米大統領選、どちらが勝っても株高期待(藤田勉)シティグループ証券取締役副会長

「米大統領選では、クリントン氏のメール問題、トランプ氏の政治経験のなさや過激な発言を理由に大統領としての資質が疑問視されている。しかし、米国の政策運営は大統領個人の能力に極端に依存しているわけではない。いずれが大統領になろうとも大きな不安はないと思われる」

11月の米国大統領本選挙は民主党のヒラリー・クリントン氏と共和党のドナルド・トランプ氏の激突が確定した。両氏どちらが大統領になっても「女性初」「実業家出身初」という話題がある。ともに抜群の知名度と同時に、強烈な個性を持つ。今回の選挙は歴史的にみて最も注目される対決の一つとなるだろう。

クリントン氏のメール問題、あるいはトランプ氏の政治経験のなさや過激な発言を理由に大統領としての資質に対して疑問を投げかけられることがある。しかし、以下の理由からいずれが大統領になろうとも大きな不安はないと思われる。

第1に大統領の職責が重要であることは事実だが、政策運営は大統領個人の能力に極端に依存しているわけではない。むしろ米国では、議会の権限が大変強い。

意外に大統領の権限は弱いのだ。大統領は議会に法案を提出する権利も予算案を提出する権利もない。拒否権があるのみだ。すべての立法、戦争の宣言、予算編成などは、議会の権限である。

日本では首相が衆議院を解散し、国民に信を問うことができる。2005年に郵政民営化法案が否決され、当時の小泉純一郎首相は衆議院を解散し、その後の選挙で大勝利した。その結果、自分の意思を国会に反映させた。つまり首相は国会議員をクビにできる。

米国では大統領が議会を解散する権限はない。一方で議会は大統領を弾劾する権利を持つ。実際にニクソン大統領はウォーターゲート事件の責任を追及されて弾劾手続き中に辞任に追い込まれた。大統領は議員をクビにできないが、議会は大統領をクビにできるのだ。

第2に米国は州政府の権限が大変大きい。多少の例外はあるものの、民法、刑法など一般的な法律は州が定める。例えば銃の保持や死刑、妊娠中絶の是非などの制度を決める権限は州にあり、連邦議会にはない。このように米国は連邦と州、そして大統領と議会が互いにチェックしながら、全体としてバランスを取っているのだ。

第3に大統領を取り巻く組織が充実している。すべての分野において完全な知識を持つリーダーはいない。そこで大統領を取り巻くチームが政権を担い、多様な問題に対処する。閣僚のみならず、主要政府ポストは政治任用で連邦政府機関は統率される。

例えばトランプ氏が大統領になった際の日本への対応について、懸念する声が多い。過去トランプ氏は日本に対して厳しい発言を繰り返してきた。米国の雇用を奪っているとして「貿易で中国と日本とメキシコを打ちのめす」と発言している。日米安保についても「米国は日本を防衛する義務はなく、駐日米軍の費用を日本が全額負担すべき」と主張している。

だが、トランプ氏が大統領になったら状況は変わるだろう。外交安全保障の専門家チームがつくられることになるからだ。トランプ氏は外交の専門家ではないだけに、著名な実力者が選ばれるのではないか。いずれにせよ米国を国際社会から孤立させるような極端な政策が通るとは考えにくい。

予備選挙でトランプ氏は直前まで戦っていた政敵とがっちり握手して、協力を得るということもあった。マスコミから過去の言動が食い違っていることを指摘されると、「自分はビジネスマンなので、環境が変われば考えが変わるのは当然だ。そうでなければビジネスは成功しない」と反論している。

この変わり身の早さが彼の特徴だ。そうした過程で日本について十分に理解を深めた政策がとられることを期待したい。

過去の例を見ると、経験がなくても外交で成功した大統領は少なくない。大統領就任前に外交経験がなかったレーガン氏はソ連との冷戦を終結させた。同様に、外交経験が乏しかったオバマ大統領は、キューバとの国交回復、イランに対する経済制裁解除という歴史的な偉業をなし遂げた。

過去、レーガン氏、ビル・クリントン氏と就任前に疑問符が付いた大統領が就任後、実績を積んで国民の大きな支持を集めた。その後、経済運営において彼らは強力なリーダーシップを発揮した。そして1980年代、90年代と強力なリーダーの下で、米国の株式相場は大きく上昇した。

同様に今回も経済、産業面でトランプ氏とヒラリー・クリントン氏の政策は大いに期待できる。企業経営についてはトランプ氏はプロ中のプロだ。80年代のレーガン同様、小さな政府を志向し、民間活力を引き出す考えだ。また、金融緩和の長期化も志向している。

クリントン氏も情報スーパーハイウェイ構想を成功させたビル氏が政権の中枢に参加する見込みだ。よって経済分野では、ハイテクを中心とする産業政策を打ち出すことが見込まれる。

ヒラリー氏、トランプ氏ともに実績を挙げるにつれ、国民の支持を得て強力なリーダーに変身することが考えられる。そして強力な経済・産業政策の実現によって世界の株式相場が大きく上昇することを期待したい。

藤田勉(ふじた・つとむ) シティグループ証券取締役副会長。1960年生まれ。山一証券、メリルリンチを経て、2000年シティグループ証券入社。慶応義塾大学「グローバル金融制度論」講師。慶応義塾大学グローバルセキュリティ研究所客員研究員。内閣官房経済部市場動向研究会委員、経済産業省企業価値研究会委員、早稲田大学商学部講師、北京大学日本研究センター特約研究員などを歴任。一橋大学大学院博士課程修了、経営法博士。10年まで日経ヴェリタス人気アナリストランキング日本株ストラテジスト部門5年連続1位。10年から現職。近著に「コーポレートガバナンス改革時代のROE戦略」(中央経済社)など。
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