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働くシニア、雇用保険の利点拡充 年金減額には注意

2016/6/5

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5月中旬、政府は高齢者も働きやすい社会を目指し「ニッポン一億総活躍プラン」をまとめた。政府方針を映して最近、60歳以降に働く場合の各種の「ルール」は様々な変更が加えられている。失業時の安全網拡充など利点も多い半面、年金をもらいつつ働く人は年金減額を招く可能性のある変更もある。長く上手に働き続けるために新たな制度の基本をまとめた。

「雇用保険の世話になるかもしれないとは想像したことがなかった……」。東京都内の住宅設備会社で倉庫管理係として働く75歳の男性Aさんは話す。60歳で定年退職した後、70歳のときに今の会社に入った。

現行の雇用保険制度では、65歳以上の人が新規に雇用された場合、雇用保険には加入できない。だが来年1月からこの制限がなくなり、Aさんのような人も雇用保険に入ることが可能になった(図A)。

雇用保険には、週20時間以上働き、31日以上の雇用が見込まれる人が加入する。65歳以上の加入者が失業した場合、賃金の50~80%の最大50日分が支給される。「高年齢求職者給付金」という。

■介護休業に支給

この給付金をもらえる機会が制度変更により増える。現行で支給は1回に限られるが、来年から回数に制限がなくなる。仮に失業を繰り返したとしても、求職活動をするたびに給付金を受け取ることが可能だ。

高年齢求職者給付金は、受け取っても年金に影響しない点も知っておきたい。65歳未満で厚生年金をもらっている人が失業給付(基本手当)を受けると年金が停止されるが、65歳以上の人はその心配は無用だ。

今回の改正ではもうひとつ高齢者にとって大きな変更点がある。「介護休業給付金」だ。家族を介護するために会社を休業した場合、一定額が支給される仕組みで、来年1月から65歳以上の人が対象に加わる。

高齢で働く人にとって、いつ直面するかも分からないのが配偶者などの介護。介護休業給付金は賃金の67%となり、介護する家族1人あたり最大93日分が支給される。「老々介護」の際に、家計を支える効果は大きいと期待される。

社会保険労務士の井戸美枝氏は「雇用保険による恩恵は一般の人が思うよりも大きく、積極的に加入を考えるべきだ」と話す。

雇用保険で個人が負担する保険料は現在、年齢にかかわらず賃金の0.4%(会社負担は0.7%)と低め。64歳以上に限っては、経過措置として2019年度分まで保険料は免除される。それ以降も負担はさほど重くならない見込みだ。

雇用保険の制度変更とは別に注目されるのが、社会保険(健康保険、厚生年金)の適用拡大だ。加入基準は従来、「勤務が週30時間以上」だったが、10月からは「従業員501人以上の大企業では週20時間以上、年収106万円以上」などに改まる。

変更に伴い社会保険料負担が新たに生じかねないとしてパート主婦らの間で話題になっている。もちろん高齢で働く人も、基準に該当すれば保険料負担が生じるので、自身への影響を慎重に見極める必要がある。

特に60歳以上で厚生年金を受け取っている人は、大きな影響を受ける可能性がある。年金の保険料負担が生じるだけではない。60歳以上で厚生年金に加入して一定の収入を得ると、本来もらえるはずの厚生年金の金額が減るためだ(在職老齢年金)。

年金減額の影響は一般に、厚生年金の基本月額が高めの人ほど大きい(表B)。例えば、65歳未満で基本月額が20万円の人では、月収が10万円だと、実際に受け取る年金は月19万円と1万円減る。

どれほどの高齢者に影響が及ぶのか。厚生労働省の推計では、新基準で加入予定の約25万人のうち約5万人が60歳以上か20歳未満の国民年金非加入者だ。60歳以上の比率の方が高いとみられ、最大で数万人規模の高齢労働者に加入の可能性がある。さらに500人以下の企業でも労使が合意すれば適用拡大する改正法案も国会提出済みだ。

社会保険料は労使折半であるため企業の求人にも変化が出かねない。就業支援を手がける、東京しごと財団(東京・千代田)は「今のところシニアの求人に影響はみえないが10月にかけては未知数」という。社会保険への加入を避けるために業務をより短時間化するといった動きはありうる。

■就業規制を緩和

もっとも、井戸氏は「労働時間を短くするのは労使とも限界がある。個人としては年金と収入の額をきちんと試算し、トータルの手取りを極力減らさない働き方を改めて考えた方がいい」と助言する。

どんな立場で働くかについても考えたい。政府は16年度から65歳以降の継続雇用などに対する企業支援を拡充し始めている。定年後も当面、同じ職場にとどまりやすい環境となるが、支援が途切れた後を含めて見据える必要がある。

高齢者の働き方にかかわる制度変更は他にもある(表C)。60歳以上は人材派遣期間の上限がなくなったり、各地のシルバー人材センターの派遣や職業紹介は従来比2倍の週40時間までの労働が認められたりといった変化だ。各制度を点検し、働き方を早めに定めることが安定した職を得る第一歩になる。(堀大介)

[日本経済新聞朝刊2016年6月1日付]

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