いいタイミングで株を売るには(窪田真之)楽天証券経済研究所所長兼チーフ・ストラテジスト

「株をいいタイミングで売るのはとても難しい。しかし、年金などプロの投資家が実践している資産配分の変更のルールは参考になる」

株をいいタイミングで売るのは、とても難しいことです。今回は、私がファンドマネジャー時代にやってきた売りの判断方法で、とてもうまくいった方法をご紹介したいと思います。

それは私が運用を担当していたある年金ファンドで実際にやっていたアセットアロケーション(資産配分)のリバランス(変更)ルールです。とても簡単です。まねしようと思えば、誰でもできることです。

では日経平均株価のチャートを参考にそのファンドがどこで日本株を売り、どこで日本株を買ったか見てください。

このファンドは青矢印をつけた2007年4~6月、日経平均が1万8000円をつけたとき日本株を売り、国債を買いました。当時は世界的に景気が良く、私は「日経平均はまだまだ上がりそうなのに、ルールだから仕方ない」と渋々、株を売ったのを覚えています。

赤矢印をつけた08年10月、日経平均が8000円割れまで下がったとき2~3回にわたり国債を売却し、日本株を買いました。このとき私は、「日本株は下がり過ぎ」と考えていましたので、株を買うことに違和感はありませんでした。ただし、ルールがなければ、あそこまで大胆に買うことはできなかったと思います。

それではファンドに定められていたリバランスのルールを説明します。そのファンドは国内株と国内債券に投資するファンドでした。投資比率は時価ベースで国内株40%・国内債券60%と決められており、以下のようなリバランスのルールが定められていました。「時価ベースで組み入れ比率が5%以上基準から離れたとき、2%分基準に近づける」というものです。それだけです。

具体的には100億円のファンドの運用を国内株式40億円・国内債券60億円でスタートしたとします。その後、国内株式でプラス25%、国内債券でプラス2%のリターンが得られたとします。すると、国内株式は50億円、国内債券は61億円に時価が増えています。

時価はともに増加しましたが、組み入れ比率を見ると、国内株式が45%に上昇し、国内債券は55%に下がります。つまりどちらも基準となる組み入れ比率(株40%・債券60%)より5%乖離(かいり)したことになります。ここで、リバランスのルールが発動されます。株を2%売り、債券を2%買わなければなりません。リバランス後の組み入れ比率は株43%・債券57%になります。

前述のように07年4~6月にこのルールが発動され、私は日本株を売りました。逆に08年10月、リーマン・ショックを受けて日経平均が急落する局面ではこのルールに従って日本株を買い増しました。

私がそのファンドを運用していたのは03年から13年までですが、日本株組み入れ比率の引き下げ・引き上げについて、大きな間違いをしないで済んだのは、リスクをコントロールするための適切なリバランスルールがあったからです。私が日経平均の先行きを予見する能力があったからでは決してありません。

この簡単なリバランスルールは個人投資家でもまねしようと思えばできます。まず運用資産の総額を決め、安全資産とリスク資産への配分比率を決めます。リスク資産には日本株・外国株・外国債券などが含まれます。安全資産は今ならば個人向け国債(10年変動利付債)がいいと思います。具体的な組み入れ比率は個人のリスクの許容度によって違ってくるので、いろいろ勉強してみてください。そして時価ベースで一定割合以上、基準となる組み入れ比率から乖離が生じたら、リバランスします。それを淡々と、何十年かにわたって続ければいいことです。

これは、言うのは簡単で、実際にやるのは難しいことです。ルールに従うと、世の中みな楽観を言っているときに株を売り、みな悲観的になっているときに株を買わなければならないからです。私は年金運用のリバランスルールを厳守していたから、それができました。

しかしながら個人投資家はそんな難しいことをしなくても実践できているようです。雑誌などで日経平均の高値で株を売り、リーマン・ショック後の大底で日本株を大量に買った個人投資家の話を目にしたことがないでしょうか。実際、東京証券取引所が発表している投資主体別売買動向では、個人投資家はこうした動きをしています。

つまりこれは個人投資家の最大の特徴である「逆張り投資」です。期せずして年金の投資行動と同じことをしているわけで、理にかなっているといえるのではないでしょうか。

あるラジオ番組で私はそのことを話したことがあります。「リーマン・ショック後の安値で私はリバランスルールに従って日本株を買ったけれど、個人投資家はそんなルールがなくても、株が下がったときに買っているんですね」と話すと、番組司会者が「個人投資家は何を基準に買い増しを判断しているのでしょうか」と聞いてきました。

私は、一瞬返事につまりましたが、以下のように答えました。「野生の勘でしょうか」。スタジオ内は大きな笑いに包まれましたが、個人投資家の能力はもっと評価されていいでしょう。

プロのポートフォリオは運用に精通したプロが独自の視点で個人投資家に語りかけるコラムです。原則火曜日掲載で、楽天証券経済研究所所長兼チーフ・ストラテジストの窪田真之氏とレオス・キャピタルワークス社長兼最高投資責任者(CIO)の藤野英人氏が交代で執筆します。
窪田 真之(くぼた・まさゆき) 楽天証券経済研究所所長兼チーフ・ストラテジスト。1961年生まれ。84年慶応義塾大学経済学部卒業後、住友銀行(現三井住友銀行)入行。87年住銀バンカース投資顧問(当時)に出向、日本株ファンドマネジャー兼アナリスト。90年住友銀行証券部海外業務開発プロジェクトチームに異動、91年ニューヨーク駐在。92年住銀投資顧問(当時)日本株ファンドマネジャー、99年大和住銀投信投資顧問日本株シニア・ファンドマネジャー、2014年2月楽天証券経済研究所チーフ・ストラテジスト。15年7月から所長兼務。大和住銀投信投資顧問では日本株の運用歴25年のファンドマネジャーとして活躍した。99年の運用開始から13年まで担当した「大和住銀日本バリュー株ファンド」(愛称「黒潮」)は長期に安定した成績で知られる。金融庁企業会計審議会の会計部会臨時委員も務める。著書に「投資脳を鍛える!株の実戦トレーニング」(日本経済新聞出版社)、「クイズ 会計がわかる70題」(中央経済社)など多数。
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