時代の先を読む「未来大学」で何が行われているのか
米シンギュラリティ大からの報告(2)
藤田 シリコンバレーの最先端といわれ、世界中の起業家、ビジネスパーソンが集まるSUですが、実際に行かれてどうでしたか。
斎藤 行ってすぐ日本人がいないことに気付きました。というか、アジア人がほとんどいない。私が行った時は約60人の参加者がいましたが、アジアからは私含めて3人だけ。これまでSUに日本から参加したのは10人ほどです。台湾やインド、中国からの参加者は最近増えているそうですから、日本人としては寂しいですね。
藤田 なるほど。こういった情報に関して日本はまだまだ疎いところはありますね。その後、どういう教育プログラムを受講されたのですか。
斎藤 私が参加したのは経営者向けの「エグゼクティブプログラム」です。非常に凝縮された泊まり込みのプログラムで、1時間から2時間単位の講義が朝から夕方まで昼食を挟んでみっちり入っています。講義は3つに大別できます。1つ目は「エクスポネンシャル(加速度的な変化)思考」、ブレークスルー思考に関するもの。2つ目は「様々な技術分野の世界最先端の動向」、3つ目は「未来予測・地球規模の課題解決の議論」です。
藤田耕司氏(ふじた・こうじ)=左 公認会計士、税理士、心理カウンセラー。1978年徳島県生まれ。2002年早大商卒。監査法人トーマツを経て、FSG税理士事務所、FSGマネジメント、日本経営心理士協会を設立 斎藤和紀氏(さいとう・かずのり)=右 Kiiファイナンスディレクター。1974年北海道生まれ。98年早稲田大学人間科学部卒。2009年早大大学院ファイナンス研究科修了。製造業、金融庁、外資系企業などを経てKiiに参画。15年に米シンギュラリティ大学のエグゼクティブプログラム修了
藤田 それぞれの具体的な内容を教えていただけますか。
前年比10%増ではなく、10倍を目指す「シリコンバレーマインド」
斎藤 はい。第1の「エクスポネンシャル思考」では、いわゆる「シリコンバレーマインド」を学びます。シリコンバレーマインドとは、例えば企業の収益の増加を考える場合、前年比10%増を目指すのではなく、前年の10倍を目指すという考え方です。収益10倍を達成するためには技術革新が必要です。もちろん技術革新には労力や資金がかかりますが、それを達成することによって得られる利益は、要した労力や資金の比較にならないほど大きなものになるのです。
シンギュラリティ大ではプログラム参加者の懇親会も催される
藤田一獲千金、まさにアメリカンドリームですね。ただ日本では、コツコツとした堅実な働き方が美徳とされるところがありますし、銀行や投資家もそういった企業を好む傾向があります。
斎藤 そうですね。日本人は環境によって変化する市場の需要を追いかけ、そこでコツコツと収益を積み上げるような商売のやり方が多いですが、シリコンバレーマインドは環境の変化を先読みし、環境が追い付いてきた頃には需要に応えるようなビジネスの基盤やインフラをあらかじめ用意して、莫大な収益を獲得する状況を目指します。
藤田 なるほど。シリコンバレーマインドはボールが出る前に空いたスペースに先に走り込むサッカーの動きのような考え方ですね。
斎藤 そうですね。サッカーよりもアイスホッケーに例えられることが多いです。アイスホッケーは球となるパックのスピードが速すぎるため、打ってから走ったのでは遅く、選手は先にどこにパックが出るかを予測する訓練をやるようです。今後の技術の進化もそれと同じで、進化のスピードは加速度的に上がっていくため、先に予測しないと到底追い付けるものではない。そのため、徹底的に先の未来を読むトレーニングをします。
藤田 それはトレーニングによって鍛えられるものなのでしょうか。
斎藤 はい、鍛えられます。具体的なトレーニングとしては、過去の技術革新に成功した複数の事例を分析し、その分析をもとに未来を想定する議論、技術革新を起こすための議論を徹底的に行います。
藤田 なるほど。そういった議論を行う上では、SUの2番目の講義で学ぶ、「各技術分野の最先端の動向」を知る必要がありますね。
時代の先を読み、地球規模の技術革新を起こすために
斎藤 そうです。未来を予測し、技術革新を起こすためには様々な技術分野を理解、融合、収斂(しゅうれん)させていく必要があるため、各分野の最先端の人に講演してもらいます。その分野は航空宇宙、ナノテクノロジー、遺伝子工学、教育、仮想通貨のビットコイン、AI、IoT、神経科学など多岐にわたります。
Kiiの斎藤和紀ファイナンスディレクター
そして「エクスポネンシャル思考」と「各技術分野の最先端動向」の知識を基に、第3の「未来予測・地球規模の課題解決の議論」をします。凝縮された環境でそれらを学ぶことは強い意識付けになりますし、そこに集まった人たちで地球規模の技術革新を起こすための、コミュニティーを形成していく過程がすごく貴重でした。
藤田 刺激的な経験ですね。時代の先を読んで地球規模の技術革新を起こすべく、国境を越えて世界最先端の技術を学び、世界の起業家たちと未来予測のための議論を重ねる。これからの時代、日本もこういった行動ができる人材を輩出することが求められますね。
斎藤 まさにそうです。私は今の日本はそのための土壌が十分にあると感じています。今後、こういった気概を持った人たちを育て、コミュニティーをつくっていきたいと思っています。
藤田 それは興味深い。今後が楽しみです。逆にSUに集まるビジネスパーソンたちは、いったい日本をどのように見ているのかが、とても気になります。その点については次回、うかがいます。