人工知能が無限増殖を始めるシンギュラリティとは?
米シンギュラリティ大からの報告(1)
藤田耕司氏(ふじた・こうじ)=左 公認会計士、税理士、心理カウンセラー。1978年徳島県生まれ。2002年早大商卒。監査法人トーマツを経て、FSG税理士事務所、FSGマネジメント、日本経営心理士協会を設立 斎藤和紀氏(さいとう・かずのり)=右 Kiiファイナンスディレクター。1974年北海道生まれ。98年早稲田大学人間科学部卒。2009年早大大学院ファイナンス研究科修了。製造業、金融庁、外資系企業などを経てKiiに参画。15年に米シンギュラリティ大学のエグゼクティブプログラム修了
藤田 まず、斎藤さんの現在のお仕事についてお話しいただけますか。
斎藤 はい。私は2013年9月から、日本発のIoTのプラットフォームをグローバル展開するベンチャー企業、Kii(東京・港)にファイナンスディレクター(財務担当部長)として参加しています。Kiiは2007年創業で本社は東京ですが、社内公用語は英語で、米国や中国にも拠点があります。私は海外事業の管理について全責任を負い、国内外の投資家からの資金調達などを担当しています。
藤田 あらゆるモノがインターネットにつながるIoT化は今後一気に進みますから、御社の今後が興味深いですね。ところで斎藤さんは日本には数人しかいないSUのプログラム修了者です。SUには科学技術の進化に強い関心を持った起業家らが世界中から集まっていますね。定員数十人のところ数千人の応募があるとか。しかし、日本ではほとんど知られていません。SUについて教えていただけますか。
「シンギュラリティ」=機械の進化が止まらなくなる日
斎藤 はい。まずシンギュラリティ(技術的特異点)という言葉からご説明します。簡単にいうと、機械が自らより優れた機械をつくる、その機械がさらに自らより優れた機械をつくるというように「機械が自動で進化するようになる瞬間」のことをいいます。その瞬間から、機械の進化が止まらなくなり、進化が無限に続きます。このシンギュラリティという言葉は、2005年に著名な脳科学者であるレイ・カーツワイル氏が『the Singularity is near』という本で紹介して一気に広まりました。『シンギュラリティは近い』(NHK出版)という日本語版も出ています。
シンギュラリティ大のキャンパス
カーツワイル氏は2045年にシンギュラリティが起きると予測しています。「本当に?」と思うかもしれませんが、彼はヒトの遺伝子の解読が終了する時期や、チェスでコンピューターに人間が負かされる時期を正確に予測した実績があります。そして2045年の人工知能のIQ(知能指数)は1万になると言っています
藤田 IQが1万? 想像を超えた世界ですね。シンギュラリティを迎えた後の世界は、人類には制御不能の世界となるのではないですか。制御不能となったAIは人類にどんな影響をもたらすかも分からない。そんな状況を目指して開発を進め、シンギュラリティを迎えた瞬間、科学者は祝杯をあげるのでしょうか。まさにSFの世界ですね。
究極の未来志向で現状打破をめざす
斎藤 そうですね。次にSUについてですが、ここは先のカーツワイル氏と、『Abundance(楽観主義者の未来予測)』の著者であるピーター・ディアマンティス氏が発起人となってシリコンバレーに設立した社会貢献型の営利機関です。ユニバーシティの名前を冠していますが、独自の校舎や学位の授与はありません。革新的技術の開発や、その技術を使った地球的諸問題の解決などについて研究や議論を行います。夏季に行われる若者向けプログラムには80人の枠に対し数千人の応募が世界中から殺到します。経営者向けプラグラムは超高額にもかかわらず、世界中の起業家やビジネスマンがこぞって参加します。公開されている1年先のプログラムまでいっぱいで、なかなか枠がありません。私は昨年の5月に運よくこのプログラムに参加することができました。
藤田 斎藤さんはなぜSUのプログラムに応募しようと思われたのですか。
斎藤氏は2015年に米シンギュラリティ大学のエグゼクティブプログラムを修了した
斎藤直接的なきっかけは、米投資育成ファンドWiLの最高経営責任者(CEO)、伊佐山元氏の著書『シリコンバレー式世界最先端の働き方』を読み、シリコンバレーの最先端の場所としてSUが紹介されていたことです。読んだその場でパソコンを開いて8か月先のプログラムの申込ボタンをクリックしていました。
藤田 すごい決断の速さですね。シリコンバレーの最先端の場所に飛び込むという行動はなかなかとれるものではないと思いますが、すぐに行動を起こした背景には、どのようなお考えがありましたか。
斎藤 先にもお話しした通り、シンギュラリティは2045年に起こるとされています。これは恐らく私がまだ生きている時代です。そこに至るまでに幾つかの節目があります。例えば2020年の東京五輪があり、日本は大きく変わり始めている。2029年頃にはコンピューターの集積度が人間の脳を超えるとされています。今、人類は急激な変化の時期にあると言えます。そういった時代に生きている意味を考えた時、このプログラムに参加する必要を感じました。あと、SUは究極の未来志向で現状を打破し、10億人に影響を与えることを目指すことを目標に掲げています。そういったところにも惹かれました。
藤田 確かに今後の時代を考えると、科学技術の進化について最先端の動向を知り、共通の関心を持つ人たちとの人脈を作ることには大きな意義があると思います。次回は斎藤さんがSUで何を経験したのかをうかがいます。