アムールトラ2頭誕生! 歴史的な繁殖大作戦(上)
今年の春も気候が安定しませんでした。ゴールデンウィークの大雪に始り、中旬には30度を超える猛暑が続いたりと、落ち着かない春でした。さてこれからの初夏はどうなるのでしょうか。
そんな中、4月8日に生まれたアムールトラの子2頭が元気に成長しています。先日性別が判明しました。オスとメスでした。もう少ししたら1回目のワクチン接種です。母親のザリアの子育ても堂々としたもので、すっかり母親が板についてきました。無邪気に転げ回る子供たちと、そっと見守るザリアの姿を皆さんに見てもらえる日も近づいてきています。
旭山動物園でのアムールトラの飼育は、3代目になります。昔の5歩歩いたら壁にぶつかるくらいに狭い檻の古い施設で初代「ハチ・ノーヒメ」ペア、2代目は古い施設から1999年(平成10年)に建設した現在のもうじゅう館に引っ越した「いっちゃん・ノン」ペア。
ノンは現在20歳です。足腰も弱ってきましたがまだまだ健在です。実はこの4頭は全頭人工保育、ヒトに育てられた個体でした。一般的に人工保育の個体は、その動物としての学習やコミュニケーションをとっていないために同居はできても交尾ができなかったり、出産しても育児ができなかったりと言った問題が起こることが多いのです。
人工保育はテレビ番組ではお涙ちょうだい的な扱いで紹介されることが多いのですが、ペアリングから出産に至るプロセス、出産・育児のための環境整備など、どこか根本的な飼育の失敗を意味する一面があることを忘れてはいけません。
初代も2代目のペアも交尾ができませんでした。メスに発情は来るのですが、お互いに特にオスがどのようにメスにアプローチしていいのかが分からないのです。
ネコ科動物の発情、交尾はかなり荒々しくて、発情をむかえたメスは興奮してオスにすり寄ったかと思うと突然爪を立てたりといった攻撃的な行動を見せます。オスはそれにひるまずメスの首筋を噛み押さえ込むように交尾をします。
人工保育のオスは、メスの攻撃的な愛の表現をただ攻撃としか受け取れずに、「ごめんなさい」と退散してしまいます。むしろメスが発情をむかえるとできるだけ距離をとりたがるようにさえなってしまいます。
2代目の時は人工授精に取り組みました。人工採精、精液の凍結保存の技術などさまざまな知見を得て、数回の人工授精を試みましたが、妊娠には至りませんでした。
もっとも出合からの一連のプロセスを得ず、麻酔下で妊娠して、仮に無事出産しても母親になる母性が目覚める確率はとても低いと考えられ、また人工保育となる可能性が高いと思われます。
ただ、どんな状況であれ今生きている命は皆何千万年も途切れずに命のリレーを続けてきたからこその命です。どんな形でもまず命を途切れさせないこと、命を使い捨てにしないこと、それはヒトのエゴで自然から命を持ち出し、「飼育」している動物園がしなければいけない、預かった命への最低限の責任でもあると思います。
人工保育、人工授精、全面的に賛成ではないですが一つの選択肢ではあると思います。
そして3代目の「キリル・ザリア」です。
両方共にアメリカの動物園生まれ、自然保育個体です。旭山に来たいきさつは今までの場合とはちょっと違います。
アムールトラは昨年イルカ問題で話題になったWAZA(世界動物園水族館協会)が積極的に種の保存を行う重点種で、近親交配をできるだけ避けるペアのコーディネートと言うよりも、より積極的に現在世界中で飼育されているアムールトラの未来を考えて、新しい血統をつくっていくという視点からのペアなのです。
ですからキリルとザリアをペアとして受け入れ可能な園館を世界中から募り、旭山に来ることになったのです。
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