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2020年の東京五輪・パラリンピック後の時代「post 2020」。人工知能(AI)など科学技術が加速度的に発達する時代に備え、イノベーション(技術革新)を駆使し、会社の収益を前年比10倍にするような思考を学ぶ米国シンギュラリティ大学(SU)には、世界中の起業家たちが集まってくる。実は彼らは日本を、「有望な技術」や「未来を描く力」に恵まれた場所と考えているのだという。日本でまだ数名しかいないSUの教育プログラム修了者である斎藤和紀氏に、これからの時代を生きる上で我々働き手にとって、何が大切になるかを聞いた。

藤田耕司氏(左)と斎藤和紀氏

藤田耕司氏(左)と斎藤和紀氏

藤田3回にわたりお話をうかがってきて特に印象に残ったのが、「シンギュラリティ(技術的特異点)」と「エクスポネンシャル(加速度的な変化)」という言葉ですね。シンギュラリティとは、機械が自らより優れた機械をつくる、その機械がさらに自らより優れた機械をつくるというように機械が自動で進化するようになる瞬間を表す言葉です。その瞬間から機械の進化が自動的に無限に展開される。そうなるとその先の未来は人類には読めなくなる。そのシンギュラリティは2045年に到来すると見込まれているわけですね。

斎藤 はい。シンギュラリティという言葉は、2005年に著名な脳科学者であるレイ・カーツワイル氏が著書『the Singularity is near』で紹介して一気に広まりました。

藤田 そして、エクスポネンシャルという言葉です。これは例えば、3の2乗は9、3乗は27、4乗は81というような乗数の値のように、加速度的な変化を表す言葉でしたね。人工知能やロボットの進化のスピードは直線的ではなく、加速度的な進化を遂げていく。つまり今後の時代は、これまでの比にならないほどの速さでAIやロボットが進化していくということですね。

流れを追いかけるな、流れを読んで先回りしろ

斎藤 そうです。この流れに乗れる人と乗れない人とでは大きな差が生じると思います。その流れに乗れるか乗れないかに関して大切なのが、流れを追いかけるのではなく、流れを読んで先回りするということです。流れが早過ぎると追いかけても追い付けないため、流れを読んで先回りするしかない。そのため、エクスポネンシャルな変化が起きるこれからの時代においては、流れを読んで先回りすることの重要性が高くなります。

藤田 流れを読んで先回りするというのは、例えばどんなことでしょうか。

シンギュラリティ大のキャンパス

シンギュラリティ大のキャンパス

斎藤例えば、日本もグローバル化が加速するため、今から英語を勉強しようと考えることは流れを追いかける考え方です。一方、間もなく英語は人間と区別がつかないほどの品質で翻訳できる機器ができるようになるため、その機器を活用したサービスの基盤を先に創ってしまおうと考えることは、流れを先回りする考え方だと言えるでしょう。

藤田 流れを追いかけるか、流れの先回りをするか。全く異なる動き方になりますね。そのためには、流れを読むための最先端の情報を取りにいく必要がある。だから、SUでは各分野の世界最先端の講義をするわけですね。

斎藤 そうですね。時代の先を読み、イノベーションを起こすためには、国内のみならず国境を越えて最先端の情報を取りに行くことが重要ですね。

藤田 いろいろな経営者と話していても、「最近の技術革新の速さを考えると、5年先、もっと言えば3年先、今の事業で食べていけるかどうか分からない」といった声をよく聞きます。新たな技術を活用した事業を素早く展開できる企業は今後の成長が期待できる一方で、そのような素早い事業展開が行えない企業はこれから苦しくなるかもしれない。

斎藤 それはそうかもしれません。技術革新が進むといろいろな物やサービスが無料になるでしょう。例えば、百科事典や辞書、地図、専門家の知識などもインターネットによって無料で手に入るようになりましたし、カメラや音楽プレイヤー、ゲーム機などもスマートフォン(スマホ)に搭載されて別途買う必要がなくなりました。通話も無料対話アプリの「LINE」や無料インターネット電話「スカイプ」によって無料になっています。3D(3次元)プリンターがもっと普及すると多くの物が無料で手に入るようになるでしょう。こういった無料のサービスや物は今後も増えていくと思います。

イノベーションで仕事がなくなったら、新たに生まれる仕事に就けばいい

斎藤氏は米シンギュラリティ大学のエグゼクティブプログラムを修了した

斎藤氏は米シンギュラリティ大学のエグゼクティブプログラムを修了した 

藤田 そうなると成り立たなくなる事業も増えますね。

斎藤 はい。一方で、新たな事業もたくさん生まれると思います。シリコンバレーにいる人たちはイノベーションによって既存の仕事がなくなるということに関して、どちらかと言えば楽観的に見ています。既存の仕事がなくなっても、新たな仕事が生まれる。だから、その仕事をやればいいと。

藤田 なるほど。仕事はどんどん流動的になるということですね。そうなると、時代を先読みして素早い位置取りができるかどうかが問われますが、そのためにはどういった能力が必要になると思いますか。

斎藤 やはり分野も国境も超えて様々な人たちと人脈を築いていく力、そしてそういったつながりから最新の情報を手に入れる力は必要だと思います。私はSUの卒業生を中心とするコミュニティーを作っていて、様々な情報交換をしたり、技術革新のタネを探したりしています。そして、SUの考え方と教育システムを、日本にも根付かせていきたいと考えています。

藤田 斎藤さんの活動の重要性は益々高まりそうですね。これからの時代を考える上で大変貴重なお話をありがとうございました。

斎藤 こちらこそありがとうございました。

◇   ◇   ◇

▼シンギュラリティ大学 著名な脳科学者で発明家のレイ・カーツワイル氏(マサチューセッツ工科大学出身)と、宇宙開発事業に多額の懸賞金をかけることで有名な米国Xプライズ財団のピーター・ディアマンティス氏(同)が発起人となり、設立された公益企業。教育や研究を中心に、ベンチャー企業育成なども手掛ける。夏季に実施する若者向けプログラムには80人の枠に対し世界中から数千人の応募があるという。キャンパスはシリコンバレーの中心都市、マウンテンビューの米航空宇宙局(NASA)の研究所内にある。

藤田耕司氏(ふじた・こうじ)
公認会計士、税理士、心理カウンセラー。1978年徳島県生まれ。2002年早大商卒。監査法人トーマツを経て、FSG税理士事務所、FSGマネジメント、日本経営心理士協会を設立。主な著書に「リーダーのための経営心理学」(日本経済新聞出版社)
斎藤和紀氏(さいとう・かずのり)
Kiiファイナンスディレクター。1974年北海道生まれ。98年早稲田大学人間科学部卒。2009年早大大学院ファイナンス研究科修了。製造業、金融庁、外資系企業などを経てKiiに参画。15年に米シンギュラリティ大学のエグゼクティブプログラム修了
=この項おわり
この連載は次回からは NIKKEI STYLE「オリバラ」チャンネルで公開します

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