2016年上期ヒット デフレを味方、インスタで見せる
インスタグラムの台頭、ど定番の新展開――。2016年上半期は、高まる節約志向のなかで、メガヒットこそ少なかったが、「その手があったか」と驚かされる新機軸の商品が目立った。
デフレの逆風を吹き飛ばせ
消費者の「デフレマインド」をうまく刺激して、したたかに消費者の財布のひもをこじ開けたヒット商品の好例が、味の素の「お肉やわらかの素」だ。
節約食材として特に人気の高い鶏ムネ肉は、うまく調理しないとパサついておいしくない。だが、家計を考えるとなるべく使いたい。そんな家庭のジレンマを見捉え、「鶏ムネ肉が劇的にジューシーに仕上がることに絞って、テレビCMで訴求した」(味の素新領域開発グループの小川聡専任課長)という。
酵素が肉の繊維をほぐし、繊維の隙間に入った細かいでんぷんが肉汁を抱き込むことで、普段ならパサつく鶏ムネ肉もジューシーになる。果物などに漬けて肉を軟らかくするには数時間かかるが、この商品なら5分で済む。
「おいしい節約」の提案が功を奏し、たった1品で年間10億円規模の売り上げをたたき出す勢いだ。
アサヒビールが16年4月に投入した「アサヒ もぎたて」は、、高アルコールですぐ酔える缶チューハイ。目標を早々に上方修正した。24時間以内に搾汁した果汁を売りに、キリンの「氷結ストロング」や、サントリーの「-196℃ストロングゼロ」に対抗する。
まるか食品の「ペヨングソースやきそば」は主力商品「ペヤング」の廉価版。容量や具材が少なくなっており、30円ほど安い実勢価格。話のネタとして買われ、品薄になった。
今後は「200円カレー」を提供する激安外食チェーン「原価率研究所」も全国に広がり、人気を博しそうだ。水や紙ナプキンすら提供しない徹底的なコスト削減で、激安を武器に全国展開を進めている。
「インスタ」で見せる買い物
TwitterやFacebookに代わって急速に消費への影響力を増したのが、写真共有サービスの「インスタグラム」。若い女性を中心にスタイリッシュに撮影できそうな素材を求め、写真で"見せる"ために買う動きが出ている。また、写真ベースで若い女性のリアルを確認できるため、商品開発に生かそうとする動きも本格化している。
輸入生活雑貨店のプラザでは、クリーム状の「マシュマロフラフ」が、入荷のたびに売り切れた。ふんわり食感でパンに塗るとおいしい。パンを白いキャンバスに見立て、フルーツなどでデコれる商品で、写真栄えするためインスタ女子が反応した。
これに続きプラザは、フルーツや野菜、ハーブを水に漬けて、自然なフレーバーと見た目のおしゃれ感を楽しめる「インフューズドウオーター」に注目。果汁を搾るスクイーザー付きの専用ボトルを16年4月に発売し、拡散を狙う。
インスタグラムは、商品開発の重要なツールとしても機能し始めた。例えば、アックスコーポレーションが6月に発売する「付箋ノートが作りやすいふせん」。色とりどりの付箋を貼ってノートを「作品」のように飾り、写真共有する女子学生のブームを捉えて開発。幅7mm間隔のA罫ノートのケイ線にぴったり合う新サイズで、付箋ノートの完成度がより高まる。こちらも今後の注目株だ。
「ど定番」が始めた新展開
また、上半期は大型の新商品が少なかった一方で、ロングセラーが異例の新展開で奮起した。キリンビールは主力の「一番搾り」で、47都道府県ごとに味わいが異なる地域限定商品を16年5月から順次発売。確定したエリアの事前受注は計画の約2倍に膨れ上がり、店頭では「通常の一番搾りに上乗せして地域限定品が売れている」(ドン・キホーテ)という。長年親しまれた味わいの殻を破って「地元愛」に訴え、新規ユーザーや飲み比べ需要を獲得した。均質な味づくりをしてきたビール会社にとっては、極めて異例な取り組みだ。
サンヨー食品も乾麺の「サッポロ一番」ブランドを活用。15年の鍋つゆセットに続き、焼き肉のたれセットを16年2月に発売。夕食で袋麺を食べる頻度を上げる狙いで、徐々に受け入れられそう。「BBQなどでも使え、これから期待の商品」(日本アクセス)
「RIZAP GOLF」は「結果にコミットする。」とうたうパーソナルジムのRIZAPブランドを生かした新業態。専属コーチの丁寧なサポートでスコアアップが可能だ。
華麗なるデュアルライフ
「手間」を巡って対照的なトレンドがある。「手間いらず」の代表格が、シャープの無水調理ができる電気鍋「ヘルシオ ホットクック」。材料を入れてメニューを選ぶだけで、簡単に料理が作れる。2015年11月に発売。無水カレーからおでん、ヨーグルトまで、対応メニューが多彩。火を使わずに調理できるため、シニア層からの支持も集めた。
一方、嗜好性が高い分野では、あえて「ひと手間かける」動きも。コールドブリュー(水出し)コーヒーに関心を寄せる人が増え、専用器具が夏に向けて売れそうだ。日本でも、「抽出の手間や時間がかかっても、おいしいコーヒーを飲みたいという人が増えた」(ロフト)といい、夏場の注目株になりそうだ。
(日経トレンディ編集部)
[日経トレンディ2016年7月号の記事を再構成]
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
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