「睡眠負債」をためない術 6時間では徹夜と同じ?早稲田大学研究戦略センター教授 枝川義邦氏

また、パソコンやスマホの画面から発せられるブルーライトは、眠りにつくための準備を進める脳内ホルモンのメラトニンの分泌を抑制してしまいます。その結果、目が冴えて眠れないことや眠りの質が悪くなることにつながってしまいます。少し余裕をもってパソコンやスマホを切るのがよいでしょう。

寝酒のアルコールは睡眠の質を低める恐れ

いちど寝入っても、少しすると目が覚めてしまうタイプでは、眠り続ける環境づくりも大切です。部屋の温度や湿度が整っていないと、眠っているはずが、夜中に目が覚めたなんてことになりかねません。

ひとによっては、就寝中にトイレに起きてしまうこともあるかと思います。寝る前にちゃんとトイレを済ませておく、というのも、子供じみているようですが、眠りには大切な習慣です。それだけではなく、カフェインやアルコールも控えたいところです。

カフェインは目が冴えるだけでなく、利尿作用もあるのでトイレにいきたくなる効果もあります。眠りに不安を感じている場合は、夜間の珈琲などは避けるとよいでしょう。また、深酒をしてアルコールを多く摂った場合も睡眠の質を低下させますので、意識的に飲酒量をコントロールすることも必要です。

いくつかでも心当たりのあるものを整えていくだけでも、眠りにつきやすく、眠り続けやすい環境になっていくものです。

最後にひとつ。高齢になると眠りの質が変わってきます。健康な方でも睡眠が浅くなるので、夜中に目が覚めたり、早朝に起きるようになるものです。環境や状況を意識的に整えていきながら、脳や身体の変化を受け入れるくらいの心の余裕もあるとよいでしょう。

「睡眠負債」が膨らむと、肥満や糖尿病、うつにも

――「睡眠負債」を減らすにはどうしたらいいのですか。職場環境とか、会社としてサポートできることはありますか。

「睡眠負債」が膨らむと、肥満や糖尿病のような生活習慣病だけでなく、ストレスが溜まりうつ症状につながることもあり得ます。最近は、うつ症状のような精神系の訴えで産業医にかかるケースも多いと聞きます。

健康経営は最近では企業の持続可能性や成績向上には必須のキーワードになってきています。従業員が健康でいることは、人材マネジメントの面だけでなく、実際にコストがかかったり収益にも影響しています。

「負債」は定期的に返していかないと、膨らみすぎて手が付けられなくなってしまいます。平日に睡眠負債を増やしがちな方は、たとえば週末毎に「負債分」を取り戻すのがよいでしょう。

毎日の昼寝でこまめに「借金返済」、脳の機能回復を

あるいは、もっとこまめに負債を返していくには、日々の昼寝を習慣化するのも良い手です。エジソンやナポレオンが昼寝の名手であったことは有名ですが、現代でも充分に成り立つ手法です。昼寝は10~15分程度で目覚めるものが、起きてからの脳の働きも良くなっているという研究もあることから、長く眠るよりは「短い時間、脳のスイッチを切る」といったイメージのものがよいでしょう。そこまで時間が取れない場合は、5分でもよいので、静かな場所で目を閉じているだけでも脳の機能が回復していきます。

もちろん仕事をしていれば、寝食忘れて取り組まないとならない時期もあるでしょう。

多少のことであれば、脳も身体も受けたダメージを修復してくれます。しかし、それが習慣化すると、修復不可能なダメージを受けてしまうことになりかねません。

睡眠時間が惜しい、と思ってしまう方には、持続可能性を上げるための「必要コスト」として計上するくらいの考えをもっていただきたいと思います。

枝川義邦氏(えだがわ・よしくに)
早稲田大学研究戦略センター教授(早大ビジネススクール兼担講師)。1969年生まれ。98年東京大学大学院薬学系研究科博士課程修了、博士(薬学)。2007年早大学ビジネススクール修了、MBA(経営学修士)。同年早大学スーパーテクノロジーオフィサー(STO)の初代認定を受ける。脳の神経ネットワークから人間の行動まで、マルチレベルな視点による研究を進めており、経営と脳科学のクロストークを基盤とした執筆や研修も行っている。著書に『「脳が若い人」と「脳が老ける人」の習慣』(明日香出版社)、『記憶のスイッチ、はいってますか』(技術評論社)、『タイプが分かればうまくいく!コミュニケーションスキル』(共著、総合法令出版)など。

(代慶達也)

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