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任天堂「Miitomo」 SNSとは似て非なる世界 富永朋信の「売れる理由は必ずある」

日経トレンディネット

2016/6/8

任天堂のスマートデバイス(iOS/Android)向けアプリ「Miitomo」(無料、App内課金あり)。対象年齢は13歳以上
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 こんにちは、富永です。

 2016年3月17日、任天堂からスマホアプリ「Miitomo」がリリースされました。公式サイトには「トモダチのこと、ちゃんと知っていますか?」「『Miitomo』から生まれる新しい関係、はじめてみませんか?」などの記述があり、このMiitomoがソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)的なアプリであることを示唆しているようです。

 そこで、このMiitomoがどのようなアプリなのか知るべく、実際にダウンロードして使用してみました。

 Miitomoをダウンロードしたあとにまず行うことは、Miitomoの世界の中でユーザーの代わりとなるアバター「Mii」の設定です。顔のパーツや体型などを組み合わせ、福笑い的に自分のアバターを作り上げていきます。

 Miitomoではスマホのカメラで自撮りすれば、その写真をベースにアプリが似たパーツの組み合わせを提案してくれます。それを出発点に自分で納得いくまで修正を重ねていく次第。

 MiiはMiitomoの世界の中で自分の部屋を持ち、いろいろなことを聞いてきます。その内容は、例えば「今週末は何をするのか」「初めて買った音楽は何か」といったパーソナルなことから、「目の前にお花が何本あるか想像してください」という心理テストまで、結構多岐にわたっています。


 アプリの中にショップやミニゲームを行う場所があり、それらを通じて服を調達したり着替えたりして、Miiのイメージを撮影することも可能です。そうして撮ったイメージはアプリの中に蓄積されていきます。


 友だちを増やすにはユーザー同士が端末を近づけて友だちになる「対面認証」のほか、ツイッター、FacebookなどのSNSと連携し、その友だちリストからMiitomoのユーザーを探し、友だち申請をすることもできます。この申請が承認されると、アプリの中の友だちとしてコミュニケーションが可能になります。


 そして、これも非常に大事なところなのですが、このコミュニケーションは基本的に「回答(アンサー)」を中心に進んでいく形を取っています。Miiが自分の回答を友だちに教えたり、友だちの回答を自分に教えてくれたりして、コミュニケーションが活発になっていくのです。

 自分のMiiの部屋に友だちのMiiが遊びに来ることもあります。その場合のコミュニケーション手段も「Miiからの質問とそれに対するユーザーの回答」であり、語り手によって(自分のMiiが語るか、友だちのMiiが語るかによって)その内容が変わることはありません。逆に、自分のMiiが友だちのMiiの部屋に遊びに行くこともできます。

 また1日に数回、友だちのMiiの「写真」が送られてきました。友だちのMiiがおしゃれな格好をしていると、自分も負けじとコーディネートを変えたくなるわけです。

 そしてほかのSNSの投稿に対してするのと同様に、友だちの回答にハートやコメントも付けられます。そういう意味で、ちょっと使ってみた感覚は従来のSNSに近いところがあります。

■「Miitomo」がソーシャルメディアじゃない理由

 しかしこのアプリをソーシャルメディアというカテゴリに入れるのには、かなりの抵抗を感じます。なぜそう思うのかというと、大きく2つの理由があります。

(1)自由につぶやけない(その代わりコンテンツとして面白い)

 まず大きいのは、このアプリの中ではあらかじめ設定された質問に答える形でしか発信できないということです。Miitomoではユーザーの発言は質問への回答とその回答に対するコメントなどに限られています。

 これは、不自由に感じられるかもしれません。ただ、メリットもあるように思われます。

 それは、質問に答えさえすれば誰でも気軽に参加・発信できるということ。このハードルの低さにより、SNSの世界では多数見られる「ROM」、すなわち他人の投稿を見るだけの参加者はいなくなり、アプリの世界全体がアクティブになることが期待できます。

 質問の内容は任天堂側で決定できるので、これを一定の面白さで維持することができれば、誰が回答してもコミュニケーションの内容はあまり陳腐にならず、それにより「気軽な参加」のサイクル加速が期待できるでしょう。


(2)友だちとのコミュニケーションは必ずMiiを媒介される

 MiitomoとSNSの2つめの大きな違いはこれです。SNSやそのほかのウェブの世界におけるアイデンティティは、その匿名性の多寡により性質が変動します。匿名性が高い世界ではよりカジュアルな方向に、場合によっては扇情的な方向に行くこともままあります。

 もともと人には職業人・個人・家庭人など複数のアイデンティティがありますので、SNS上では自分のネットワーク成員(つながっている人々)の性質やシェアにより、それを微妙に使い分けることもよくあることです。

 ところがMiitomoの世界では、ユーザーは自分に似たアバターを通してだけ発話できます。これにより、“匿名でありながら自分とよく似た存在を通じて発信する”という、ほかにあまり例がない設定が実現し、ユーザーの語り手としての性質は“硬すぎず、砕け過ぎない”というところにかなりピンポイントに固定できるのではないか、と思われます。

 発話は質問に対する回答という形で行われるので、ほかのSNSに比べれば自分のネットワーク成員にあまり顧慮することなく、気軽に発言できます。

 まとめると、Miitomoは既存のSNSから面倒な要素を取り去り、かつ一定のトーンアンドマナーを持った世界観を維持するための強力な装置を備えた新しいコミュニケーションツールといえるのではないでしょうか。

■相当数のユーザーを集められるかどうかがカギ

 最後に、そんなMiitomoが今後どうなっていくのかを考えてみたいと思います。

 このアプリは友だち数人でやっているうちは似たような顔ぶれの似たようなつぶやきばかりになり、面白みは正直感じられません。しかし、友だちが相当数増え、顔ぶれや回答内容にバリエーションが出てくるとがぜん楽しくなり、常時立ち上げておきたくなるような気がします。

 そのためには、アプリ全体として相当数のユーザーが必要になります。つまり、ほかのネットワークサービスの例と同様に、Miitomoもいかにユーザー数を早くブレイクポイントまで持っていくかが成否を分けるカギになるわけです。

 また、SNSにおけるタイムラインのような、ネットワーク内の人々の言動が流れる仮想空間がアプリの中に出てきたら、とても面白いものになるのではないかと思います。箱庭的な世界観の中で自分を含む多くのアバターが動いており、友だちのアバターと出会っては会話したり、場合によっては複数で同じ質問に対する回答を比較し合ったりというイメージでしょうか。そこに例えば雨が降ってくるなど、仮想世界内でのアクシデントによりアバターたちの行動に予測不能な要素が出てきたりしたら、見ているだけで面白いものになりそうです。

 質問に対する回答が蓄積されてくれば、各人の回答傾向をもとに、ユーザーを分類できるようになるでしょう。そして、回答データをもとにターゲティング広告を展開するモデルが考えられるかもしれません。例えば、「今晩のごはん、何が食べたい?」という質問に「ハンバーグ」と答えたユーザーに冷凍食品のハンバーグの広告を見せる、という感じ。

 広告を発信するときも何かの形で広告主やブランドのアバターを設定し、それに語らせる形をとれば、タイムライン上のノイズにもならずに違和感や抵抗感の少ないネイティブアドの新しい形として成立するかもしれません。そしてこうした可能性も、任天堂が面白い質問を投げかけ続けられるかどうかにかかっています。

 そういう意味で、Miitomoはソーシャルメディアというよりは“ソーシャルコンテンツメディア”とでもいう枠組みで捉えるべきものなのかもしれません。

富永朋信(とみなが・とものぶ)
 プロフェッショナルマーケター。日本コダック(現コダック)、日本コカ・コーラ、ソラーレホテルズアンドリゾーツ、西友などでマーケティング関連の職務を歴任。日本コカ・コーラではiModeでコカ・コーラが買える自販機システム「Cmode」の立ち上げを担当。それ以来、「購買=ブランド選択+チャネル選択」という式の解を模索し続けている。西友では同社のイメージを一変させるキャンペーンを連発した。ブランドの構造はカテゴリによって違うことに気付き、全てのカテゴリのブランド構築に対応できる方法の開拓に頭を悩ませている。座右の銘はたくさんあるが、今のお気に入りは「過ぎたハンサム休むに似たり」「渾身のアイデアは全てを解決する」。

[日経トレンディネット 2016年5月11日付の記事を再構成]

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