ホールディングスの前会長の鈴木敏文氏の退任劇にも及んだ。社外取締役の活躍などが話題を呼んだが、明氏はそこにカリスマを乗り超えようとする組織の内発的なダイナミズムを読み取る。

出演最終日に笑顔を見せる高田明氏と若手MCたち

 トップは孤独な存在です。トップに立つというのは常に経営判断が求められるし、その苦しみの中で、旭人には経営の力を付けていってもらいたいですね。私は社長として28年間、それをやり続けてきた。トップ判断を任せていくことによって、本当に経営者の力が付いてくる。退任してから経営には100パーセント、タッチしていません。若い人たちが経営判断を自分でしていくのです。そうして経営者としての経験値を高めていく。それでいいのではないでしょうか。

■セブン&アイ人事、どこの組織も同じ新世代の台頭

 セブン&アイの人事が話題になりました。私は日本にコンビニエンスストアという業態を確立した鈴木敏文氏を経営者として非常に尊敬しています。なぜああいう結果になったのか。セブン&アイといえば、すごく優秀なカリスマ経営者がいて、その下に優秀な人材が集まった組織です。これまでは盤石でしたが、「自分たちでやらなければ」という意識がどこかで働いたのではないのでしょうか。

 これからのセブン&アイを作っていくには、そういうもの(新世代の台頭)が要るのだという意識が社内で高まり、それが結果的に鈴木さんの交代につながったのだと私は思っています。社内の人たちの間でこのままではダメだ、自分たちがやらなければという意識が生じ、鈴木さんもそれを分かって退任をご自身で選ばれたのではないかと。これからはセブン&アイの新しいリーダーになった井阪隆一さんが判断していく。その中からまた強いセブン&アイが出てくるのだと思います。組織というのはそういうものでしょう。

 確かに自分を振り返っても、若い人に任せることには不安もある。不安があるというのはその半面、期待もある。足し算した時に期待が不安を超えている。期待の方に私はかけています。ニューリーダーがどんな手を打つか。わくわくするところもあれば、「ちょっとそれはどうかな?」と思う時もある。先日、ジャパネットが福岡市に初のアンテナ店を設立するというニュースがありました。経営に関与していませんから、発表まで知りませんでした。

 通信販売の会社が実店舗を構えるというのは不思議ですよね。私の社長時代はそんなことを考えたこともありませんでした。「果たしてどうだろうか」との思いもよぎりますが、彼らは自分たちの方向性を持っているのでしょう。そこは信じよう。若いから失敗することがあるかもしれませんが、自分でこけてみないと分からないこともある。失敗しても軌道修正していく力もトップには必要で、落ち込んでいるだけでは務まりません。期待を持って見守ろうと思っています。

■「経営の最大のリスク」を乗り切る

ジャパネットは長崎・佐世保に加え、東京にスタジオを設けて番組を制作している(東京のスタジオ)

 テレビショッピングのMC(司会)を降りることは経営の最大のリスクと言われてきましたが、幸い優秀な若いMCが何人も育ってきている。だから今年の1月15日の深夜24時に公約通り、テレビのMCを降板しました。200~300人の関係者がスタジオで私の最後の出演を見届けてくれました。繰り返しになりますが、100年続く会社にすることが私の悲願であり、私の代で終わってはいけないのです。良い商品の価値を正しく伝える会社、世の中に埋もれた価値あるものを発掘して視聴者に提供する。その活動によって世の中に明るく元気を加え社会貢献する。これがジャパネットの使命です。その理念さえぶれない限り大丈夫です。創業者を乗り越えるのはいつの時代も若い人の力です。

 私が尊敬していた俳優の故高倉健さんの座右の銘に「往く道は精進にして、忍びて終わり悔いなし」があります。引退し、私の心には一点の曇りもない。ジャパネットを離れ、今は「A and Live(エーアンドライブ)」という会社の代表取締役を務めています。英語で読めば「アライブ」。「今を生き生きと生きる世の中にしたい」という思いから付けた社名ですが、私はこうも解釈している「明は今も生きているぞ」と。スタジオからの出演も今年1月で終わりましたが月1回程度、BS番組の「おさんぽジャパネット」に出演したり講演に呼ばれたり忙しい毎日を送っています。ジャパネットでの人生で学んだ「伝えることの大事さ」を広めていければと思っています。

高田明(たかた・あきら)
1971年大阪経済大経卒。機械メーカーを経て、74年実家が経営するカメラ店に入社。86年にジャパネットたかたの前身の「たかた」を設立し社長。99年現社名に変更。長崎県出身。67歳

(シニア・エディター 木ノ内敏久)

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