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私を変えたMBA

「人生で初めて必死に勉強した」タクシー王子の原点 川鍋一朗・日本交通会長に聞く(上)

2016/6/13

川鍋一朗 日本交通会長

 スマートフォンでタクシーを呼べる配車アプリの普及や、世界各国でお金を取って自家用車で人を運ぶライドシェアの登場など、日本のタクシー業界を次々と襲う“黒船”。だが、それを逆手にとって改革を推し進める経営者がいる。日本交通の川鍋一朗会長(45)だ。創業者一族ながら、人呼んで「業界の革命児」。育ちのよい3代目から戦う経営者へと川鍋氏を変えたのは、米ビジネススクールへの留学だった。

■子供のころから、「お前が3代目だ」と周りから洗脳され、育った。

 創業者である祖父は、私が物心ついたころから、「お前が跡取りだ、お前が3代目だ」と私に言って聞かせました。周りの大人にも、会う人ごとに、そう私を紹介。正直、跡取りとか、3代目とか、意味はよくわかっていませんでしたが、大人になったら日本交通の社長になるんだということだけは、幼心にもなんとなくわかりました。

 早世した父は、家に人を呼んでパーティーを開くのが好きでした。ゲストには外国人も多く、英語を話す父を見て、そうか、社長になるためには英語が必要なのかと思い、将来は米国に留学しようと決めました。

 大学は、内部進学で慶応大学に進学。体育会スキー部に入り、勉強は適度に体育会活動に打ち込みました。その間も、社長になるには何が必要かいつも考えていたので、リーダーシップを学ぶためにスキー部の主将になろうと心に決め、実際、4年の時に主将を務めました。

 経営学修士(MBA)を取ろうと決めたのは、大学1年の時です。尊敬する体育会テニス部の主将が、「一朗君、僕はね、卒業したらMBAに行くんだ」と。なんてカッコいいんだと思い、自分も卒業後はMBA留学しようと決めました。MBA留学すれば、経営の勉強と同時に、社長に必要な英語も学べる。MBA留学は自分のためにあるんじゃないかと思ったほどです。

 米国のビジネススクールに入るためには、英語力とビジネスの経験が必要だと考え、大学卒業と同時に、当時米カリフォルニア州にあった日本交通の関連会社に就職。働きながら、留学の準備を進めました。ただ今振り返れば、仕事といっても、周りから見ればしょせん「オーナーの息子のご遊学」。仕事の厳しさは、経験できませんでした。

■2年後、ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院に入学した。

 せっかくビジネススクールに行くなら、やはりトップ校に行きたい。そう思い、当時、全米1、2位の評価を受けていたノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院を第一志望にしました。

 チームワーク重視の校風も自分の好みでした。ケロッグは、チーム作業こそが現実のビジネスの姿に近いとの考えから、授業でも、数人でチームを組んで課題に取り組むグループワークを重視しています。入学試験でも、普通のビジネススクールではまずやらない、志望者全員に対する面談を実施。この人となら一緒に働きたい、一緒にビジネスをやりたいという視点で、志望者をふるいにかけるのです。当然、最低限の学力は必要ですが、そこから先はパーソナリティーを重視するのが、ケロッグの方針です。

 授業はイメージ通りでした。グループワークでは、まず何よりも、自分がチームに貢献するんだという姿勢を持つことが非常に重要だということを学びました。常に献身的に働けば、自分に対するクラス全体の評判が高まり、別の授業で新たにグループを作る時に、みんなから声が掛かります。逆に、チームの和を乱したりする人は、なかなか声が掛からず、チームを作るのにも一苦労。セルフブランディングは大切だと実感しました。

■やればできるという自信が付いた。

 イメージと違う点もありました。入る前は、ビジネススクールは勉強するところだと思っていましたが、実際に入ってみると、それだけではないということがわかりました。勉強も大切ですが、それと同じくらい学生が力を入れるのが、就職活動。みんな転職するためにビジネススクールに来ているので、中には、授業をさぼってでも採用面接を受けに出掛ける人もいます。もう一つ大切なのが、授業外の自主的なクラブ活動、俗にソーシャルと呼ばれているものです。

 私も、Asian Management Associationsというクラブに入り、副会長になって、アジア各国の文化をテーマにしたパーティーを企画・開催するなど、アジアの文化を発信する活動を積極的にしていました。こういった活動のほうが、今振り返ると、意外と授業よりも記憶に残っていたりします。

 私の場合は、就職は関係なかったので、ソーシャルもやりつつ、勉強に力を入れました。内部進学で大学まで進んだので、それまで人生の中で、必死に勉強したという経験がありません。必死に勉強したら自分はどこまでやれるのかという興味もありました。

 その結果わかったのは、自分はちゃんと勉強すればそれなりにちゃんとできるということです。1クラス40~50人の中には、自分から見て、けた外れに優秀な人も何人かいましたが、逆に、いつもちぐはぐなことを言っている人もいる。自分はちゃんとその間に入っていたので、世界中から集まってくる優秀な学生と比べてもそんな大差はない、やればできるという自信が付きました。

インタビュー/構成 猪瀬聖(ライター)

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