目覚める「地元発」グッズ アイデアや技術力に光
下町の底力@東京■
東京都北区にある中村印刷所の「方眼ノート」。どこを開いても中心の「のど」側が膨らまず、平らになる。手で押さえなくてもきれいに開き、コピーをしても中央に影が映らない。2014年10月の発売後、一向に売れずに在庫の山になっていた。それが突然、今年になって注目を浴び始めた。
きっかけは、製作者の男性の孫娘がツイッターに投稿した元日のつぶやきだ。「うちのおじいちゃんノートの特許とってた」と写真付きで投稿したところ、爆発的に拡散。注文が殺到し、製造が追い付かない状態になった。「東京にこんなすごいものがあったとは」と、下町工場の底力が再認識された。
自虐の先に@埼玉■
埼玉県民の心をとらえてブレークしたのが、「このマンガがすごい! comics 翔(と)んで埼玉」(宝島社)。魔夜峰央の漫画「翔んで埼玉」を約30年ぶりに復刊したもので、発行部数55万部を超す異例のヒットになった。
「東京で埼玉県民が虐げられる」という衝撃的な内容にもかかわらず、3割が埼玉県内、つまり"地元"で売れている。「単にけなしているのではなく、愛が感じられる」(同書を担当した宝島社の薗部真一氏)ことが響いた理由の一つ。続けて薗部氏は、「今やどの地域も均質化し、地元愛や自分のアイデンティティーを再確認する手段を探している」という。『翔んで埼玉』は刺激によって、人々の心に眠る地元への思いを呼び覚ますきっかけになったようだ。
顔まで温泉@静岡■
「顔まで温泉につかりたい」という声から生まれたフェースマスクが、静岡県内の旅館を中心に売れている。アール・ケイ・ケイ(静岡県沼津市)が販売する「フェイ・スパ」。おけに入れた温泉に浸し、軽く絞って顔に当てるもので、繰り返し使えると評判だ。綿100%素材で、表面はタオル生地、顔につける裏面はガーゼ生地を使用。生産体制を強化し、全国への展開も進めている。
削り尽くす@大阪■
町工場が作る鉛筆削りが売れに売れている。中島重久堂(大阪府松原市)の「TSUNAGO」。短くて握りにくくなった鉛筆を削ってつなぎ、一本に加工する。「もったいない」という思いを子供に伝えられると評判だ。昨年1月にネットで予約が始まり、同5月には東急ハンズで販売を開始。注文が殺到して品薄になった。今でも作れば売れる状況が続いている。
防水デニム@岡山■
国産ジーンズの発祥の地ともいわれる岡山県倉敷市の児島地区でも斬新な商品開発が進んでいる。フッ素樹脂加工を施し、撥水(はっすい)性を高めたジーンズが、クラウドファンディングサイト「Makuake」で支持を集めている。開発したのは、児島ジーンズを展開するフック社長の川染秀光氏。バイクで雨にぬれるのを避けたいと考案した。汚れにくく速乾性も高い。今年10月ごろには一般販売も検討している。
超大型新人@高知■
平均年齢67歳超の"お爺(じい)ちゃんアイドル"「爺-POP from 高知家 ALL STARS」が高知県から誕生した。YouTubeで2月に公開されたプロモーション動画「高齢バンザイ!」は、わずか2週間で30万再生を突破。無名の新人としては異例の人気ぶりで、3月には音楽配信もスタートした。
鉄分多め@福岡■
「ネジチョコ」も、作り手の地元愛が消費者に伝わって売れた好例だ。"鉄の町"北九州市を盛り上げようと、地元の菓子店、グラン ダ ジュールが試行錯誤の末に作り上げたネジ形のチョコ。実際に締められる精巧さが評判になり、品切れが続出するほど人気になった。地元のファンが出張へ行く際に手土産として持参するなど、"伝道師"となって全国に広がった。
(「日経トレンディ」7月号の記事を再構成。文・森岡大地)
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