ハーバード留学で他流試合GEキャピタル社長兼CEO 安渕聖司氏(上)

金融のスペシャリストとしてのキャリアを歩んできたGEキャピタルの安渕聖司社長兼CEO(58)。その経歴は、三菱商事時代に留学した米ハーバード大学でのMBA取得によって、一段と輝きを増した。そんな安渕社長がビジネススクールで学び、今でも実践しているというハーバード流キャリア術とは。

「世界を舞台に活躍したい」が子供のころからの夢だった。その夢をかなえるべく、早稲田大学を卒業後は、三菱商事に就職した。

就職活動は、海外で働く機会と海外留学制度のあるところという2つの条件を満たす会社に絞り、最終的には三菱商事に決めました。商社なので、新入社員はだいたい営業を希望するんですね。私も食料部門に配属になったので、食料品の営業かなと思いました。ところが実際には、食料部門の予算や決算、事業投資先などの管理の仕事だったのです。3年後、仙台にある東北支店に転勤になりましたが、そこでも担当は経理財務でした。

でも、海外に出たい海外で働きたいという希望はずっと持っていましたので、その間も、会社にそう言い続けていました。すると入社7年目に、財務の担当としてロンドンへの転勤を言い渡されたのです。

ロンドンでは仕事柄、シティ(金融街)の金融マンと付き合いがありました。ゴールドマンサックスやモルガンスタンレーなど、世界に名だたる金融会社で働く金融マンたちです。その中には、MBAホルダーもいました。彼らは非常に頭がよく仕事も効率的にこなすというのが、私の抱いた印象です。また、M&Aを手掛けているような人は、金融界に身を置きながら産業界のことも熟知していて、いろいろな角度から物事を見ることができる人たちだなと感心しました。

シティで世界の金融マンと接するうち、海外留学への思いが再び強まった。

社内の留学制度に応募するにはすでにぎりぎりの年齢でしたが、周囲の励ましもあり、応募を決意しました。無事、社内試験に受かり、米国のビジネススクールを4校受けました。第一志望のハーバード大学から合格通知が届いたときは、非常にうれしかったですね。ただ、入学時の年齢は32歳。留学生としてはかなり年長組でした。

ハーバードを選んだ理由の1つは、いわゆるケーススタディをやってみたかったからです。それまでやったことのないやり方で学べば得るものも多いだろうと考えました。

また、ハーバードは非常に難関といわれていたので、どんな人が学生として来るのだろうという興味がすごくありました。私は、普段から言っているのですが、ビジネスパーソンとして成功するためには、他流試合の発想が必要だと思っています。会社の中でいくら評価されても、それをどこまで信じて良いのかわからない。例えていうなら、道場の中で一番強くても、江戸にはたくさんの道場があるので、ほかの道場にもっと強いやつがいっぱいいるかもしれないということです。ですから、若いころからなるべく外に出て、自分の実力を試す機会を作りたいと思っていました。

ロンドンでの経験も大きかったと思います。シティで働くMBAホルダーの人たちを見て、こういう人たちと一緒に、あるいはライバルとして働くには、一度、社外の基準で自分を評価してもらうことが必要だと思いました。例えばハーバードでちゃんとやっていければ、シティのような場所でもやっていけるだろうし、その逆もあり得るわけです。要するに、ハーバードで自分を試してみたかったわけですね。

しかし授業が始まると、試すどころではなく、最初は大変だった。

中学から英会話学校に通っていましたし、ロンドンにもいたので、英語は問題ないと思っていました。ところがそうはいきませんでした。最初の授業の時です。元経営コンサルタントという女子学生が、教授に指されて答えたのですが、これが15分ぐらい理路整然としゃべり続けるわけですよ。まずいところに来たかもしれないと思いましたね。また、授業中に議論が白熱すると、みんな非常に早口になるんですね。聞いたことないくらいのスピードで英語をしゃべるんです。これについていくのはなかなか大変で、最初は焦りました。

私もロンドンでは、外国人と英語でごく普通に仕事をしていましたが、実は彼らは、英語がネイティブでないわれわれと話す時は、自然とゆっくりした口調になっていたのです。ハーバードに来て初めてそのことに気づきました。とにかく、英語にはそのスピードに慣れるまでは苦労しました。

勉強も大変でした。ハーバードは、どの授業もすべてケーススタディの手法で学びます。1週間で13ケースをこなすのですが、1つのケースを読みこんで答えを準備するのに3時間ぐらいかかります。3ケースをこなす日は、前の日に最低9時間は準備に費やさなければなりません。また、毎日スタディグループがあるので、さらに2時間余計に準備に費やします。自分でちゃんと準備したつもりでも、授業でいきなり指されたらどうしようかという恐怖心も常にありました。

ハーバードのビジネススクールが大変だといわれる理由の1つは、どの科目でも必ず、学生の10%に不合格(カテゴリー3)がつくことです。3を一定以上の科目でもらうと退学になります。毎年、全学生の数%が1年の終わりに退学になっています。一定以上の点数を取っても、相対的に下位10%の学生には自動的に3がつきます。ハーバードでは、学生の間の競争意識が強いのは、そういった理由からです。また、成績の40~60%はクラスでの発言点ですし、毎回の授業はコールドコールといって、教授が学生の一人を突然指名して質問するところから始まります。なかなか楽をさせてもらえないシステムになっているのです。

インタビュー/構成 猪瀬 聖(フリージャーナリスト)

[日経Bizアカデミー2014年1月20日付]

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